127、屋根の上の勇者と執事
どれくらい、そうしていたのか……
アレスとキス!!
出来れば意識のある人と自分の意思でしたいです。
困惑し固まっていたのだが、突然アレスが立ち上がったので私も正気に戻った。
アレスが遠くを見つめて立ち尽くす。
急にどうした?
あ、ダメだよ、顔が丸見えだ! アレスを知っている人に見られたらまずいよ。
アレスがこちらを見た。
アレスと目が合った気がした。
アレスの瞳に私が映る。
私を見た!?
唇が動いた。声は出ていない。
何度か同じように動く。
私に呼び掛けるように……
私は唇を読もうと見つめていた。
その時周りで大きな声がした。
「勇者広場で勇者が処刑されるぞーーー!」
勇者が処刑される?
一瞬にして周りがざわつき人々が動き出した。
アレスが反応した。
アレスが身軽に近くの屋根に登る。
アレスがどこかに行ってしまう?
このまま行かせてはダメだ!
「アレス!! 行かないでーーー!」
私の声は周りの喧騒で消されてしまう。
アレスの姿が見えなくなった!!
何人かはアレスの事を叫んだ私をチラ見したが皆通りすぎていく。
勇者の処刑を見に行く人たちだ。
そんな、……ずっと一緒にいられるといいね。って言ったばかりなのに……
アレスがいなくなってしまう。
人混みが一定の方向に移動している。
おそらく勇者広場に向かっているのだろう。
皆が口々に勇者の事を話している。
私はどうしていいのか分からなかった……
アレスに置いていかれた事がショックでぼろぼろ泣けてきた。
アレスを追いかけないと……でももういない、追い付けない……
アレスが、アレスが……!!
「ロイドーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
私は大声で叫んでいた!
どうにかしてほしい、助けて!!
いきなり私の脚が宙を浮く。
やや乱暴にガバッっと抱き抱えられたのだと理解する。
「こんなところにいましたか、アレスはどうしたんです?」
私はえぐえぐ泣きながら、アレスが行ってしまった方を指差し必死で訴えた。
何かを察知したロイドは
「姫様、両手で私の首に捕まって下さい、マルタはこっち」
二人を抱えて走り出した。そして勢いをつけて置いてある木箱や樽を利用し器用に屋根に登る。
この人ホントに人間なのかと思う。何か強化とかしてあるのだろうか?
私は必死にロイドにしがみついていた。
なんだかんだで頼りになる。困ったときのお父さんだ。
屋根の上で人影を探す。
あちこちに篝火があるが屋根の上は下にいる時よりもずっと暗く感じる。
暗い。私の目では見渡せない。
ロイドは屋根の上を走り出す。彼にはこの暗闇も関係ないらしい。
何かを見つけたようだ。
しばらく行くと屋根の上に誰かがいる。
暗くてわからないが、おそらくアレスだ。
ロイドが止まった。
抱えていた私達をその場に降ろす。
流石に少し息があがっている。
ロイドはアレスを見つめていた。
「何があったんですか? 彼の魔力の流れが違う……でも……」
ロイドが呟くように言った。
私達に見えないものをロイドの眼は捉えている。
「一応隠れていて下さい」
私達を煙突の裏側で待たせ、アレスに近づいて行った。
アレスに聞こえそうな場所まで近寄り声をかける。
「アレス、どうしたんだ? 戻るぞ」
ロイドがアレスに声をかけたがまるで聞こえていないようにアレスは一点を見ている。
そのさきに見えるであろう勇者広場だ。
私達も煙突の後ろから覗く。
勇者広場は明るく照らしてあり、周りが暗いせいで浮かびあがるようにはっきり見えた。勇者広場に5~6人捕らえられている。その回りに大量の屍兵がいる。そして遠くからでもそれとわかる大きさのゴーレムが何体もいた。
うわーゴーレムって初めて見た。
この世界ゴーレムまでいるのね。
感心している場合ではないけど……
広場の回りに遠巻きに沢山の野次馬がいる。
捕らえられている者の中に本物がいるのではないかという期待もあるのかもしれない。
アレスが動こうとした。ロイドが止めに入る。
屋根の上を二人が転がる。
「アレス、行くな!! わざわざお前の存在を教えてやる必要は無い!」
アレスの襟元を押さえてロイドが言った。
アレスがロイドの脇腹を蹴りつけた。ロイドが怯んだ隙に前に進む、いや進めなかった。更にロイドが足をかけたのだ。
地味な攻防が続く。
アレスが膝をついた。
「……たくっ何て危ないやつだ……」
ロイドが起き上がり、アレスを捕まえる。
「アレス、お前真っ黒の癖に捕まった偽物達を助けに行くつもりか?」
真っ黒って?
ロイドの腕を逆手で掴み、くるりと回転させ腕を外しアレスが立つ、立った所にロイドが後ろからトンファーで殴りつけた。
ちょっと待て、アレスの背中にはスゴイ傷がある筈。どこ殴ってるの!
しかも武器出してきた。
「ロイドーーー武器は卑怯ーーーー!」
私が叫んだ!
「私の心配もして下さい!」
アレスの蹴りを避けながらロイドが叫ぶ。
マルタはハラハラして落ち着かない。
そうだよね。ロイドの心配もしないとね。
ついアレスの応援をしてしまいますわ
とんでもなく泥仕合になってきた。
どうやって止めればいいの?




