上原 華の思い
今回は華ちゃんのお話です。
ホモ好きな作者ですけど、華ちゃんは大好きです。ヤンデレ(?)だからですかね。
美味しいムシャムシャ。
好きになったのがいつから、なんて分からない。
でも、他の誰にも負けないぐらい君を愛してる。
~ 須藤 瀬利(上原 華) 視点~
ポタポタと、ナイフから血が滴り落ちる。
大好きな、大好き《 だった 》彼の血だ。
『・・・・・瀬利、なん、で・・?』
「・・・・。」
彼の最期の悲痛な声がずっと頭に残った。実行した今でも胸の中にあるモヤモヤがぐるぐる渦巻いている。これでよかったのか、本当にあの男を信じてよかったのか。
(・・・なんて、今さらだよね。)
あの男と出会ったのが私の運の尽きだった。いや、それよりもっと前、彼と出会ったときから───
顔をあげた。今、自分は何を考えた? この先は考えちゃダメだと本能が訴えた。
もういい。今はもう何も考えなくていい。考えちゃダメだ。
ひたすら、今を耐えきればあとはどうにでもなる。
だから今は、残り少ない余生を楽しもう。
ぼんやりと風景を眺めた。建物や張りぼてのような空は形を保てなくなり、まるでテレビがおかしくなったときの砂嵐のように歪になり、人間はもう原型を留めていない。
先ほどまで生き生きと動いていた主要キャラクターたちも様々な表情を私に向けたまま固まっている。
どんどん、どんどんどんどん、世界が壊れていく。
これが二次元の世界でいうところのバグなんだろう。主人公が消えたくらいで壊れるなんて、なんて脆い世界なんだろうと思った。
「・・・って、私も人のこと言えないか。」
世界には何十億という人がいるのに、たった一人消えただけでこの様だ。ほんと、笑えない。
バグはやがて私のアバターの中にまで影響が及びだしてきた。先ほどナイフを持っていた手を見たとき、ドット絵のように消えかけていた。
やっぱりここってゲームの世界なんだなぁって今更すぎることを思った。
人はこれから×ぬって分かったときでも、結構冷静に慣れるんだって、下らないこと考えてたら意識がプツリとそこで切れた。
目が覚めたら、真っ白だった。何もない世界、きっとここには私しか居ないんだろうなってなんとなく感じた。
足元がフワフワと浮いていたけれど、歩きたいって思った瞬間、そこに地面ができたように足を立たせることができた。どうやら ここ は自分の中でイメージすれば思い通りに動くことができるらしい。
歩いていて、ここってもしかしてあの世の世界なのかなぁって思った。もし自分が三次元で読んだお話のように天国や地獄があるならば、間違いなく自分は地獄行きだと思う。だって、大好きな人を(後、生き返るとしても)この手で×してしまったから。
どれくらい歩いたか、疲れも何も感じないから分からないけれどかなり歩いた時だったと思う。
ポツンと、目の前になにかが見えた。
そこに近づいてみると、声が聞こえた。それは嗚咽のようで、自分がそれの真っ正面に近づいても止まらない。
声の正体は少女だった。年齢は8才ぐらいだろうか。ずっと顔を自身の膝に埋めて泣いていた。
少しして、少女が口を開いた。
『・・・ひぐっ、ひぐ、・・・・嫌だよう、なんでこんなことになっちゃったの?
私、ただ和くんが好きだっただけなのに。』
(・・・この子って、もしかして小さい頃の "私 " ?)
いや、もしかしたら自分の深層心理が小さい私の姿をして出てきたのかもしれない。 ここがどんな世界なのかいまだによく分からないけれど、少なくとも目の前の少女が自分が今まで気持ちの奧深くに押し込めてきたものと同じ事を呟いていることだけは分かるから。
少女は続けて言う。
『大体なんで和くんが死ななきゃ生けなかったの?
なんで、時間の流れに沿って生きては生けなかったの?
なんで、いきなり私の目の前で死んじゃったのぉぉ・・
お陰であのときのグロ映像が頭からはなれられないじゃんんんんほんとに怖かったのにぃ・・
大体タイミングおかしすぎなんだよもぉぉぉ なんで人がせっかく久しぶりのデート楽しんでいるときにあんなことしちゃったんだよぉ!
最後の貴重なデートだったのに、全然記憶に残ってないいい』
・・・・いや、まぁちょっと思っちゃったけどこれは奥底に沈めておいた方がよかったんじゃないかな? シリアスな場面(だよね?)で言うことじゃないよね。
『大体、琴乃ちゃんだってそう! 和くんを足蹴にしてるくせになにが『助けたい』だよ!
知らない人に着いていっちゃいけないんだからね!?
そもそも和くんと同じ屋根の下なんて羨ましすぎるんだよ!!
もし私が和くんといっしょに暮らしてたら、その権限フルに使って和くんと──』
「ストぉぉぉっっっっプぅぅぅ!! なっ、何を言い出す気かな!? 幼女の姿してる癖に!! 」
もうっもうっ! 幼い私を汚さないでよ " 私 " め!!
・・そ、そりゃあたしかに? 私だって成長してるし? そ、そそそ、そのっ和くんと一緒に・・ゴニョゴニョ とか・・・、ぅぅぅ///って何 自分相手に言い訳してるの私っ!?
(べ、べべべべ別に和くんと、その、毎晩、・・・えっと、
────────お休みのキスがしたい なんて思ってないんだからぁっ!!///)
私が恥ずかしさで×にそうになっている間も " 私 "の独りごとという名の独り暴露大会は続いた。
『・・あの日、せっかく和くんが私になにかを伝えようとしてくれてたのに聞けなかった・・。
もしかしたら、告白かもしれなかったのに・・。
ぅぅ、でも" 彼女ができた " とかそんな告白だったら嫌だなぁ。
こんなことなら、告白しとけばよかった。
絶対そんな女の子より私の方が和くんのこと好きだったのに・・・。』
そうだ。だから私はこんなことまでして和くんを助けようと思ったんだ。
本当は助けるとか、そんな気持ちじゃなくて。
ただ、ただ、彼に思いを告げたかった。
本の少しでもいいから、私を 幼なじみじゃなくて " 一人の女の子 " として見てほしかった。
『でもっ、やっぱり駄目だった・・。こんなことなら 最初から恋なんてしなきゃよかった。
彼と、和くんと出会わなきゃよかった。だって私、まだ生きたかっ─────』
「黙れっっっっっっ!!!!」
言っちゃだめ。言っちゃったらそれは本当になっちゃう。
我慢すればいい。ちょっと我慢すればすぐに終わるの。
だから、
私の想い を" 私 "が否定しないで!
「はぁっはぁっ・・」
『もう何もかもが滅茶苦茶、私の人生全部壊さ──』
「黙れっっ!!」
『普通に恋がしたかっ──』
「黙って!」
『誰か助けて、和くんっ、和くん、和くん──』
「・・・・お願いだから、もう、何も言わないでよぉ・・。」
現実はお伽噺じゃないから。ヒロインのピンチにヒーローが都合よく助けにきたりしないし、ましてや悪いことした私なんかに、救いがあるわけ無い。
でも、やっぱり願っちゃうんだ。無い筈の奇跡が起きることを馬鹿みたいに待ってる。
「呼んだか?」
「和、くん・・?」
声が、聞こえた。




