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162、私の和くん

 新事実。ラブラブな私達?


はっ!

「進学校だからバイト禁止じゃん!」


「気にするとこそこなんだね? 当時の柚子と同じだ……わかってたけどやっぱりリリアは柚子だね。知り合いの子の家庭教師とかだから大丈夫だよ」

アレスがくすくす笑いだす。


 こんな風に笑うのかぁ……

いつも無表情で虚ろなアレスだったのに笑えるんだね。

もう笑っているだけで感動もの! しかも笑うと何だかかわいくてニマニマしちゃいそう。



……て、

ここで気を許してもいいものか? 油断してはダメだよ。

私は気持ちを引き締めるように上がった口角を下げた。


「柚子、アイテムボックスを出して」


「私のアイテムボックス? 夢の中で出せるの?」


「出せるよ。柚子が信じれば、そこに君の記憶が入っているんだろ? この前現実で見せてくれようとしたよね? ここなら俺にも見えると思う」


「う、うん」


 私はアイテムボックスを出してみる。

元々気になっているのだから開けられるものなら開けてみたい。


 周りのカフェの景色がスッと消えた。

いきなり何も無くなってビビりまくる私にアレスが優しく「大丈夫。怖くないよ」と言い、私の後ろに立つ。


「柚子の思い出って書いてあるね。 柚子の字っぽい」


後ろから私のボックスを除き込む。


「読めるの?」

私の字?

私が書いたってこと?


「フェル達には読めなかったんだって? 日本語だからね。ははッ」

アレスがまた笑う。

爽やかだ。ロイドの笑い方と違いすぎて凄い新鮮。


「う、うん」

なんか変な感じだ。自分以外の初めて会う転生者だもんね。日本語読めて当たり前なんだ。


「さて……開け方は?」


アレスが私越しに箱をさわる。


触れるんだ! 夢の中って便利!!


あれ? なんかスゴく自然に密着してない? 近くね?


この距離は……恋人的な距離。

やっぱり私達ってラブラブなの?


いや、違う!! ラブラブじゃなくてもお父さん(ロイド)もこの距離に入ってきたことある。


 顔の良いモテ男の習性か!?

そうだよね、アレスほどカッコよければモテモテだよ。


「どうかした?」


アレスが私の顔をのぞきこむ。


う、その顔で間近で見られるのはマズイ。やめて~


「柚子、顔が真っ赤だよ」


あんたが近いからだよ!



 箱を見つめて少し考えた後にアレスが言った。


「柚子、箱の鍵なんだけど……たぶん柚子の隠している感情だと思うよ」


隠している感情?


「なにそれ? 別に何も隠して無いし……」


「そうかな? この世界はね。俺の精神世界だから何となく分かっちゃうんだ……」


「何を?」



「……柚子が今でも俺を好きって……」


アレスを好きなのは隠してませんよ。



「俺も今でも柚子が好きだよ。俺にとって君は特別に大事な女の子で……今でもそう思ってる。もう一度柚子と一緒に生きたい」



 そう言ってアレスは私を優しく抱きしめた。



 この感覚を私は知っているような気がする。




 涙がボロボロ出てきた。


切ない、寂しい、恋しい……

苦しい感情が一気に沸き上がって私を襲う。

アレスは優しく抱き締めてくれている……でもまるで心臓がぎゅっと掴まれたみたいで苦しい!


そうだ!! ずっと我慢してきたんだ。


 私はずっと我慢していた!!!!



「和くんが……和くんが好きだ。ずっと、ずっと会いたかった。ずっと……一緒にいたい! 一緒に生きていたい!!」




 涙がガンガンに出てきてもう止まらない。



 私は和くんに抱きしめられたまま号泣した。




 私のアイテムボックスが光に包まれゆっくり開いていく。


中に私の前世で使っていたスマホとよく似たものがあった。


手を伸ばしスマホを取る。


 そうだ!! 

ここにいっぱいスイーツの写真を撮った。

和くんと一緒に食べたものや、一緒に行った処、それから何でもない日常もいっぱい!!




ただ二人で一緒にいるだけで幸せだった……今はもう通りすぎてしまった大切な時間。


二人の思い出がいっぱい詰まったスマホ。

思い出の数々

私の記憶そのものが封じ込められていたように鮮明に画像が浮かびあがる。

私の宝物だった時間。

 

和くんが好き過ぎて毎日会っても足りないくらいだった。



当時の私は彼が世界の全てだった。


片思いの中学時代は同じ高校に行きたくて彼の行く高校にを探ったり、少しでも近くにいたくて下校の時間を合わせたり、涙ぐましい努力をしていた。


高校に入ってから彼と付き合える事になった時は死ぬほど嬉しかった。

人って嬉しくても泣けるんだってその時初めて知った。自然に涙が出て喜びを噛み締めた。


付き合える様になってから彼の写真もいっぱい撮った。

そんなに撮られると恥ずかしいと言われた。


 待ち受けはもちろん和くんだ。

友達に見られるのは恥ずかしいけど、全然OKだった。

彼と居られるだけで嬉しくて私の世界は薔薇色に変わる。


 スマホの中には懐かしい写真がいっぱいで私はそれを眺める。



懐かしさで涙が溢れた。

胸が熱くなる。


 もう二度と戻らない幸せな時間の宝物がいっぱいだった。

学校でも、休日でも、私達はいつも一緒にいた。


私の和くん!!


私は彼が大好きで大好きで……



彼さえ居れば何も要らないんじゃないかってくらい大好きで……


今なら思い出せる。

星降り祭りの時に思い出せなかったクリスマスイルミネーションを見に行った相手は彼だった。

あの時は思い出すことが出来なかった優しく微笑む彼の姿がハッキリ思い出せた。

私の大好きで1番大事な人。



幸せな画像を沢山見て、私はスマホを閉じた。



 今、私の隣に和くんがいる。アレスが和くんだ。

私がこんなにもアレスに惹かれていたのは和くんだからだ!


 スマホが光の粒子になり私の中に入ってきた。


もう大丈夫。スマホがなくても頭の中に思い出が入ってきた。


 私の思い出をスマホの形をイメージして封印したんだ。


 もちろん封印してしまいこんだのは私だ。





ーーーーーーーーーーー思い出した!!


 私は柚子だった。今井柚子だった。あの時まで……!




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