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154、初老の紳士

 私は階段の踊り場で匍匐前進し、階段が見える位置まで来た。


 姿が見えないのでここまでしなくても良いとは思うが、最近隠密が視えるロイドの眼を警戒しての事だ。


 ちょっと前まで楽だった。

今はロイドが意識して視ると見つかる。


 二階の廊下に私を見付けられずにおろおろしているマルタはいるが、そのうち諦めてくれると思いこのまま待機。


 暫くすると玄関に初老の上品な英国紳士のような人が現れた。



 出迎えたのはロイド、エリザ、そしてシーラとレイラだ。


 サクラコの姿は無い。


 ロイドは玄関で帰す気が満々のようだ。

中に入れようとしない。


「お忙しいでしょう」とか「お手を煩わせたくない」とか言いながらひたすら帰そうとしている。


 仮にも父の様だった人にそれで良いのか? とこっちが心配になってきた。


 しかしどう見ても優しそうな初老の紳士で魔族とかに見えない。

別に普通のおじさまで人間だよね?


「久しぶりに古巣に来たのに、寂しいことを言わないでくれ」


初老の紳士は優しい声で嗜める。


 結局、初老の紳士は中に入った。


「本日、姫様は臥せっておりますので一階のみでお願いします」


「よく熱を出す子みたいだね。体調管理に気をつけてあげなさい」


「勿論です。最近は体力作りとして、ダンスの授業を少し厳しくしております。ご心配には及びません」


「そう、まあ陛下が君に任せたんだ。信用しているよ。……あと四年だったね」


「はい、四年です。心身共に元気な姫に育てて見せます」


「フフ、姫もだけどね。君の事だよ、ロイド。陛下はすぐにでも君を魔族にしたがっている。君の素質は充分だからね。私も待ち遠しいよ」


「その件でしたら、姫の成人まで私は免除のはずでしたね」


「勿論だよ。子育てが終わるまで君は人間だ。そう進言したのは私だしね。君は素晴らしい魔族になれると思うよ。そうしたらきちんとマルタとも式をあげると良い。そう言えばマルタの姿が見えないね。何処かな?」


「……彼女は只今姫様の看病で姫様についております」


「ふうん……そうなの。残念ですね」


移動を始めた。このままでは声が聞こえなくなる。


 なんか変な話をしていた。

ロイドは魔族にされる予定だったの?

そしてそれは子育て中は延期されてる?

つまりは私が育つまでの間は人間?


 私は新年の時にロイドにふざけた質問をしたのを思い出す。


『王宮に生きた人間て何人いるの?』

『私と姫様だけです。』


あれはふざけて答えたのではなくて大真面目な話だった!?


あれ? でもマルタや他のメイドさん達は?

やっぱあれは大袈裟に言っただけ?


 ロイドを魔族になんかされたら、物凄くめんどくさい大ボスになるよ!

魔王より面倒な裏ボスになったらどうする!?


 【魔眼を操る魔神+戦闘メイド付き】

『弱点や耐性はそれぞれ違うから気をつけてね。魔眼の力で混乱するよ。攻撃によっては吸収もしちゃうよ』的な面倒な敵。

メインストーリーには関係ないけど最後のボスより強くて面倒な敵キャラ。


 アレスの為にもそれは阻止したい!!

出来ればロイドにはアレスのパーティとして一緒に戦って欲しいと思ってしまう。

勇者+執事……すごい絵面のパーティーだ。

職業【執事】って勇者パーティーに入れるのかな?

私のゲーム知識では見たことない……



 それはともかく、とりあえずもう少しだけ話を聞こう。

私はゆっくり階段を降り始めた。


ロイドがふとこちらを振り返る。


あ、ヤバい。


目が合ったわ。







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