117、黒い闇の中
私の視界がおかしい。
人の形はわかるが誰だかわからない。
さっきまでそこにアレスが居たからアレスなのだろう。
そのうち身体の中に何かの流れがあるのが見えてきた。それは綺麗な光の流れで心臓近くの大きな光から流れている。
ただその流れは片寄っているようで上手く全身に回らないようだ。滞ったり固まったり細くなったり、一定しない。
さらにその光の奥へ行く。
深く深く潜る、その先に何かがある。
今度は光ではない。
何かがある。圧縮されてぎゅうぎゅうに押し込まれて苦しい感じだ。
その黒い固まりは不定形でぐにゃぐにゃしながら這い上がろうともがいている。
一気に気持ちが悪くなった。
何だろうこれは……?
その黒いものは憎悪の固まりのようだった。
ぐにゃぐにゃ醜く動く。触手を伸ばして引き込もうとしてくる。
何これ?ダメだ!
引き込まれるーーーーーーーーー!!?
黒い、黒い闇だ。
引き込まれてしまう!!
何かの感情ががなだれ込んできた!!
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい
孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独孤独
後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔後悔
憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ憎しみ
絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望絶望
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇
ダメだ!! ここにいてはダメだ!!
逃げなければ! こんなところにいたらダメだ!!
出口は? 出口はどこ!?
もうパニックだ!! ここどこ!
フェルは? ロイドは? アレスは?
アレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスアレスーーーーーーー!!
更に奥に落ちていく感じがした。
堕ちていく……
堕ちるーーーーーーーーーー!?
もう上も下も分からない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー??
誰かいる……?
誰か?
女の子!?
暗闇なのに何故かはっきり見えた。
その子はうちの高校の制服を来ていた!
前に夢で見た。長い黒髪の女の子。その女の子の隣に誰かいた。
黒い影が女の子にくっつきしがみついている。
その黒い影は泣いているようにも見えた。
女の子はただの映像のように動かない。
そしてそのまま闇にのまれた!!
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どこからか声が聞こえる!?
ーーーーーーーーーさま
ーーーーーーーーーーーーひーーーーーま
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー姫様!!
あ! そうだ。ロイドを引き上げるんだっけ?
ロイド? どこーーーーーーーーーーーーーー?
無事に帰らないと、ロイドを返さないとマルタがひとりぼっちになってしまう……
マルタが……
マルタが泣いている姿を思い浮かべた。
あ、さっきの黒い影が泣いていたのも、ひとりぼっちだからか……
あの黒い影はひとりぼっちで寂しくて苦しがっていたんだ。
私が怖がることは無かったんだ……。
ーー姫様!!!!
あれ?
ロイド?
フェル?
身体が浮いた!
一気に浮上だ!
ぐんぐん上がる!!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
ーーーーーーーーーーーーーー。
ぷはーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「姫様!!」
ロイドの声だ。
ロイドが私を引き上げた!
私はロイドの膝の上にいた。置いてある砂時計の砂は全部落ちてる。
今の4分だったの?
まるで何時間も経ってるみたい。
ロイドの両目が出血している。
フェルに目をやると、フェルが立ち尽くし呆然としていた。
そしてフェルの膝が折れてしゃがみこむ。
「あ、あれが、アレス……そんなバカな……」
フェルが声を漏らした。




