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世界の入り口



 この世界の職業は、その数120種類を超える。




 各々のプレイヤーが【十】からなる適正の内の【三】つを自由に選び、それによって職業が決定する。


 格闘・使命・野生・魔法・幻術・死・愛・ロマン・鉄壁・意思の計十個の適正。




 【格闘】 【使命】、これら二つはそれぞれ特性があるが大まかにいえば近接職の適正だ。近接職ならばどちらかは必ずと言って良いほどに取得している適正と言えよう。オールラウンダーで汎用型の格闘適正と、一撃必殺も可能な特化型の使命適正。




 【野生】は弓職の必須適正である。遠距離からの攻撃、高速で動き回る俊敏さ。周囲に罠を接近したり、近接適正も組み合わせれば敵が接近すれば迎撃も可能な戦場の花形ともいえる遠距離火力。




 【魔法】【幻術】【死】、一方こちらは魔法職の適正である。しかし、これら魔法系の適正は必ずしも遠距離で発動させるだけのものではない。中には近接職、前衛でもこれらの魔法適性を取得し戦う者も存在した。一撃必殺級の威力を誇る【魔法】、トリッキーに味方を支援、もしくは敵を弱体化させる【幻術】【死】といった幅広い戦術を可能とするためだ。




 【愛】は完全な回復適正だ。魔法の【死】の適正の中にも敵の体力を吸収する魔法が存在するが、愛は他のプレイヤーの回復と蘇生、さらには能力向上といった魔法を得意としている。




 【ロマン】これはもう一つの回復適正だが、簡単に説明するなら吟遊詩人バードと言ったほうが分かり易いか。こちら完全な支援適正である。

 その支援スキルの効果を及ぼす範囲は存在するが、その効果範囲内であるならば味方が何人いようと効果を発揮する。二十人、三十人、それ以上もの仲間を一人で強化することが可能な集団戦闘特化ともいえる支援職。味方を強化し、敵を弱体化する、その効果は大規模戦闘において恐ろしいまでの効果を発揮する。




 【鉄壁】これは文字通り守りの適正である。前衛、いわゆる壁役タンクの必須適正と言えよう。

 体力向上、盾防御力上昇といった自分の生存率を高めるほか、盾攻撃シールドバッシュなどといった技で敵の動きを阻害したりもする守りの要だ。

 他の適正にはないスキルといえば、モンスターの敵愾心ヘイトを上昇させたりするといった特殊なスキルが特徴といえよう。




 【意思】とは特殊な適正だ。移動補助、攻撃支援、回復能力向上、状態異常回復等、魔法に対する防御適正とも言える。自分を守るだけではなく他者をも支援する適正であり、どの適正とも親和性が高いと言える。


 


 様々な職業と多彩なスキル。組み合わせや相性、戦闘規模や使い手によって色彩豊かな特色が煌めく世界。


 最強の職は存在しないが、最弱という職もまた――存在しない。




 ―― Now Loading ――




 そこは美麗なグラフィックに多彩な効果、多くのプレイヤーが自由気ままに闊歩し暮らす世界。




 ある者は牛や鶏の家畜や、ヤタと言ったこの世界特有の生き物を育てていた酪農家だった。


 ある者は野菜や花を育て、多くの仲間とスローライフの為の楽園を築き上げた錬金術師だった。


 ある者は楽譜を作り、この世界の楽器で多くの人々にその音色を届ける音楽家。


 ある者は戦場を渡り歩き、多くの決闘に戦闘を繰り返す。相手はプレイヤーであったり多彩なNMネームドモンスターであったりと様々だ。


 ある者は海賊に、ある者は冒険家に、ある者は釣り人に、ある者は鍛冶師に、ある者は貿易商に、ある者は写真家に。


 


 そこで彼は、ペテルギウスは思った。俺は何者になりたいんだ――と。


 彼はこの世界が初のMMORPGであった。互いの顔も知らぬ他人と何かを一緒にするのは緊張するが不得意という程でもなく、だからと言って得意でもない。格闘ゲームも得意とは言えず、じゃあ得意なゲームのジャンルは何かと聞かれれば困ってしまう、そんなただのゲーム好きだった。


 何となしに始めた冒険。


 前情報もなく、ただ『なんとなく』始まった世界。




 そして、何となしに踏み入れた世界は、ただただ驚きと興奮があったのだ。


 多くの人間とそれぞれの生み出したキャラクターを通して接し、共に笑い、共に苦しみ、共に怒り、喜びを共有した。


 勝った、負けた、獲った、獲られた、奪った、奪われた、悔しかった、嬉しかった、傍から見れば馬鹿みたいな事でも大笑いした。

 本気だから楽しめたのだろう。


 遊びも本気でやるからこそ、楽しめるのだと気付かされたのだ。




 ―― One day ――




 それはペテルギウスがまだ何も知らず、ソロで漠然とした想いでこの世界を冒険していた頃。クエストの為に訪れた街での話。




 ストーリークエストも全て完了し、そろそろレベルもカンストしそうな頃。カンストしたその後は何をするか、そんな事を考えながらペテルギウスは所謂『お遣いクエスト』をこなしていた。


