131、アレスの心は死んでいない
お昼寝の時間になりロイドがアレスを担いでフェルの地下室へ、乗り気で無いが私も付いて行く。
本当は鎧を取ったアレスを見るのが辛くなりそうなので行きたくなかったが、ロイドが"来い"と言う無言の圧力をかけてきたので一緒に来たのだ。
担いだアレスを下ろすとロイドはフェルのがらくたを漁り始めた。
「何してるの?」
「作りおきのポーションを探してます。この顔を見る度にマルタが泣くので……姫様はアレスの鎧でもはずしててください」
え? ちょっと前の私だったら喜んでやっていましたが今の私にはムリ。精神的に……
「サボってないで動いて下さいね」
う……サボってる訳ではないのよ。
でもロイドに『アレスにフラれました』とか言っても『はあ?』ってなるよね……
私はアレスに近付き、"失礼します"と兜と仮面を外した。
アレスの顔だ。いつもはこの顔にドキドキできゅんきゅんだったが、今はスゴく気まずいし罪悪感まである感じだ。
アレスの目はいつもの虚ろな目に戻っていた。
昨日の顔と違う。
もしあの時アレスがいつもの虚ろなアレスのままだったら、今頃私はまだ浮かれてアレスにお熱でいただろう。
うつむいたまま固まっていると、隣にロイドが来た。
「鎧の外し方知ってますよね?」
そう言って、私越しにアレスの脇の留め具を外した。
うわっ近いよ!
最近遠慮なく私のATフィー○ドにはいってくるなあ。
あ、顔治ってる。ポーションあったのね。良かったわ。
「顔治って良かった。これでマルタも安心だね。昨日は二人に心配かけちゃってごめんね」
「ホントですね。イジケてそのままマルタの胸で寝てしまうとは赤ん坊のようでしたよ」
「え? ロイド寝てた筈じゃ!?」
「姫様の部屋で寝たりしませんよ」
そう言って頭をガシガシなでられた。
この撫で方は女の子用では無い気がする。
うーんスゴイ子供扱い。
アレスの鎧を取りロイドがアレスを診始めた。
「姫様、その箱に詰めてある新しい魔包衣を取って下さい」
「へーい」
指示された通りに魔包衣を取りに行く。
箱の中に巻かれた状態で小分けにしてある。
これフェルがひとりで詰めたんだよね?
スゴく綺麗に詰めてある。大変だったろうな。
フェル、思ったより几帳面。
私は赤い実の仕事くらいでやった気になっていたがフェルの仕事量はすごそうだった。でもちゃんと綺麗にお片付けまでして大賢者さま働き者です。
ロイドがアレスの包帯をほどきはじめる。
うわっ! BLに見えるよ!!
あ、失礼ですね! ごめんなさい。
ロイドさんはそっちではなく姉LOVEですもんね。
果てしなく妹っぽい姉。妹LOVEっぽい人。ややこし!
私は魔包衣の包帯をロイドの横に置いた。
「姫様は見ない方がいいです。後ろでも向いてて下さい」
「前にも言われたなあ……そんなにグロいの……?」
「今日は試しに背中から入れてある魔導コアでも抜いてみます。背中から手を突っ込みますが大丈夫そうなら見ててもいいですよ」
え"!? そんなことをするの!?
て言うか魔導コアって背中の傷から突っ込んであったの? 結構酷くない? ワイルドだな。
でもやったのはフェルか……他に方法がなかったってことだよね?
「魔包衣の成分が全部すっ飛んでました。昨日動いたときに大量に魔力を流して身体を動かしたようですね。昨日のアレスからは意思を感じました。でも行動は衝動的でしたね。"記憶喪失の人間が記憶が戻った時にそれまでやっていた行動を取ろうとする"そんな感じでしょうか?」
「誰かを助けるつもりだったのかな?」
「そうかもしれません……師匠がフェンリルを探しに行く前にアレスの心を黒く堕としたのは自分だと言ってました。私もアレスの魂を見に行った時のドス黒さを考えるとアレスは正気の筈ないと思ってました。光の勇者があんなに黒く染まってしまっては、と……でも昨日のアレスを見てアレスの心は死んでないと思ったのです。アレスは自分の為ではなく誰かを助けたいが為に動いていた。姫様、昨日私が離れている間にアレスに何があったのですか?」
え? なにがって……
「昨日何かあってアレスの意識がこちら側と繋がったと考えます。何がありましたか?」
なにがって……
……やっぱ……アレですか?
「どうしました?」
言えないです。
アレスにキスしてしまったコトを……




