130、考えると胸が痛い
翌朝、目が覚めるとアレスは昨日のまま椅子に座っていた。
ちょっと重力に負けて斜めっている。
やはり昨日からアレスは動けていないのか。
魔包衣を巻き直せばいいのか、他のことかもわからない。
そもそも昨日なんで急にあんな動きをしたのか……
アレス……アレスが寒がってるかもとか変な理屈をつけてべたべたしていてごめんね。キモくてイタイやつだったね。
"アレスには思い人がいた"ってロイドが言ってたっけ?
ロイドが見た女の子がどんな子かわからないけど、私はその部分が何故か黒長子に見えたって事だよね。
黒長子は何なんだろう?
夢の中では私と仲良しっぽいけど……
まさか脳内のオトモダチじゃないよね?
(私はかなり寂しいヤツだった!?)
もしアレスに好きな人がいるなら私の行動はきっと大迷惑だ。
勝手にベタベタした挙げ句、唇まで奪った女だよ!
考えただけでイタ過ぎる!!
アレスと距離を置くことにしないと……
そもそもあんなイケメンが私を好きになる筈もない。そして私は子供だから対象外もいいところだ。
そのあとサクラコがやって来て椅子に座って倒れそうなアレスを見てビックリしていた。
「姫様? カズクンどうしたんですか? 壊れたんですか?」
サクラコがカズクンを心配してくれた。
「うーん。壊れちゃったのかな? あとで治してもらうからロイドの手が空いたら呼んでくれる?」
アレスに対し物っぽい言い方で心が痛む。
でも私にとってアレスを特別なモノにしてはいけない。
今は家具の一部にでも思っておこう。
「承知しました。あの、ロイド様の顔のアザって……」
あ、サクラコも見ちゃった? あの痛そうなの。
「昨日姫様が早めに休んだあと、ロイド様がマルタさんを連れて街に行ったんです。帰ってきたらお顔にアザが! 街も何か凄いさわぎっぽかったですね。派手なお祭りがあったようですよ。私も参加して腕試しをしてみたかったです!」
王宮にいると外で何かあっても分かりづらい。
特にこの後宮は街の様子も見えない。
どんな祭りだと思ったのか?
喧嘩祭り?
腕試しで参加したかったのか……
サクラコらしい。
私はお祭りの事を思い出していた。
あの賑やかで楽しそうな雰囲気。
アレスが私から去るまで、私は幸せいっぱいだった。
夢のようだった。
あのまま時が止まれば良かった。
ちょっと調子にのっていた。恥ずかしい。
そう言えば、アレスはあの時何か言いたげだった。
実際は声にならないだけで何か話していた。
あれは何だったんだろう?
あの時のアレスは確かに私を見ていた気がする。
唇はどんな動きだった?
何だろう、あまり口を開けていない発音。動きからすると三文字くらい?
そんなもんだったと思う。
あーーーー。アレスの事を考えると胸がイタイ!!
でもアレスが何か訴えていたのなら聞いてあげたい!




