115、今一番涼しい顔をしているやつが犯人
「…で私は何故呼ばれたのでしょう?」
私とサクラコの交互に確認しながらロイドが尋ねる。
サクラコも何故ロイドが来たのかわからない。
「それはね、サクラコがカズクンの中身を見せろって言うから、中身が人間じゃあないかって! (中を見せるわけにいかないでしょ。あとは任せた!)」
私ってば兄弟喧嘩で親に言い付ける子供みたいだよ。
「なるほど……姫様はカズクンの中身を見せたくない、サクラコはカズクンの中身を見たい、と言うことですね? それは姫様が断れば終わる話では?」
ロイドが冷静に言った。
「確かにそうだけど、サクラコが見習い延長になったお祝いに質問を聞くって……あ、あれぇ…?」
見習い延長祝いに質問させてって言われたことと、中見せることは無関係か……
別に断っても良かったかも……?
でもずっとアレスが怪しいとかで見張られるのは嫌だな……
ひと月も見てたとか言われたし、ちょっと嫌。
「……姫様が黙ってしまったのでサクラコに質問します。
サクラコは何故カズクンの中身を見たいのですか?
屍戦士の中が見たいのであれば、姫様のカズクンで無くてもいい筈ですね。
それともカズクンが『誰』なのかを確認したい為に中身を見たいと言っているのですか?」
「はい。誰……と言うか……生きた人間かどうかの確認です!」
サクラコがきっぱり答える。
サクラコの目的は勇者を意識したものでは無い? ただ生きてるかの確認!? でも本当かどうか分からない!
力の入ったサクラコの受け答えを誤魔化したところで疑いは消えないだろう。
「そうですか……では姫様。見せてあげましょう」
なに言ってるの!?何のためにロイドを呼んだと思ってんのよ!
ダメに決まってるじゃない!!
あのかっこいいアレスをそう簡単に拝めると思うなよ。
「ふうっ……サクラコ、姫様のお顔を見てください。姫様は心が狭いのでかなり嫌がってますよ」
ため息ついてる!?
心が狭いって、どさくさに何言ってんの?
アレスを見せていい筈無いよね!?
「サクラコ、私が言うだけでは弱いかもしれませんが、カズクンは間違いなく生きた人ではないです。
姫様が彼を見せたくないのはカズクンが姫様にとってとても大事な人だったからですよ。
もし自分の大事な人が屍戦士にされてしまったら、その後の痛ましい姿を人に晒したいと思いますか?」
うわっ、そういう展開?
サクラコが固まった。そしてはっとした!
「……姫様、申し訳ありません。まさか姫様にそのような悲恋があったとは……私が軽率でした」
サクラコが深く私に頭を下げる。
何? 悲恋? どう言う風にとったの?
「姫様を守っていた戦士が亡くなった後も姫様を守り続けている……そういう事だったんですね?」
サクラコがいい話だと思いホロリとしている。
想像力と感受性の豊かなところがあったのね。
「ま、まあ、分かってくれたならいいです」
微妙に心が痛む。
とりあえずは、これで安心かな?
でも最初からロイドがさっき言った話をサクラコにすれば丸く収まっていたってことだよ。私が"心が狭い"とかって言う件はいらなかった気がする。
なんか悪意を感じるもん。
「サクラコに納得してもらえて良かったですね。姫様」
悪意のある笑顔で言われた。
気のせい?
そう言えば気になることがまだあった。
「サクラコはカズクンが人間かどうか知りたいって事は人間だったらどうしたかったの?」
素朴な疑問。
「はい、まずは闘います!」
は!?
アレスと闘いたい奴がまた現れた!!
何それ? 『俺より強い奴と闘いたい』的なノリなの?
「姫様と常に一緒にいるカズクンこそが義兄の仇だと思ったんです」
「え? とんだ濡れ衣だよ。」
ポロっと言葉が出た。
今ここで一番涼しい顔している奴が犯人ですよ。
「濡れ衣って……姫様、もしかして私の仇を知ってるんですか?」
サクラコが食いついてきた。
「うちのカズクンはそんな事はしませんってだけだよ。知らないよ」
あ~もう! 『犯人はこの中にいる』とか言いたい!!
でもそうしたら『ロイドと闘いたい』って言うんでしょ?
もうそんな物騒なことヤメテーーーーー
「サクラコは仇を探してその者と闘いたいのですね」
しれっと犯人が言った。
「はい! 闘って私より強い者であれば国に連れて帰ります」
あれ? 殺しちゃうとかじゃなかった。思ったより平和?
あ、でも国で裁判受けさせるとか?
「サクラコは国に連れて帰りその者を罰したいと考えているのですか? 闇討ちで襲ってきた刺客達ですから自分達が返り討ちに合う覚悟もあった筈、こちらにも被害はあったのですから、それはおかしいのでは?」
うわっ犯人が自供っぽい事を言うのかと思った。
「はい! 勿論です。父の命に背いて行ったのですから義兄も覚悟していた筈です。ただ、父からの手紙でもし仇が男子で私より強い者であれば義兄の代わりに連れ帰って婿にしろと書かれていたので、私は仇を探さなければなのです」
ブフッ! 思わず吹き出した。
婿かよ!!
流石ですよ。何もしていないのに周りの女の子からモテてしまうラノベの主人公のようなロイドさん!
凄い能力だ! まさに異世界にハーレムを作る能力を秘めている!
さあ、どうする?
「他の屍戦士と相討ちだったかもしれませんし、ちょっとわからないですね。さあお喋りはおしまいです。仕事をしましょう」
ロイドが涼しい顔で言った。
うわーーーしらばっくれる気だ!!
まあ、アレスじゃなくて良かった。




