工場
ここで合ってるはずなんだけどなぁ。明らかに見覚えのない建物が目の前にそびえ立っている。うちの工場以外にこんなでかい建物無かったと思うんだけどなぁ。あ、誰かいる。あいつに聞いてみよう。
「すいません。お聞きしたいことがあるのですが」
「ん?あ、はい。なんすか。って張巻さんじゃないっすか。どうしやした?」
「いや、お前誰だよ」
「モブっすよ、モブAっす」
「あぁ、モブか、そんな奴いたな。忘れとったわ。てか仕事どうした。あとここどこだ」
こいつは工場部のモブA。こいつに会うと大体さぼってる。というか真面目に働いているところを見たことがない気がする。名前は、まぁ、気にしたら負けだ。
「今回はマジでさぼりじゃないっすよ。今休憩時間っす。ここは工場ですよ?いつも来てるじゃないっすか」
「こんなんじゃなかっただろ。勝手に塗装でもしたか?」
「工場の横っすよ。いつも正面からしか見てないからわからないんすか?ってそんなことより何しに来たんすか?」
「お前んとこのボスに用があんだよ。いるよな?」
「今なら休憩室じゃないっすかね。多分っすけど」
「う~い。じゃ休憩時間過ぎてるから給料引いとくね」
「これは不可抗力っす!張巻さんが話しかけてきたんじゃないっすか!」
「冗談に決まってんだろ」
というわけでモブを放置して工場のボス、鬼間魂太を探しに休憩室前までやってきた。とっとと要件を済ませて帰ろう。がちゃっとドアノブの小気味良い音が鳴り、ギィっとドアのきしむ音がするかと思ったらゴンッ!と鈍い音がした。
「あいたッ!」
どうやらドアの向こう側に人がいたらしい。
「あ、ごめん」
「ごめんで済んだら警察も監察部もいらないっすよ!気を付けてくださいっす張巻さん」
「なんでモブがここにいんだよ。瞬間移動でもできるのか?てか仕事に戻りやがれサボり魔」
「今から戻るとこっすよ。あと張巻さんが道に迷ってただけっすから!」
さすがにあれは悪いことをしてしまった。今度あんぱんをスパーキングしに行こう。
「このネックレス、君に似合うと思うんだよね~。つけてみない?」
「おい待て魂太。何回言ったらわかるんだ。女性社員をナンパするなと前も言ったろ」
「いやいやいや、ナンパじゃないから!本当に似合うと思ってただけだから!」
「ナンパする人は大体みんなそういうんだよ。ごめんねモブDさん、きつく言っとくから」
「いえいえ、工場長が悪いひとではないことはわかってますから」
この工場長は監察部に要注意人物扱いされている。社内で何回もナンパしやがるこいつが悪い。監察部に連行してもいいが、Dさんも迷惑には思っていなさそうなので今回は見逃すとしよう。ちなみにこのDさんは先ほどのAとは一切関係ない。モブの名がついている者に共通点なんてない。登場順にAからZってわけでもないしな。そんなことよりも、わざわざ工場まできた理由をとっとと終わらせてうちのバカどもが真面目に仕事してるか見に戻らねば。
「おい魂太。この前の要請一応通ったからこれ目通しとけよ」
「お、まじで通った?やったぜ」
「じゃ、またそのうち査察に人寄越すから、ナンパなんてもうやめろよ」
「わかってるってば。というかナンパじゃないし」
ま、なんでもいいんだけどね。魂太も彼女がいなくて寂しいんだろうし、多少は目つぶっても良いかもしれないな。というかこれ他人ごとじゃないし、俺もなにか考えないと将来が不安だからな。ま、こんな話はどうでもいいんだ。バカどもが仕事してるかどうか確認しないと。
命「そういえば副工場長はどこだ?」
魂太「あいつは仮眠中」