157、ガッカリ勇者
私はアレスに見とれていた。
いつもの包帯男も私的に充分OKだが、制服もかなりいい。癖で上にちょっとピンと跳ねている髪もかわいい。
もう全部ツボ!!!! なにこれ? すごい良い夢~!!
あれ? これはアレスだよね……?
なんか違う気もする。
「柚子、やっと話せるね」
アレスが喋った。
アレスの声が夢でも聞けるのは嬉しいけど、またユズコか!!
「また柚子って言うー! 私はリリアです!!」
あ、夢なのにめっちゃ私ってば声がでる。
変な感じ。
「覚えてないのかな? まあいいや、リリアね。そう呼ぶよ」
周りの風景が前世で行ったことのあるス○バになる。
目の前にキャラメルフラペチーノが現れた。
「これ好きだったよね?」
アレスが私に渡してきた。
え? 本物?
受け取って飲んでみる。
そして冷たいのも分かる。
旨い!!
キャラメルだ、久しぶりの美味しさです。
「これ本物!? どういう事?」
「ここは精神世界かな。俺の記憶がハッキリしてる物はこの世界では本物になる」
え? なにそれ、スゴくない?
良い夢だな。
「座って話そうか」
いつの間にか椅子がある。
夢って便利だ。
椅子に座った。
なんだかいつもの夢と違う。すごくリアルに感じる。
「これって夢だよね?」
思わず聞いてみたが夢の中で夢かと尋ねてもねえ……
「リリアが起きたらそうなるね」
「アレス?……だよね……?」
目の前のイケメンはアレスに見える。だけど何か違うようだ。
「……君にその名前で呼ばれるとはね」
アレスが寂しそうに笑う。
「違うの?」
「外では10年以上経ってるんだって? 驚きだよ、時々外が見える事もあったけど自分では動けない。ずっと閉じ込められて苦しかった……何が起きてるのか全くわからなかった。この精神世界はやっと造れるようになったんだ。それまでは時間も空間もない、酷いもんだ」
「アレス……?」
「その名前は前世の名前だ」
「前世?」
「今の俺は成瀬和也だよ」
は?
「今度は和也からまたアレスに戻されそうだけどね」
はあ? 誰だお前!?
「そんな顔されると傷つくなあ、柚子? 俺の事本当に分からないの?」
え? 私どんな顔してたん?
俺の事分からないかって何だよ? アイドルかなんか?
私はお店のガラスに映る自分の姿を見た。
そこには黒長子が映る。
げ、黒長子!?
ありゃ!!? 私が黒長子か!?
「これが……これが柚子?」
ガラスに映る自分を確認する。
私ってこんな顔だった?
そもそも名前って"柚子"だった?
そんな名前だっけ?
名字は?
わからない! その辺の記憶が無い!
どうして!?
えっと……私がユズコか……
アレスが"ナルセカズヤ"? ……カズヤ……?
「カズクンか!?」
アレスを指差して叫ぶ!
「そうだよ。思い出した?」
前世の大失恋の相手かよ! もう二度と会うことは無いと思っていたのに、今さら和くんがアレスとか許せない!
アレスは私の心のオアシスだったのにどうしてくれるんだ!
私のアレスを返してくれ!
私は椅子を立ち上がり後退りした。
和くんと関わってはいけない。すごく悲しい目にあった気がする。そんな本能のようなものが働く。
「ひどいな……その避け方……」
和くんがぼやく。
くうーーーーーーーーーーーー!!! どっちが酷いのか!
私のアレスがいなくなってしまったじゃない!!
勇者の中身が和くんとかじゃもうやってられんよ!!
ああ、でも今は私事ではなくエターナルのピンチ!
それを知らせて何とか勇者に復活してもらおう!
中身がガッカリ勇者の和くんでも復活してもらわないとだ。
ガッカリ……自分で言いながら、もう魂出そう。
アレスが、勇者が……私のアレスが、よりによって和くんかよ!
もう怒りしかない!
騙されて無いけど騙された!!
こんなことなら世界など滅びてしまえ!! とか……思いそうだが思ってはいけないのだ。
だってエターナルには、フェルが、マルタが、ロイドが、サクラコが、あ、おじいちゃんも、とにかくそれなりに大事な人がいる。
とくにフェルは苦節30年越えの可哀想すぎる人生だ!
救ってあげたい。




