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155、つぶれた蛙状態

 ロイドと目が合ってしまった。


私はもうただでは済まないかもしれない。


「ああ、そうだ。ちょっと前に新しい娘が入ったと聞いたよ。会わせてくれないのかな?」


 初老の紳士がロイドに話しかける。

ロイドは無表情のままだ。


「あの者は見習いとして雇いましたが、今朝クビにしたところでウォルター様が気に為さる事はありません」


クビにした!? 新しい娘って?

まさかサクラコの事を言ってる?

サクラコがいないのってクビになったから!?


「おや? 数ヶ月は雇っていたんだろう? 何だか戦闘も出来そうな優秀な娘だったそうじゃないか……この前エリザから聞いて会うのを楽しみにしていたのに……」


「あの者は思慮にかけ屍戦士を壊すなど問題がありました」


「ふうん。そうですか……ただ勿体ないですね。戦闘メイドになれそうな娘は貴重ですから……今日来たのはその娘を見たかったからですよ。優秀な娘ならすぐにでも魔族転化をと思ってね。まだいるんでしょう? もう一度チャンスをあげたらどうですか?」


魔族転化!?

ウォルター様、サクラコを魔族にしに来たってこと?


「そうですね。ウォルター様がそう仰るのでしたら考え直しましょう。しかしすぐに魔族転化はどうかと……」


「そうですね。使えない娘を魔族にしても失敗するだけで魔力も勿体ないですね。ではもう一度よく見極めて報告してください。エリザからの報告もいいのですが、ちゃんと君の顔も見せてくださいね。最近顔を見せてくれなくて寂しいですよ」


「承知しました」


「あ、そうそう失敗作の血を詰めておきました。後で運ばせますよ。そろそろ足りないでしょう? また戦闘メイドが犠牲になるのは困りますからね」


「……お心遣い感謝します」


ロイドが下を向く。表情が分からない。


「当然の事ですよ。君達は私にとって息子と娘のような存在です。君がマルタに魔力や血を分けるにも限界があるでしょう? 君はまだ人間ですから無理は駄目ですよ」


「わかっております」


そのまま奥に進んでいきウサギの耳でも会話が聞こえなくなった。


 私はどーっと汗をかいていた。


何かヤバい雰囲気が漂う。


 あのウォルター様、一見品の良い優しそうな人に見えるが、何か圧がスゴイ!?


 こんなに離れているのに圧に押し潰されそうだ。

気持ち悪くなってきた。


 私は階段の隅で潰れた蛙のようになり動けずにいた。

まずい……動けない……。

見ていただけなのになんだこれ!?


 とりあえずポシェットからキャンディを取り出し口に入れる。

隠密が解除されてウォルター様に見つかったらアウトだ。そんな気がする。

怖い。


 ロイドよりヤバそうだ。

いや、ロイドは一見いっちゃってそうな時があるだけで、それほどヤバくない。


サクラコ解雇の話も、サクラコを助ける為だと思う。


 私は何とか部屋に戻ろうと思っていたが、動けないままだ。


そのうちロイド達がまた戻ってきた。



 何かまた会話をしているが、疲労と気持ち悪さのせいなのかよく聞き取れない。


 そして玄関まで来た。

良かった、もう帰るのか……早く帰ってーーー


「そう言えば最近、大賢者様はどうしてるのかな?」

ウォルター様がロイドに尋ねる。


大賢者様ってフェルの事だよね。


「さあ、最近見かけませんね。気の触れてしまった反逆者の事など気にとめるつもりもありませんが……」


ウォルター様はにっこり笑う。

「幼い頃はあんなになついていたのに君は冷たいですね」


「私の師はウォルター様だけです」


ウォルター様は満足そうに笑った。


こうしてウォルター様は帰って行った。


私は轢かれた蛙のように潰れたままだった。











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