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希望

お待たせしました!

それでは、どうぞ!!

ザザ、ザザザザっ、


ノイズ音が聞こえる。視界がモザイクみたいな砂嵐でよく見えない。負担が大きすぎて機械が耐えきれなかったのか? さっさと帰らないとヤバそうだ。 色んな意味で。

「くそっ、 父さんめ、一体何がどうなって・・」

大分意識がはっきりして、というか景色が見れるようになった頃、今いる場所がどこかが分かった。

それはもう過ぎ去った過去、二度と会えるはずのない人と失った幸せな時間。

目の前には12本の蝋燭が刺さっている、所謂誕生日ケーキ。ケーキの真ん中にチョコンと置いてあるチョコプレートには

『happy birthday あきとくん』

と達筆な字で書かれていた。

そして、ケーキを挟んで自分の向かい側にいるのは、カメラを片手に持った若い頃の父さんと、

「・・なんで、母さんが・・。」

死んだはずの母さんが自分の記憶と違わぬ姿でそこにいた。

自分はこの景色を知っている。だが、これはもう終わった過去だったはずだ。なのに、なんだこれは? まさか自分の夢か? もしかしたら今自分は現実の世界で眠っているのかもしれない。

だとしたら早く目覚めなければ和也の身が危ない。

あのときの父さんは常軌を逸していたから、和也に危害を加える可能性がある。自分がなんとかしなければ、兄である自分が・・、

「どうしたの?彰人。」

「!??・・・え、」

「ほらほら、早く蝋燭を消して消して! お母さん、この日のためにバースデーソング 特訓したんだから! 」

「勿論父さんもねっ!」

(違う・・これは俺の記憶じゃない・・。)

だって、

(こんな会話していない!! )

どういうことだ。今、現在の自分の疑問に返答を返してなかったか? 本当に母さんが生きてそこにいるような感じで・・。


(・・あぁ、だけど今はそんなことどうでもいいか・・。)

よく分からない場所にいきなり飛ばされて、しかもそこには死んだはずの母さんがいて、父さんもまだまともで、そしてここは幸せな場所だ。

もういいじゃないか。

どんなに悪あがきしようともきっと自分はここから帰れない。既に数時間は経っている、望みはない。

あのときの父の様子だと、いずれ弟もここに来るだろう。ならみんなで、この幸せな場所でずっと暮らした方が幸せじゃないか。

(現実は、辛いことばかりだ・・)

ここならもう大丈夫だ。

「彰人、早く火を消して、さぁ」

「・・・・・うん、」

今度こそ、幸せになれる。



「・・彰人お兄ちゃん・・?」


どこ行くの。


「和也?」

背後から和也の声がして、ようやくこちらの世界に来たと思ったら、先の質問。どういうことだろう?僕はちゃんと "ここ " にいるのに。

「だって、お兄ちゃんの体どんどん透明になってるよ?」

「!?」

バッと自身の手を見ると、それはだんだん透けていっていた。少しずつ、少しずつ体の感覚が無くなっていく。ゾッとして、先程まで母さんたちのいた場所を振り返ると、そこにはたしかに先程まで自分がいた席には自分の小さい頃によくにた少年が座っていて誕生日会がいたって普通に行われていた。まるで今の僕がいなくても関係ないように、事実に沿って、あのビデオ通りに。

「・・ねぇ、お兄ちゃん。もう帰ろ? ここにいたらお兄ちゃん、消えてなくなっちゃうよ・・?」

涙を堪え、えぐえぐと嗚咽を漏らしながら和也は僕に手を差し伸べていた。 そのとき、僕の目には和也の小さな手がとても大きくて、暖かいものに見えた。この手を取るべきだ、そう自分でもわかっているのに、

「嫌だよ。」

「っ、なんで?」

「だって、戻ったとしてもきっとまた父さんに×される。父さんはもう狂ってしまったから、今度は、二人まとめて×んじゃうかも。」

「じゃ、じゃあオレが兄さんを助けてあげるっ!」

「助かったとしても、たとえ逃げ切れたとしても、まだ未成年の僕たちは離ればなれになっちゃうね。和也はまだ小学生だし、他の親戚もいないから施設に入れられてしまうかもしれない。」

