175、ロイド対戦鎚の男
あちこちで戦闘の音がし始めた。
「うわあ!」
魔方陣が発動して光を発する。
「ぎゃあ!」
また魔方陣の光だ。
あちこちで魔方陣が発動してその度に少し明るくなる。
本当にいっぱい仕掛けてあるのね。
その沢山ある魔方陣にロイドが倒した相手を投げ入れているらしい。
もう、20~30個くらい魔方陣が発動している。
そしてゆっくりとこちらに近付いて来る。
急いで忍者が報告に来た。
「ジンノスケ様、奴は全てのトラップを避けています。呪縛以外のトラップも潰されました。残ったものは半数です」
「何だと? 全員ここに集めろ、一斉に攻撃を仕掛ける」
やっぱりロイドにはこのトラップは全く効果がなかったか。
白い鎧の戦鎚の男が動いた。ゆっくりと私達の前に来た。
そして向かいの暗闇からロイドが現れた。
うん、無傷。服に汚れも無いです。ホッとしてしまう。
「来たか、小僧! 魔眼の使い方が上手くなったようだな。今度はこの前のようにはいかぬぞ」
戦鎚の男がロイドに向かって言った。
この声を私は知っているような気がした。
「おや、怖いですね。この前の偽物勇者達の処刑を助けに来たのはあなたでしたか……道理で処刑部隊が全滅した筈ですね」
ロイドの両手にはトンファーが握られていた。
「小僧、武器を替えろ! 貴様の武器は双曲の剣だろう? 魔眼とか変な小細工はしないで正面から来い!!」
「嫌ですよ。私、あなたに会ったら全力で逃げると決めていたので……」
どうやら二人は知り合いらしい。
「だったら嫌でも武器を出させてやる!!」
戦鎚の男が戦鎚を振るいロイドのいる方向の地面に叩きつけた。
轟音と共に地面が割れて石や土が舞い上がり、木々が倒れた。
ロイドは後ろに避けたが、戦鎚の男の動きは思ったより速い、追撃される。
デカイ武器とデカイ身体。180越えのロイドが小さく見える。
回りの木々がなぎ倒されて森が破壊されていく。
戦鎚の男の破壊力は恐ろしいものだった。
まずい、押されている?
チビリル、チビリル! 起きて! 起きてってば!!
この騒ぎで寝てるってどんだけだよ!
起きろーーーーー!
「きゅうう~ん」
チビリルが起きる。
犬ぶらなくていいから助けて!
私の縄を切って、お願い! はやくして!!
「きゅう?」
だから犬ぶってなくていいから!!
ロイドに何かあったら、マルタはもうチビリルを二度とおっぱいの上に乗せてくれないと思うよ!
「わう!?」
はやく縄を切って!
私が捕まっていたらロイドも逃げられない!
チビリルがヤレヤレと言う感じで縄に噛みつく。
小さい口でモゴモゴする姿に一瞬和みそうになってしまう。
何とかチビリルが縄を切った。
やれば出来る子で良かった。
さあチビリル! 逃げるよ。
ところがチビリルはしっぽをふりながらロイドを見つめ始めた。
何してんの?
動こうとしないチビリルをだっこしてどさくさに逃げようとすると、
《ダメだよ、ここからが見処だよ》
やっと喋ったチビリルに止められた。
みどころ……? なんだそれ?
《もう! リリアは顔に出るから喋るなって言われてたのに、うるさくて、うるさくて! やだ!》
ええ~!? なにそれ? どう言うこと?
避けるロイドにちょいちょい忍者が仕掛けるがロイドが避けた戦鎚に巻き込まれ忍者がすっ飛ばされる。
「ああ、味方に被害が出ますよ? やめてくださいよ。戦う意思の無い者にそんな物を振り回さないで下さい……」
ロイドが避けながら喋る。
そうか、あの戦鎚の男は破壊力が凄いけれど、ロイドの方が格段にスピードが速いんだ。
黒装束の忍者達が更にロイドの避ける先で待ち構える。逃げ道を塞ぐ気?
ロイドが一人を引っかけ跳ばす。
次々に捕まえた人間を戦鎚の男の方に投げつける。
「うわああぁあ」
飛ばされた忍者が叫ぶ。
戦鎚の男が素手で忍者を受けて払う。
その時サクラコが飛び出してきた。
「ロイド様、一緒に来てください!」
短刀で切りかかった。
だが呆気なくロイドのトンファーにサクラコの手が弾かれ短刀が飛ばされた。
「サクラコお嬢様!」
次はジンノスケがロイドに切りかかる。
今度は長剣なのとジンノスケの素早い体捌きで少し遅れたロイドの頬に傷がつく。
「もういい加減にしてください。こんなに次から次へときたら危ないでしょう? 私はもう相手にしたくないので、そろそろ『彼』に任せます」
そう言ったロイドの手から何か石のような物が投げられた。
近くにいた戦鎚の男と忍者数名が避ける。
ロイドが投げた石の回りが空中で黒く固定されポッカリとした穴になる。
え? なにこれ? 召喚か何か?
召喚見たことないよ(ワクワク)
見たこと無い技(?)に周りも警戒をして後ずさる。
その穴から人が降りてきた。
バサッとマントが翻り、背には大きな剣を背負っている。
この姿は以前の夢で見たことがある。
黒い穴から着地した男が顔を上げた。
月明かりを背負い立つ姿。
あの出で立ちは間違いなく、『勇者アレス』だった。




