170、アレスの気持ち
アレスが、和くんが、行ってしまった。
私の屍戦士としていてくれたアレスもいなくなってしまった。
これは、寂しい。
いったいどれくらいで帰って来るの?
先ずはアレスのコアをはずすから、とフェルがそのままアレスの身体を預かる事になる。
ショック!!! もう私についてくる屍戦士のアレスはいない。
朝の幸せ気分から複雑気分になり今はものすごい喪失感!!
わーーーーーーーん!! アレスが行ってしまった!!
泣きたい気分だ。もう泣いてるけどね。
私はベッドでゴロゴロしながアレスをを思い出す。
アレス、アレス、いつも一緒にいてくれたのに……もう魔王とかどうでもいいから一緒にいてもらった方が良かったかもしれない。
勇者ってなに?
自己犠牲の人?
みんなの期待を背負う大変な人だよ。
勇者に憧れてはいたけど、実際に身内にいたら嫌だわ
勇者として動き出したアレスを止める事は出来ない。
勇者はカッコいい……でもちょっとくらいカッコよくなくても勇者じゃなくてもいいから一緒にいて欲しい。
何で勇者が魔王倒さないとなの?
他の人じゃダメ?
「朝起きて手を繋ぐアレスはもういないんだーーーーーー!」
「じゃあ、今繋ごうか」
!! 私の寝ているベッドの隣にアレスがいた。
あれ? 思わず固まる。
アレスは横に添い寝の状態だ。
いつからいた!!!?
「リリアが不安そうにしていたから、寄り道に来たよ」
手を絡めてきて私手を包み込む。
え? これ夢!?
いつから夢になってた?
でも夢でも何でもいい! 会えないと思ってたアレスに会えたなら……
アレスはそのまま私を引き寄せ抱き締め、ぎゅっとした。
アレスの感触に包まれた。
ああ、このまま時が止まればいいのに……。
抱き合って彼の温もりをずっと感じていたかった。
ーーーーーふと気がつく。
私、今柚子じゃない。リリアだ!!
いつもアレスの精神世界で私は柚子だったが今は小さなリリアのままだ。
「アレス、私……子供だよ?」
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「やっぱり気にしてた? でもすぐに育つから大丈夫。リリアが大きくなるまで待てるよ」
「本当に? 私ってちゃんと恋愛対象?」
「……俺の事危ないヤツだと思った? 柚子は……リリアは特別だよ」
『特別だよ』めっちゃ頭の中でリピートします。
「柚子と俺は小学校から一緒だね。」
「うん、スッゴいキレイな男の子がいるってビックリしたの。私の初恋! でも小学生の時の和くんは誰ともほとんど喋ろうとしない子で……」
「あの頃何度無視しても話しかけて来たのはキミだけだ。小学生の時はいつか"アレス"に戻ると思っていた。フェルの召喚の迎えを待っていたくらいだ。いつかきっといなくなる……だから人に関わらないようにしていた」
「でも中学で和くん変わったよね。人当たりがすごく良くなった」
「処世術だよ。あとね。全然召喚されないからあの頃はもしかしたらこのまま"和也"で生きていくかもって思ったんだ。だったらちゃんと回りに馴染んで生きようって……」
「女子にすごい人気で……見ていて苦しかった」
「俺は警戒心すごいからすべて回避してたよ。女子と二人きりに絶対ならないのは勿論、告白してくる子は必ず邪魔が入るように仕向けるんだ。ここで難しいのは絶対に自分が悪者にならないように諦めさせる。女子のネットワーク怖いからね。そして、ちょっと残念なヤツを演じて友達を立てるんだ。上手くいけば友達の方を好きになってくれる上に俺がいいヤツ評価を受ける」
「え? そんなこと考えてたの? あの頃は可愛い天然キャラだと……」
「そうだよ。生き残ることに対しての貪欲さは負けないからね。つまんない女子のトラブルは避けたかった。ハハッ……あっちの世界はモンスターは出ない平和な世界だったけど、単純じゃ無かった。それなりの苦労はあったよね。今考えると面白い」
和くん、知らなかった……黒い……黒いとこあるんだね。
「でも、俺の回避をすべて偶然すり抜ける女の子がいたんだ。もうビックリするほど……」
え?
「知ってた? 俺たち付き合ってもいないうちから付き合ってると回りに思われてたの。キミは何故かくじ運も良いから席も班もいつも一緒になる」
「私はめっちゃ嬉しくて運がいいと思っていたけど……?」
「そう、それ! 君はステータス画面とかあったら勇者より幸運値が高いと思う。タイミングもバッチリだ」
「タイミング?」
「一番驚いたのが転生で戻るときあの場に君がいた。あの時間、あのタイミングでいるんだって……もう尊敬するくらいビックリした」
「さっきから全く誉められている気がしないんですけど……ぐすん」
「そうかな? 転生にまでついてきてくれた。掛け替えのない存在だと言いたかったんだけど……」
私、とんでもないストーカーみたいだ。
そして今日の和くんはよくしゃべる。
「その上、お姫様で姫巫女? すごい引きだね」
これって"引き"なの?
ガチャ的なん?
「はは、これじゃ誉めてないみたいか……じゃあこう言おう。いつも一生懸命で楽しそうに喋って、楽しそうに食べる。そんな元気な柚子が……リリアが愛おしい、大好きだ」
食べる……。入ってますか。
思えば和くんの前で甘いものばかり食べていた。
『愛おしい』『大好きだ』この2つを頭の中でしっかりリピートします。
「だから年齢は関係ない。君が好きなんだ」
あ、嬉しい……!!!
「私も!私も、和くんが、アレスが好き! もしもアレスが17歳じゃなくて30年経ってた47歳だったとしてもアレスは"イケおじ"で間違いないから絶対に好き!! 年齢じゃないよ!」
アレスが笑った。
しかも大笑い。
「キミのそう言うところも大好きだよ!」
笑いが落ち着いてから和くんが言った。
そうだ。和くんは私の前ではよく笑う人だった(学校ではちょっとスカしている)笑い上戸の和くん。そんな彼が好きだった。
そのあと和くんは私にちょっとだけ大人のキスをした。
驚いて心臓が早鐘を打っていたが、これから離ればなれになるなら、もっと長くても良かったとか思ってしまった。
「じゃあ、今度こそ行ってくる」
と言って微笑み、消えてしまった。
うわーーーーーん!! 今度こそ行ってしまった。
でもアレスの気持ちが確認出来たので最初の不安な気持ちは消えていた。
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目が覚めた。
やっぱり夢だった。
夢だけど本当の夢。
屍戦士のアレスはいない。
まだ夜中だった。




