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140、苦しんでいたアレス

「フェルお帰りなさい!」


 久しぶりに抜け道の穴を抜け、フェルの地下室へ


 留守中にも数回来たがフェルがいるのといないのではまるで違う!


「ただいま~リリア~いい子にしてた~?」


 フェルが珍しく私に抱きついた。

あれ? アレスにじゃなく?


 それからアレスに向かい

「アレス、ただいま」

と言った。


あれあれ? どうしちゃったの?

大人になったの?

いつものアレスにスリスリは……?


 するとフェルのローブの間からひょこっと何かが顔を出した。

子犬だ!!


「かわいい~どうしたの? この子!」


モフモフ~


「う~ん。本人を連れてこられなくて……分身だよ」


本人? 分身?


「フェンリルの分身だよ~」


マジ? あのでかいフェンリルさんの?

小さいとこんなにかわいいんだね。


 抱っこしてモフモフしてみる。


フェルはさっさとアレスの鎧を脱がし始めた。


そしてアレスの顔を見てうるうるし始めた。


「アレス、ごめんね。ごめんね」


急にアレスに謝り出した。


 そして鎧ではないアレスに直にスリスリし始めた。


う……それはちょっとキツイ絵面だ。


 今まで鎧越しだったからあまり気にしてなかったけど直にスリスリはちょっと嫌だ。やめて。

 別に男の子同士を否定するわけではないが、アレスにはやめて……

アレスはそう言うのと無関係だから!


「フェル、ストップ! 今までどうしてたの? 急にいなくなって心配したんだよ!」

プンプン。


「あれ?リリア怒ってる? ごめんね。そうだよね~何も言わずにいなくなったら怒るよね~」


その事は怒ってないが、今はアレスから引き離したいという私の狭い心。


「ちょっとアレスを診ながら話すね。アレスこっちに寝て」


魔方陣の描かれたベッドにアレスをのせる。

フェルが何か唱えながら、アレスの身体の上に手をかざしていく。


「……あれ?」


フェルが不思議そうにした。


「どうしたの?」


「今まで身体に魂が入って無かったんだ。わからなかったけどずっと入れなかったみたいで……ボクはこの前、ロイくん越しに見るまでわからなかったんだ。魂を召喚して身体に入れたつもりでいたのにズレていた。ボクはダメな奴だ。そんなことにも気がつかなくて……」


「でもそれが入ったの? 良かったね。」

アレスが意思を持って動いたのと関係あるのかな?


「ロイくんが来たら、もう一度確認するよ。彼の眼なら僅かのズレも見えそうだし……」


フェルが急に暗い顔をした。


「アレスは……ボクを赦してくれるかな……」


「赦すも何も、フェルはアレスにこれだけ尽くしてるじゃない?」


「違う……違うんだよリリア、ボクはボクの都合で死んだアレスを死んだと認めなかった。生きてるように見えたんだ。でもそれはニーナの時間停止魔法のお陰で、その魔法が解けたらただの死体になってしまう。だから時間停止を解くより先に魂の確認から入った。でも魂は既に無かった。

ボクは魂を取り戻し身体に定着させた。させたつもりだった。あとは時間停止を解き、背中の傷を塞げばアレスが元通りだと思った。でも何も上手くいかずにアレスを、アレスを動かす事のみに集中してしまった。

……結果、屍兵と同じ……アレスを只の屍と同じ扱いにしてしまった。アレスが苦しんでいたことも知らずに……」


「アレスが苦しんでる……?」

 確かにロイドと魂を見に潜ったときアレスの魂は真っ黒でもがいているようだった。

 苦しんでいた。

 寂しがっていた。何かを後悔し、何かを恨み、何かに絶望し

闇に囚われていたんだ。


 私はあの時の感覚を思いだし、一気に嫌な汗が吹き出てきた。

あの後、ロイドもこの話は避けていた感じで、フェルもいなくなって、私はあの時の事を思い出さないように無意識に封印していた。


 黒長子がいたとか別のものにすり替えて考えるようにしてしまったのかもしれない。


そうだ! そうだった!

アレスは苦しんでいるんだ!


私は手が……身体が震えだした。

抱えている子犬のフェンリルを落としそうになる。


「ボクは、そうと知らずにボクは……10年以上もアレスの魂を閉じ込めてしまったんだ。アレスの心を真っ黒に堕としてしまった!!」


フェルも震えて泣き出した。


フェルが声を殺し泣いている……


10年!? アレスはあの状態で10年?


その時、突然声がした。


「大げさだな~。だから気にしすぎだって言ってるだろ!」
















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