116、何が始まるの?
お昼寝の時間にフェルの所へ
最近の私の日課はフェルのところで30分瞑想のようなものをする。
姫巫女の踊りは神に祈りを捧げてから踊る。そしてまた祈ると言う構成だ。
まずは祈りの部分の精神統一、心を乱さず踊るためだ。
出来れば精神統一の時に神を降ろすイメージで行きたい。
私は目を瞑り呼吸を整える。吐く息を深く、深く、決して寝ているわけではない。
何か話し声が聴こえる。
ヤメテよ。精神統一乱れるじゃん。
ロイドが来ていた。
最近、ロイドとアレスの訓練? は昼間の時もある。昼間の方がマルタに気にされない。ただ、あまりいないと本宮から連絡があったら不味いし。ロイドはある程度、本宮から見張られている部分があると考えているらしい。なのでフェルの事やアレスの事は話すな、と念を押される。
そして今日もやっぱり30分らしい。
私は瞑想をやめた。
アレスが兜を取っていた。
うわあ、イケメン!
瞑想なんてやってられませんよ。
ロイドが剣をアレスに構えさせる。
フェルは二人をニコニコで見ている。
まあ、この二人が並ぶと確かに目を引くだろうけど……
「ロイド、今日は剣じゃなくてアレスを視てよ」
ずっと引き伸ばされてアレスの魂を視るってまだなのよね。
あからさまにロイドが嫌な顔をした。
「え? やりたくないの?」
「前にも言いましたが時間が取れる時に……」
「ロイくんよっぽど嫌なんだね~引き伸ばしてばかりで~」
フェルが笑って言う。
え、引き伸ばしてたの?
「師匠、嫌な予感しかしません。師匠はアレスの魂を……精神を引き上げ肉体と繋げたいのでしょうが、私は今のままアレスを強化して、出来れば勇者の力を引き出せればと考えます。」
「嫌な予感か~何が視えたの?」
ロイドは黙って少し考えていた。
「……魔包衣を巻くときに一瞬ですが意図せず視えました。あれは本当に光の勇者の魂なのか………」
「あれは勇者だよ。アレスをボクが間違えたりしない。」
フェルは真っ直ぐロイドを見つめた。
ロイドが深いため息をついた。
「わかりました。やってみますが期待しないで下さい。あとサポートを師匠は勿論ですが姫様にも……」
え、私!?
「姫様は微妙に姫巫女ですから、私が危険だったら引き上げてください」
「は? 私何やるの?」
"微妙に姫巫女"って何……?
なぜ微妙ってわざわざつけるん?
私の事は無視しフェルもロイドも準備を始めた。
フェルは予め用意していた魔方陣の設置をしている。
ロイドはジャケットを脱いでシャツを緩めた。
アレスの鎧を取らせ、上半身の包帯を取る。
「師匠、3分で!」
「ええ~、5分は粘ってよ~」
「チッ……では4分で、それ以下でも様子が変だったらすぐ戻してください」
4分の砂時計を用意。魔方陣の真ん中にアレスを寝かせた。
何だかんだでこの二人息が合っている。あっという間に用意が終わった。
何が始まるの?
私は何をすればいいの?
寝ているアレスの頭の方にロイドが行き私を手招きした。
「姫様は余計な事を考えずに私が危ない時に無事に帰れるように祈ってください。マルタを未亡人にしたくないでしょう?」
そう言って足を組んで座りその上に私を座らせた。
え? ここマルタの位置じゃない? ヤバくない? 近くない?
ロイドを見上げた。ロイドがモテるのが良くわかる。斜め下から見ても綺麗な顔立ち……さすが美しいマルタの兄、違った、弟。
私は恥ずかしさと、何だかマルタへ申し訳ない気分になる。
いや、別にドキドキしてないし……
ロイドはお父さんだし
ロイドが手を伸ばしアレスの額へ
反対の手を私の頭に置く。
アレス、これは浮気じゃないよ。仕方なくロイドのお膝にいるの。やっぱりアレスが一番だね。終わったらアレスのお膝にいくよ。
アレス、上から見てもかっこいいね。
フェルはロイドの後ろに回りロイドの肩に手を置く。
「いいな~リリアいいな~。ボクもそこがいいな~」
恨めしそうにフェルが何度も繰り返す。
「真面目にやらないなら止めますよ」
ロイドが冷たく言う。
「ふざけてないよ~一回位ボクも抱っこしてよ~」
「師匠、怒りますよ。」
「ごめーん。じゃあ始めて~」
いったい何が始まるのか……?




