126、これはファーストキスだ!!
"勇者狩り"
なんか嫌な響きだ。
「お父さん、"勇者狩り"とはなんでしょう?」
ロイドに質問する。
「勇者が復活したと噂されるようになってから行われているようですね。自分は勇者だと勝手に名乗った者や、それっぽい者を捕まえているらしいです」
「お父さん、知ってたの?」
「私に何か期待してもダメですよ。管轄が違いますし、私には何の権限もありません。お父さんは自分のお仕事だけで精一杯ですよ。下手に手を出せばこっちが危ない。本物を守るためにも大人しくしていましょう」
うーーーーそれはそうだけど、無関係の人が捕まってるんだよね?
その人達ってどうなるの?
まさかお茶でも飲んで帰れるってことはないだろうし……
やっぱりひどい目にあっちゃうの?
「どうにも出来ないことで悩んでも時間の無駄ですよ。さあこの先の篝火広場を見て帰りましょう」
ロイドが立ち上がり、後に続く。
アレスと手を繋ぎついていく。
さっきまでのお祭り気分が少ししぼんでしまった。
私は時間の無駄なんて簡単には切り替えられないよ。
広場に近付くと賑やかな音楽が聴こえてきた。
やば、切り替えられないとか思いつつ、テンションがあがってきた。
広場の中央には何組かの男女が踊ったりしている。
本当にカップルイベントゾーンだ!!
私が踊っている人達をガン見していると
「違いますよ。上です、上!」
ロイドが上を見るように促してきた。
上!?
何と空の上に篝火があった。どおりでこの辺りが一番明るいはずだ。
広場の上空に沢山の篝火だ。
全体に小さな篝火が配置され中央に、小さな篝火の集合体がある。
その形はクリスマスツリーのようにも見えた。
前世で見たクリスマスイルミネーションを思い出させた。
イルミネーション……駅前の大きなツリーを誰かと見に行った気がする。
手を繋いで二人で街を歩いた。
この街よりずっと寒くて吐く息も白いのに心は温かかった……
これはいつの記憶だったのか?
誰と見たのか思い出せない。
ぼんやりとしたイメージしか思い出せない。
イルミネーションは思い出せるのに不思議だ。
ただ幸せな温かいイメージだけが残っている。
まあ、前世の記憶なんてそんなもんだよね。
前世の記憶が在るってだけでもなんか凄いし
そんな昔の記憶よりも今です! これはスゴイ。
魔法の世界だよ。篝火が浮游してるってメルヘンかもしれない。
見に来たかいがあったかも……
異世界感を満喫させていただきますよ。
「リリア様……」
マルタがもじもじ何か言いたそうだ。
篝火の下でダンスをしている人達にチラチラ視線が行く。
ああ、そう言うこと?
「ロイド、マルタと踊ってきなよ、私もアレスと踊ってくるから……」
「……姫様、アレスと踊るのは無理では?」
ロイドが真面目な顔で言った。
「え? アレスはダンスが出来ない?」
「いえ、身長差がありすぎて姫様が振り回されるかと……」
!! そうきたか。
大真面目に何を言うかと思えば!!
「いいもん。雰囲気だけでも味わうから! ほっといてください。ロイドは早く踊ってマルタとラブラブしなよ!」
クスリと笑って
「ではお言葉に甘えて……少々お側を離れる事をお許し下さい。アレス、姫様を頼みますよ」
マルタとロイドがダンスの輪の中に入って行った。
ああ、二人は絵になるな~。
仮面をつけていても二人の美しさはわかるくらい周りの目をひいた。
皆さんが足を止めて二人に目をやり見とれている。
美しいカップルですよ。
うらやましい。
私もダンスの真似事くらいアレスとしてみたい。
でもロイドの言った通りアレスにブンブン振り回されるかも? 結構な危険?
「アレス、私とダンスの真似をして、振り回しちゃダメだよ」
アレスがどこまでわかってくれるかわからないが一応言ってみる。
私が手を出すとアレスが手を取ってくれた。
でも、かなりかがんでいる。腰を痛めそう?
周りの大人がクスクス笑って「まあかわいらしい」とか言っている。
私の事はお兄ちゃんにダンスをねだる子供に見えるだろう。
まあ、その通りと言えばその通りですよ!
私がいくら背伸びしても全く足りないし、顔の位置が遠すぎるのが悲しい。
「アレス、やっぱり抱っこで……」
アレスが私を抱き抱えた。
やっぱりお顔の近くが良い。
「踊ってるみたいにくるくるして」
無茶を言う。
アレスが私を抱えてくるくるした。
その姿は子供をあやすお兄さんだろう。
でもいいの。気にしない。気にするけど気にしない。
アレスにしがみつき回っていたらちょっと楽しくなってきた。
わあ、あやされてキャッキャッと喜ぶ子供! でもいいもん。アレスとの思い出になるの。
アレスが私の為に回ってくれる。
私だけのアレス。
来年私はもっと大きくなるし、再来年は更に大きく、もしかしたらアレスと釣り合っちゃうかもしれない? 再来年ではまだ小さくて無理だったとしても次の年もある。
「ずーっと一緒にいられるといいね。アレス、大好きだよ」
くるくる、くるくる、ーーーーーーさすがにもういいわぁ……
「アレス、もういい止まって~」
目が回った。
気持ち悪!!
世界がグルグルだ。
「そ、そこにおろして」
植え込みの影に縁石があったのでそこに座らせてもらった。
はーーーー
ちょっと回復を待つ。
気がつけばアレスが私の前にしゃがんでいる。
まるで顔を覗き込むように……
心配して見てくれているように錯覚しそうだ。
命令されなくてもこう言う動きもするんだな、と思った。
回転したせいかアレスの仮面が少しずれていた。
仮面を直そうと手を伸ばした。
周りの人はお祭りに夢中だ。踊りやカップル達、そして篝火を見ている。
そおっとアレスの仮面をはずす。
アレスの素顔が瞳に映る。
「私の勇者さまだね」
私の頭に"篝火の広場でキスをすると結ばれる"と言う言葉が浮かんだ。
アレスの顔にそっと自分の顔を寄せる。
ドキドキドキドキ……
勇気がなかった。
顔を間近にしてめっちゃテレる。
心臓壊れるかも!?
それにアレスの意思もなく勝手にするのってどうよ? 犯罪っぽいよ。よくないよね?
あきらめて離れようとした時、アレスの後ろを歩いていた人がアレスの背にぶつかった。スミマセンと言う声が聞こえた。
アレスがバランスを崩し私の方へよろけた。
!!!!
唇が触れていた。
アレスの唇だ。
私は放心していた。
アレスは動かずそのままだ。
ーーーーーーーーーーこれ、ファーストキスじゃん!!




