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160、スマホが欲しい

 ウォルター様の電撃訪問から2日後。

 三階に潜んでいたサクラコがロイドに捕まり出て行くように説得されていた。

しかしどうしてもここに残りたいと訴えるサクラコ、押問答の末あとひと月だけという条件で、今まで通りにこの宮で働く継続雇用となった。

 それ以上はサクラコが改造(?)されるかもしれない。危険なのだ。逃げて欲しい。


「このひと月が勝負です!」

サクラコがフンスとして言った。


 なんの?



 それからやっと魔包衣の材料が沢山入荷したので、私はまた赤い実の職人とフワフワを分ける職人としてフェルのお手伝いをしていた。


 鍋を混ぜたり何かを凍らせたり忙しそうなフェル。

そんな姿横目で見つつ、黙々と作業する私。

こういう作業は慣れれば得意な方だ。

 色々教えてもらえたら薬師とかになれないだろうか?お姫様からのジョブチェンジして薬師として活躍してしまう私……妄想していたらちょっと楽しくなって来た。

妄想のおかげで作業は捗り、山の様だった素材がだいぶ減っている。

 余裕が出来てきた。……のでフェルに話しかけてみる。


「ねえ、フェル。この前に話したアイテムボックスって、思い出を入れたり出来るの?」


「思い出? その発想は普通ない……すごい事考えるね。やった事ないけど『人の思い』なんて普通は無理だよね~」

 しばし沈黙して考えたフェルは言葉を続けた。

「でもどうしても忘れたいことを、ナニカ別の物にして閉じ込めてしまう事は出来そうだね~それで、その何かをアイテムボックスにしまう、と言うことは出来る……かも」


 フェルはやや自信が無さそうな返答で肩をすくめてみせた。


何かに閉じ込める?

「そう言えば何か小さいものが入ってるってロイドが言ってたっけ?」


アイテムボックスを見つめて考える。


「何かが入ってるのは間違いない。開けられないかな……」


「そうだね~ちょっと珍しいけど自分で鍵をかけちゃったんじゃないかな~?」


「鍵?」


「自分にしか分からない鍵だろうね。勿論物理的な物じゃないよ」


 私にしか分からない鍵か……


 『柚子の思い出』ってタイトルまであるってことは、きっとそのまんまなんだろうな。


前世の記憶か……


 アレスの反応が気になっていた。


私が和くんにフラれたと言ったときの反応……。


びっくりしてた。

すごく驚いていた。

そして私に避けられたアレスの様子は少し悲しそうに傷ついているように見えた。


気になる。


開けてみたいな。


 あのあと一度アレスの意識が繋がったがアレスはフェルと話すのを希望し私は話せなかった。


 まあフェルとは話すことはたっぷり30年以上だもんね。


いいんですよ。


 でも魔包衣が完成したら行ってしまうんでしょう?


 もう少し……ちょっとだけでも私に未練は無いのかな? とか図々しく思うのよね。


 私が未練の塊ですが……


 幸せだった和くんとの記憶があるのなら、私だって思い出したい。


私だけ覚えていないのは残念で悲しすぎる。


ちょっとグチグチしちゃいそう。


アレスを見る。


チラリ


………今日のアレスは静かです。


 制服のアレス、カッコ良かったな。髪もアレスより少し短いのね。スマホがあればいっぱい写真とるのに。

あんなにカッコいい人と付き合ってたのなら、柚子はそれだけでも幸せか……果報者。


 制服もだけど鎧のアレスだって相当カッコいい。

スマホが欲しい。

そうしたら思い出をいっぱい入れられるのに……



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