 クエスト達成の為、『イニステール』の港のNPCノンプレイヤーキャラの元へ向かっている途中、船で荷物を運んでいるプレイヤーの二人を見かけた。別に知り合いでも何でもない、ただ同じ東勢力のプレイヤーというだけだ。


 ペテルギウスはふと興味が湧き、足を止めて何となくその二人を観察する。どうやら見たところ『貿易』をしているようだ。その二人組のプレイヤーは、不慣れな様子で船から積み荷を降ろしていた。


 貿易とは各地域で貿易品を作り、それを他の地域に運び多くの金貨を得るシステムのことだ。


 二人の内片方は貿易船の舵を握っていた。だが慣れていないのか、その操作はあっちに行ったりこっちに行ったりとせわしない。


 また積み荷を降ろす役目のもう一人は、船を岸に着ける前から荷を担ぎ、なぜか海に落ちたりとどこか慌てた様子だ。




「あ――ここって【闘争区域】じゃん」

 二人を見ていたペテルギウスは呟く。【闘争区域】、簡単に言えばPKプレイヤーキルが可能なエリアだ。


 荷を運んでいる二人組もそれが分かっているのだろう。だが、その焦りが空回りして時間ばかり掛っていた。


 ――嫌な予感がする。


 根拠は無いが、そう感じた。


 


 その予感は的中してしまう。


 ペテルギウスはなんとなくその二人が心配で、手伝う訳でもなくボーっと突っ立って、暫くその貿易品の納品を眺めていた。


 そして運の悪いことに、その納品場所に敵勢力のプレイヤーが現れた。貿易をしていた二人組が慌てるのは画面越しからでも何となくわかった。ただし、敵勢力のプレイヤーはたったの一人だった。




 しかしどうやら不運とは重なるもので、その敵勢力の彼はどうやら名の通った好戦的なプレイヤーだったらしい。

 敵勢力の彼は二人に急速に接近する。両手に剣をもった双剣、さらに防具は火力と速さを重視した軽装といえる革製の装備。

 

 そして、突如としてその姿が消えた。




 敵は『シャドウステップ』――【使命】適正のスキルで相手の背後に一瞬で移動し、その直後に『スマッシュ』――今度は【格闘】適正のスキルで、背後からの攻撃の場合ダメージ補正の入る強烈な一撃を繰り出した!


『ソラは死亡しました』


 周囲に死亡を通知するアナウンスが流れる。


 運悪く『スマッシュ』は貿易船の舵を操作していたプレイヤーにクリティカルヒットをおこす。それによりダメージ倍率が上昇し、HPをたった一撃で削り切ってしまう。




 どうやら双剣の敵は完全な武闘派だ。


 これは後になって聞いた話だが、時々闘争地域に現れては武者修行をしているプレイヤーだったらしい。適正は【格闘・使命・意思】――『探究士』、近接での最高火力を誇る暗殺アサシン職だ。




 相性が悪い。たった今殺されてしまった味方勢力のプレイヤーの彼女はヒーラーで、もう片方は魔法火力職。しかも先ほどの様子から察するに、操作に不慣れなプレイヤーなのだろう。


 更に相手との装備の差は歴然。レベル差もあり、相性も悪い。まさに最悪と言って良い。


 近接職で最高火力を誇る探究士に対して相性のいい適正――それは【鉄壁】と【意思】。


 そしてペテルギウスの職業は偶然にも『戦士』。それは【鉄壁】と【意思】の適正に【格闘】適正を持ったオールラウンダーとも言える職業であった。

  

 


 双剣の探究士の先ほどスキルはCTキャストタイムにより暫くは使えない。


 魔法職の彼も逃げ惑いながら何とか対抗しているが、HPは既に半分近い。もう少しで殺されてしまい、折角苦労してここまで運んできた積み荷を奪われてしまうだろう。


 ――困ってるなら助けたい。


 ペテルギウスは自然と動いた。




 ―― Now Loading ――


 


 船上を逃げ惑う魔法職。そしてそれを追う探究士。その探究士の背中に目掛け、ペテルギウスは攻撃を仕掛ける。


 発動させるスキルは突撃系攻撃『アサルトダッシュ』。10mの距離を一瞬で潰し、ペテルギウスの攻撃が探究士にヒット。そしてそのスキルの効果、3秒の足止め効果が発生した。


 思わぬ奇襲の動揺とスキル効果により探究士の動きが止まる。そしてそこから間髪いれず、ペテルギウスは基本攻撃スキル『三段斬り』をその背中へと浴びせた。


 足止めからの連携効果により、【転倒】効果が発生する。




 このスキルの連携は、ペテルギウスが今までずっとMOB(雑魚モンスター)相手に何百回以上も繰り返してきたものだ。最初の攻撃が回避されなければほぼ確実と言える連携コンボ


