お兄ちゃん、始動!
これで話がまとまった・・・のか?
そして日暮 彰人は長い年月をかけ試行錯誤を繰り返し、
あの日父が失敗した実験をほぼ成功に近づけた。
──彼は実験をより成功に近づけるため三浦 和也には内密に三浦夫妻と連絡を取り、交渉した。(実験過程の最中で余計な不安を抱かせないため)
──交渉の末、三浦夫妻は一縷の望みにかけ件の計画を了承。
計画の内容としてはなるべく身体にダメージを与えずに仮死状態に持っていき、例の機械で自身の魂を譲渡し、現実世界の身体に戻すというもの。(薬では副作用が心配だったため中断)
あの日、父が実験に失敗した原因は、魂をギリギリまで引き剥がすには気絶程度では次元を跨ぐ力には足りなかったためと思われる。
──計画の日、機器も天候も問題はなかった。その後の後始末も裏のツテで頼んでおいた。
そのまま三浦 和也と上原 華の帰宅後に実行するはずだった
───────────のに、
「オレ、好きな人がいるんだ。」
「その子と会ったときからオレの世界はその子中心に回っていて、
いつだってその子の一喜一憂に心を振り回されて、
その子に彼氏ができたって噂聞くたびに嫉妬してた。
だからな、もうそれを終わりにしようと思う。
華、オレはお前----」
一瞬、気が逸れた。
それだけで、彼は×に、あの日と同じ真っ赤な花が目の前に咲いた。
違うのは、その中心にいるのが自身が一番大切にしていたソレなだけ。
どうしてこうなった?
違うのに、あの子の幸せを壊したかったわけじゃないのに。
どうしよう・・、
こういう時にだけ自分の持つ優秀すぎる脳は働いてくれない。
あの子が居なくなったら、僕は一体どうすればいいんだ?
あの場から大分離れた先で、自×を考えていたら、あの子が入るはずだった機械に異変が起きた。
それはまったくゲームのシナリオにない話だった。
病院のような場所で、女が赤ん坊を抱いていたシーンだ。しかも、その赤ん坊の動きには少し違和感があった。
(・・まさか、この赤ん坊・・・和也か?)
直感だったが、それは絶対そうだという自信があった。というか自分の大切な弟なのだ。間違えるはずがない。
となれば、あとは当初の予定と少し違うが自分の身体と魂を使って彼を自分の身体に移し変えればいい・・だけなのだが、
(・・和也、生き返ったらまず何をするのかな? ・・)
ふと、思った。それはずっと生き死にだけを想定した実験だったからそんなこと考える余裕もなかったし、なんとなく気になったのだ。
あの子がまだ助かるかもしれないと思ってほっとしたのか。
今は一刻を争う事態なのに、気になり出したら止まらなかった。
(和也、・・多分、というか絶対あのとき目の前にいた女の子に告白、しようとしてたよね? えっ、じゃあ僕が和也を生き返らして、僕が死んだあと和也はあの子と結ばれてめでたしめでたしってわけ??(←自分の弟がフラれるということは考えてないブラコン兄)
たしかあの子、和也の幼なじみだったな。
和也の初恋で、ずっと今まで一緒にいれて、これから先も和也と幸せになるっていうの?
僕が苦しんで、やっとこさ和也を助けようとしているのにあの女はそれをいとも簡単に横から手にいれるなんて、
ナンノ 努力 モ シテナイ 癖 ニ。)
多分ここからだ。本当に僕が道を踏みはずしてしまったのは。
あの女に、和也はあげない。そのためには、まず、そうだな。
あの女について調べよう。きっとなにかボロが出てくるはずだ。弱味を握って、僕がするはずだった役目をあの女にやらせるんだ。
体は女の子になっちゃうけどしょうがないよね。もし和也が嫌だというならば、外見を変えるなんていくらでもやりようがあるし、僕はたとえどんな姿になったって和也を愛せる自信がある。
(また、・・・二人で過ごせるんだ・・。)
そのときの自分は、目的が本来と大分変わっていたことに気づいてなかった。いや、たとえ気づいていたとしても気にしなかっただろう。
自分はもう、引き返せないほどに狂ってしまっていたから。
『そして物語は狂った方に回り続け、現在の状況に至ったというわけだ、
なにか質問はあるか?
─────加賀見 涼、いや
三浦 和也。』
話の最中に、突然話をフられたオレはというと、
「え、えっと・・・大変だねっ!! 」
スパコーーン!
『そうじゃないだろ!!』
叩かれた。しかもめっちゃいい音鳴ったし。
辺りには、間抜けな音だけが虚しく響き渡った。




