178、勇者様はカズクン!
さて王宮に帰ろう。
忍者さん達はジャパネオに引き上げて行った。
もう時間が遅いせいかチビリルはロイドの腕の中で熟睡していた。
「今回の件、リリアだけ連れ帰るのはお父さんに不利ですね。何か策はありますか?」
アレスがロイドに聞いた。
まさかのその呼び名で定着!?
私はともかく、年齢的にアレスにはムリがあるのでは?
「まあ、サクラコを取り逃がしてしまった事になるので腕の一本くらいで済むでしょう」
は?
ジンノスケに続きロイドまで物騒な事を……冗談だよね?
「ロイド様!」
振り返るとサクラコだ。
あれ? ジンノスケと帰ったのでは?
「私も、戻ります!」
サクラコがロイドに駆け寄り跪づく。
「貴方はもういらないです」
ロイドが冷たく言った。
「戻ります! 私のせいでロイド様に何かあったら私は死んでも死にきれません!」
ええー? サクラコってばそんなに情熱的な人だったっけ?
なんか私サクラコの事、全然分かってなかったなあ
「ねえ、今回の事って本宮の方達はどの程度知ってるの?」
「勿論ジャパネオの者達の事は伏せてあります。ばれていたら私は全員を殺すまで帰れませんから……」
うわー物騒です!
「サクラコが私を単独で誘拐したって事になってるの?」
「そうです」
「じゃあ、私が頼んでサクラコとお出かけしていたって事ならサクラコもロイドも怒られない? あ、でもサクラコは魔族にされちゃう?」
「……出来なくはないです……私の監督不行き届きになるだけです。サクラコの魔族の件は性格に問題ありで避けられるかもしれませんが……姫様……サクラコを連れ帰る気ですか?」
「だって"誘拐したサクラコを取り逃がした"ってことよりきっと"監督不行き届き"の方が罪が軽いよね? ロイドがケガしたらマルタが泣いちゃうもん」
「それを言われるのが一番効きますね」
「じゃあ、リリアの希望を通して貰えますか? お父さん」
アレスも口添えしてくれた。
でもお父さんはおかしい。
ロイドはなぜ訂正しないのか……?
「アレスにまで言われると弱いですね」
ロイドが深くため息をつく。
「分かりました。サクラコに来てもらいましょう。ただし二つ約束して下さい。一つはアレスの事をけして口外しない事。二つ目は今回の事が落ち着いたらサクラコには出ていってもらいますよ。それでも良いですか?」
「分かりました。ありがとうございます。ロイド様!」
サクラコが嬉しそうに笑う。
ロイドが小さく"私も甘くなったものだ"と言ったがサクラコには聞こえてなさそうだった。
サクラコ、ホントにいいの?
私が言った事だけど、サクラコにあまりメリットがない。
そう思ってもう一度サクラコを見ると、すごく輝いて嬉しそうだった。
ああ、そうか、たとえ届かなくても少しでも好きな人の側にいたいのか……。
ちょっとだけ気持ちが分かってしまった。
サクラコには何とか気持ち良くロイドを諦めてもらいたい。
ゴメンね。私はマルタの味方なの。
ラブラブな人達に割り込んではいけません。
王都に入る前に装備変更で屍戦士の格好をしたアレスを見てサクラコが驚く。
「もしかして、最近見なかった"カズクン"ですか? 勇者様はカズクン!!!」
「これも秘密よ!」
私は強くサクラコに言った。
重要な秘密が漏れてしまった。
うーん。大丈夫かな? サクラコ……