「そんなのっ、何年かかったって絶対お兄ちゃんに会いに行くもんっ!!」

「だとしても、また会えるかどうかなんて分からないだろう?たとえ会えたとしてもその後の人生がどうなるかなんて分からないじゃないか。

なぁ和也、僕はね和也が思うよりずっと弱いし、意気地無しだ。

そうじゃなくったって僕らの人生はもうあの男によってめちゃくちゃにされた。

──だったらさ、保証されているのかどうか分からないような不安しかない未来よりも、ここで一緒に過去を生きた方がいいんじゃないかな。

もう、僕らに──────・・生きる意味なんて、ないんじゃないかな。」

今の僕は一体どんな顔をしているだろう。今の和也の顔を見る限りろくな顔じゃないんだろうな。

最初和也は目を見開いて、呆けていたがやがて何か意を決した表情で僕を見た。


「だったら」


それはとてつもなく力強く、


「オレが、生きる意味をつくるっ!」


いとも簡単に僕の中の恐怖を壊した。

「・・なっ、・・・・・は?」

「たとえ何度挫けても二人で手を取り合って立ち上がればいい。

彰人お兄ちゃんが出来ないことはオレが補えばいい。

────保証されている未来がないなら、オレを信じて。

絶対に、オレだけはお兄ちゃんを裏切らない。


だから、



オレと一緒に生きて、彰人お兄ちゃん」

なんだ。なんなんだこれは。

(今、目の前にいるのは誰だ。)

数時間前に会ったときはまだ小さい僕の弟だったのに、今は・・。

「・・・っ!? ど、どどどどうしたの?!! 」

「・・・・・あれ、よく目の前が見えないっ、な・・」

目元を擦ると生暖かい液体に触れた。そうか、

(僕、泣いてるのか・・・)

あの日、母さんが死んだときからずっと、どんな悲しいことがあっても涙だけは流さなかったのに、こんなにも簡単に出るものだったのか。

ぐすぐす、と目を擦りながら今度こそ僕はその小さな手を取り、そして、意識が飛ぶのを感じた。


「・・・、」

「・・お前が起きた、ということはこの実験は失敗したんだな。」

目覚めた先は自宅の地下室。頭が割れるように痛い(というか血が出てる)が、そんなことはどうでもいい。

起きてすぐに父親であった男を睨み付けた。男は自分に背を向けながら和也を撫でていた。

そこからは、────なんの感情も読み取れない。

「母さんは生き返らなかった。変わりにお前が戻ってきた。」

「・・・。」

「で、()()()()()()()()()()。」

「っ!?どういうことだ! 和也は僕と一緒に戻ってきたはずだ!」

「だとしたら、まだ気絶してるだけかもな。それでも魂に傷はついているから、そんなに長くも生きられないだろうが。」

んっ、と和也が息を吹き返した。

「・・・お前達が生きられるのは、お前が

()()()、和也はせいぜい()()()ぐらい だな。

こんなことを仕出かした俺が言うのもなんだが、残り少ない人生はめいいっぱい楽しんでくれ。じゃあな。」

目の前に真っ赤な花が咲いた。

俺は頭を抱えた。


「──彰人お兄ちゃん?」

ようやく起きた和也が僕に話しかける。僕はぼんやりしていたせいで反応が遅れてしまった。

僕の頭にはぐるぐるとあることが回っていた。

(そっか、和也はもう成人できないのか。)

あの男のせいで。──僕のせいで。

あの男が言うには、和也は僕が現実世界に戻るために自分の魂を削ってしまった。僕はそのお陰で、死ぬはずだったのを助けられた。

僕を助けたせいで。和也はもう長く生きられない。

「和也、これからは三浦さんのとこに暮らすことになるけどいい?」

「叔母さんの家? うん、いいよ。」

「和也、お兄ちゃんね、頑張るから。」

だからね。

「・・・・・────強く、生きてね。」

僕が君を助ける方法を見つけるまで。

「・・・? 分かった。」

和也は何も聞かず頷いてくれた。

僕は三浦さんに事のあらましを説明し、和也をそこに置いていった。

三浦さんは最初戸惑いながらも、姉さんの愛した子だから、と和也を引き取ってくれた。

僕も養子に誘われたが、やることがあると断った。


僕はその日、表舞台から姿を消した。




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