フラグをボキボキ折る妖精さんとーじょー
最近ものすごく眠たいです・・・。
そわっ、そわそわっ
きょろきょろっ
「ふゅ、・・ひゅ~♪・・」
「にい、行動がうっさい」
「ごめんなさい!!」
それでも忙しなく動く体は言うことを聞いてくれない。口元なんてにやけた形で微動だにしないし、でも今日だけは見逃してくれ!
年月も経ち、すっかり大きくなった今生の弟はオレの努力もありゲームみたいなヤンデレは回避され、健康的な精神を手に入れた。
ただ、兄としての威厳が年々無くなっていくのも分かっていたが、そこは長男なので我慢します。
夕崎は現在中学三年生、つまり今年は受験生なので現在受験勉強に励んでいるがそれを兄であるオレの奇行に邪魔されご立腹のようだ。
「にぃ、マジいい加減にしろよ。俺が受験に落ちて浪人生になったら、将来にぃに責任取って一生俺を養ってもらうからな。」
「・・・いやでもお前の第一志望オレのとこだし、全国模試一位のお前が平凡校に落ちるとかあり得ないんじゃ・・。」
ドンッ!!!!
「なにか言った?」
「・・いえ、ナンデモ アリマセン・・・・。」
前々から兆候はあったがついに最近オレの身長を追い抜かしやがった弟による壁ドンはお兄ちゃんちょっと泣きそう。
くそぅ!しかも端正な顔に育ってしまったもんだから(知ってたけど)壁ドンをさらりとかっこよく決めやがったぜこいつ。
夕崎は中性的な美人になった。容姿は全体的に華奢で(だがオレよりはデカい)女装とかさせたら似合いそうだ。というか、実際に去年の文化祭でクラスに女子にやられていた。冷やかしに行こうと思ったら瀬利から写真が送られ笑えないほど似合っていたから行くのをやめた。その写真に写っていた美少女を笑うにはあまりにも死んだ目をしすぎていたから。
「で? にぃ今日はなんでそんなにご機嫌なの?
久しぶりに希沙ねぇとお出かけでもするのか?なら俺も連れてってよ。」
「勉強しなさい受験生。今日は友達と遊びに行くんだよ。」
怪訝な顔をされた。何故だ。
「・・・瀬利にぃだよな?」
「違うってば。高校の友達。」
信じられないとでも言うように夕崎は口を手で覆った。
「・・・・・・・・にぃ、瀬利にぃ達以外に友達居たんだ・・・・。」
「どいつもこいつもオレをなんだと思ってんだよ!」
なんなんだ。オレはそんなにボッチに見えるってか。たしかにクラスには友達と言えるようなやついないけどさぁ、そこまで酷くないし!!
「へー、そっかそっかぁ にぃ 友達居たんだねぇ。」
「やかましいわ!!」
「ふーん、ねぇ にぃ、その友達って性別どっち?
雌? 雄?」
「動物じゃねぇよ! 人間だよ!!」
ある意味動物ではあるけども聞き方ぁっ!!
「・・男女で二人いるけど、今日会うのは男の方だよ。」
「え? 瀬利にぃ よく許可したなそれ。てっきりにぃに近づくものは裏で皆潰すと思ってたんだけど。」
「そのせいかよオレに友人が出来ないのっ!」
じゃあ彼女が出来ないのもあいつのせいだよな!? って聞くと、それはにぃに魅力ないからだよ とばっさり切られた。解せぬ。
んーー、と大きく背伸びをしてリビングから出た夕崎は思い出したようにまたひょっこりと廊下に出るドアから顔を出した。
「ねぇ、やっぱ俺も着いていっていい?」
「駄目。」
困ったような寂しそうな顔をされたって、駄目なものは駄目。だってお前、オレに着いてくる目的って、
───────さっき見てた雑誌のゲームが欲しいからだろ?
