118、温かい女の子
「結局私は足をひっぱっちゃったんだね。ごめんね、ロイド。」
抱き抱えられたまま謝る。
身体がだるくて動かない。
ロイドが珍しく邪気のない微笑みを浮かべ私の頭を撫でた。
「そんなことないですよ。姫様のお陰で帰ってこられました。何故か姫様ばかり取り込もうとしてましたから私に余裕が出来ました」
「ひどい……私オトリだった?」
「結果的にそうなってしまいましたが助かったのは本当ですよ」
ロイドの眼が痛々しい。
両目とも出血だ。
痛そうで私が涙が出た。
ムリにこんなことさせるんじゃなかった。
「眼の出血は見た目ほど酷くないものです。痛くないですよ」
私がロイドの眼を見て泣くのでロイドが言った。
フェルは崩れ落ちたままだった。
声をかけたが何かぶつぶつ言っていて動かない。
ロイドはハイポーションを飲んで出血を止めたが、ひどく疲れた感じと眼の充血は抜けなかった。
「一度姫様と戻ります。師匠も休んで下さい。」
フェルに声をかけたが聞こえたのか分からなかった。
そのまま私は気を失った。
そしてまた寝込むことになる。
マルタや他のメイドさんから見たら私ってすぐ熱を出す身体の弱い子だろう。
ああ、やっぱりもっと体力つけないとだ。
いちいち倒れない体にならないと。
また3日ほど寝込んだ。
本当に困ったものだ。
フェルの様子を見に行きたい。
様子が変だった。
大丈夫だろうか?
熱にうなされているとロイドが様子を見に来た。
ロイドの手が額に触れた。
冷たい手で気持ちがいい。
別人のように優しかったから、フェルを見に行ってくれるように頼んだ。
ロイドは私の頭を撫でると黙って頷いた。
気が付くとアレスは翌日に帰って来ていたからフェルが連れてきてくれたのだろう。
フェルが元に戻ったのなら良かった。
アレスを連れてきてくれてありがとうフェル。
安心した私はそのまま深い眠りに着いた。
身体が重い、きっと熱のせいだ。
息が苦しい、これも熱のせいだ。
何も考えられない。
そのまま沈む感じ。
何か声が聞こえた。
誰かが話している。
この声は、フェル?
フェルが誰かと話している。
フェル、大丈夫だったんだね、
声をあげようとしたが、声が出ない。
あれ? 喋れない……なんで!?
酷く冷たくて、寒い。
寒いよ~凍えそう。
周りも見えないし何これ?
すると誰かが腰の辺りに抱きついてきた。
ぎゃ!何するの!?
変なことしないで!
「ダメだよ、ちゃんと連れていって。この為に隠し通路の穴も広げたから通れるよ」
私にしがみついている人がそう言った。
ん? これフェル?
しがみついているのもフェル?
「じゃあ行ってらっしゃい。リリアを守ってあげてね。アレス」
そう聞こえた後、周りが明るくなる。
眩しい……ぼんやり周りが見え始めた。
あ、ここフェルの家だ。いつの間に移動したっけ?
目の前に女の子がいた。
こっちを見て何故かドン引きしている。
栗毛の髪を2つに分けて縛ってある。ツインテール。
どこかで見た子。
見ているとその女の子から温かいものが出てきている。
さっきまでの凍えそうな感じが和らぐ……
苦しさや重さまで軽くなった気がした。
わあ、暖かい。あの子の近くにもっと行きたい。
良く見たら元気そうに笑うフェルもいる。
「やっぱり最後に顔を見ておこう」
フェルが私の顔に手を伸ばしてきた。
フェルがやけに小さく感じる。
温かい女の子が全力で止めに入った。
ん!? これって……さっきから何かがおかしい。
この場面ってアレスと初めて対面した時じゃない?
この女の子、リリアだよ!!
私が私を見ている。
しかもかなり高い目線の位置から自分を見ている。
この目線高さ……
アレス……?
そう思ったとたん、真っ暗になった。
闇だ。