「お兄ちゃんは今月財布の中身が氷河期を迎えたのでなにも買えません。」
「なんだよー!にぃ のけちんぼーー!!」
首と手を横に振り、目を閉じて完全拒否の姿勢を取る。ぶーぶー文句言ってるのなんてなんも聞こえません! 残念でしたぁー!べろべろばぁ。
「うわムカつくっ、にぃ の馬鹿!! にぃ のゲーム全部データ塗り替えてやる!」
「それはほんとやめろ」
それはいけない。それだけはまじでいくら温厚なオレといえど許されないぞガチめに。
「にぃは残酷だよなー。」
「ゲームごときで何言ってんだ。」
よいしょと、玄関に行き靴を履き終えた俺が外に出ようとしたらぱしっと腕を夕崎に取られた。
夕崎は不安そうな顔で俺を上目使いで見た。手は震えている。だがいつものことなのでオレは驚かなかった。父母にはないがなぜか夕崎は兄であるオレにだけきまって外に出ようとするとき "これ" をする。それは昔、彼の本当の両親が彼を捨てたトラウマが今も尚彼を縛り付けていることに他ならない。ゆっくりと息を吐いて、夕崎はいつもの言葉を言う。
「・・にぃ、ちゃんと帰ってきてね。
俺の、俺だけの にぃ でいて、変わっちゃ駄目だよ。」
「・・・・うん、分かってる。大丈夫だよ。」
だから安心して待ってて。
ポンポンと、彼の背中を優しく叩きオレは毎日言っている言葉を吐いた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
うん、今日もいい天気だ。
涼が去ったあと、夕崎は玄関から動かなかった。
「・・にぃ、ちゃんと帰ってくるよな。俺だけのにぃだし。絶対に家に帰ってくるに決まってる。」
なのに、
「・・・・あれ、?なんで、俺、涙なんか・・っ。」
いくら確認しても抗えきれない不安は日に日に増していくばかりだ。帰って来なかったらどうしよう。そんなことあり得るはずないのにいつも一人になるとその気持ちはぎゅうっと心臓を締め付けて息をできなくさせる。
苦しい、苦しいよ にぃ 。助けて。
「・・・いつになったら、にぃ は俺のことちゃんと正面から見てくれるのかな?」
この発作の原因は昔のトラウマだけじゃないことを夕崎は知っていた。涼はたしかに自分を可愛がってくれたし、愛してくれている。だけどそれは時々自分を通して他の誰かを見ているようで。そんなの自分の考えすぎだって分かってる。今の両親にも自分以外に昔弟や妹はいたことあるのかって聞いたら笑って否定されたから。
でも、涼はそれでも俺のことを誰かと重ねているように見える。本人は気付いていないからたぶん無意識なんだろうけど、ふと俺を見て寂しそうに笑うのだ。それが俺と にい を遠くさせる。こんなにも近いのに、だれにも離せない関係なのに、不安でしかたがない。
いつか にぃ は誰かにさらわれてそのままそいつに着いていって、俺がどれだけ手を伸ばしても、叫んで喚いて涙を流そうとも、きっとにぃには届かないで去っていってしまう、そんな気がする。
「・・そんなのっ、絶対、嫌だっ・・ 」
ねぇ、にぃ、ちゃんと俺を見て。にぃの弟は俺なんだよ?俺だけが にぃ の弟なんだよ。他なんかいない、知らないよ。
だから、ちゃんと側にいて。
どこにも行かないで。
「俺を置いていかないで・・」
掠れた声は、誰にも聞かれることはなかった。
オレはがむしゃらに目的地まで走った。理由は電車に乗っていたら人身事故にあったからだ。約束の時間からはすでに十分も過ぎている。
「黒澤っ、悪い待たせた。」
「つい先程来たばかりだから大丈夫」
そういう黒澤の回りにはちょっとしたコンサートが開けるぐらいの人数の女性がいた。パシャパシャと写メを切りつつも近づかないのは彼女────如月 悠里の存在が大きいだろう。
てか、どこで知ったんだろうか という野暮なことは聞かない。悪女キャラといえばこういった常軌を逸した行動は定番だからな。たとえ彼女がストーカーであろうと不思議じゃないよな。そうだよ、今までの彼女が大人しすぎたんだ。悪女キャラってそういうもんだもんな。回りの迷惑とか考えないで自分の欲望のままに動くのが悪女のセオリーだもんな。
とオレは現実逃避することにした。
「なぁ、俺が行く先々に如月さんがいるんだけどさぁ、もしかして俺と如月さん思考回路が同じなのかな?。」
「さ、さぁ。」
どうやら彼はあのいっそ清々しいほどに堂々としたストーカーに気づいていないらしい。
このまま真実を言うべきかどうか迷ったけど、遠くにいる彼女の目が『ホモだとバラすぞ』って目をしてるからやめた。やっぱり自分が一番可愛いから。(たとえ真実がどうであれ)
黒澤がとりあえず静かな場所にでも行こうかと提案し、オレもそれに同調して着いていった。
歩いている途中、彼と様々な話をした。意外にも彼はオレのハマるゲームのジャンルが似ているらしく思いの外話は弾んだ。
そのせいで話に熱中しすぎて前から歩いてくるひとに気付かず、オレは肩がドンッとぶつかった衝撃を受けて初めてその人の存在に気づいたのだった。
「・・あ、すいませ、・・・・・・ぇ?」
「おっと、ごめんね。僕も前が見えてなかったからさ~
お互い様ってことで。」
髪色や雰囲気さえ違えど、そいつの容姿は
───────"黒澤"にそっくりだった。
「"初めまして"、加賀見 涼。僕の名前は
日暮 章人。君たち風に言うなら
ただのマッドサイエンティストだよ。」
※矛盾があったので補足を。ストーリー中で夕崎は最初に受験勉強をしていたはずなのに、涼は「さっき見てた雑誌のゲームが欲しいからだろ」とあります。
この部分ですが実は夕崎は勉強をしているふりをしてただ雑誌を見ていただけです。そして彼が涼に怒ったのはただ浮かれている兄がうざかった。それだけです。
付けたしみたいですみません。ここまでお付き合いしてくださりありがとうございました。