 そして探究士が転倒した僅かな隙に、魔法職プレイヤーが体勢を整える。


 1vs2の状況。数はこちらが有利――だが、相手とのレベルと装備性能の差を考慮しても分が悪い。


 だがしかし、相手の適正との相性を考慮すれば、もしかしたら互角かもしれない。 

 

 前衛の戦士、後衛の魔法使い。そして、戦士であるペテルギウスは近接火力である探究士の天敵とも言える【鉄壁】の適正を持っていた。




 ―― Now Loading ――

 



 ペテルギウスと探究士は、船の上で互いに正面から斬り合っていた。


 二人の前衛職。火力は明らかに探究士が上――だが、防御力では戦士が上だ。


 互いにジワジワと体力が削れてゆく。そして更に魔法職の彼から支援攻撃が入る!




 だが、それだけでは探究士である彼を倒しきる事はでき無い。


 探究士である彼の装備は、二人より数段も性能が上なのだろう。しかしそれでも盾を持ち、全身鎧を装備したペテルギウスの方が防御力は上のはずだったが、レベルの差が簡単に覆す。


 攻撃が回避されるのだ。相手は身軽で、更にはレベルによる補正もある。そして明らかにPSプレイヤースキル、対人戦闘の経験の差が出ていた。

 

 そんな攻防の間、敵探究士のCTキャストタイムは解除されていた。


 互いの武器で切り合っていた筈だが、ペテルギウスの目の前から探究士の姿が突如として消える。




 『シャドウステップ』。


 そして先ほどの光景の焼き直しのように、『スマッシュ』がペテルギウスの背後から炸裂した!! だがしかし、まだHPゲージは5割残っている。


 そして、近接職最高火力を誇る探究士の攻撃はまだ終わらなかった。




 続けざまに『ダークネスソード』――背後から攻撃時、近接攻撃力の6倍の物理ダメージが追加される【使命】適正の高火力スキル。


 それは背後から受ければ必殺とも言える、使命適正の最も凶悪な技。


 だがしかし、それを受けてもまだ死んではないない。ペテルギウスは受けきったのだ。


 だが残りのHPは1割以下の瀕死状態。赤く、紅く、朱く、HPは点滅を繰り返す。あと一撃で終わる。


 流石は【鉄壁】持ちと言えるが、もはやそこまでだ。今のペテルギウスに起死回生の手は無い。




 『ダークネスソード』の5秒間の攻撃スキル封印効果により、ペテルギウスはすでに手も足も出ないサンドバックと化している。近接最強最悪のスキル『ダークネスソード』。その封印効果の5秒間とは短く、そしてこの戦闘に置いては果てしなく長かった。


 勝敗は決したと言えよう。







 そして次の瞬間、一瞬にして5割近くまでペテルギウスのHPが回復した。


 突如HPが回復したペテルギウスは勿論驚いたが、一番驚いた相手は探究士の彼だろう。虫の息だった相手がいきなり息を吹き返したのだから。


 その回復の理由は、最初に殺されたはずのヒーラーである彼女のスキルだった。こちらから20mほど離れた位置に、杖を構えた彼女の姿があった。


 最初に殺されてから暫く時間が経ったのと、更には町の近くで殺されたため復活リスポーン地点が近かったのだろう。


 1vs3。


 先ほどまでの不利が、ヒーラーの登場で一気に覆る。


 そして次の瞬間、探究士はまたもや姿を消した。




 『シャドウステップ』、ではない。探究士が使用したスキルは『バックフリップ』と『ハイド』。


 それは【使命】適正のスキルで、後方へ大きく飛び下がり、その身を不可視にしてしまうスキル。不可視といっても限りなく接近すれば見えてしまうのだが、いきなりの事で完全に見失ってしまった。


 つまるところ、そのスキルがこの状況で意味する事は――敵の逃走であった。   


 


 前衛である戦士と魔法火力職、回復支援職、自分よりレベルが低いとはいえこの三人を一人で相手するには分が悪いと感じたのだろう。


 引き際を心得た、非常に素早い判断であった。


 あまりの引き際の良さに、この周囲のどこかに潜伏して機を窺っているのではないかと警戒してしまうほどに。




 だがそれも杞憂に終わり、魔法職とヒーラーの二人は無事に貿易品の納品を終え、ペテルギウスはその場の成り行きで周囲を警戒しながら二人の警護を務め終えた。




 ―― Now Loading ――




「ありがとうございますううううう!!!!」


「ほんっとに助かりましたあああああ!!!!」


「あ、いえいえこちらこそ、回復ありがとです!!」


 警戒が解けると、安堵とともに先ほどの緊張感が一気に爆発した。ただお互いに感謝と謝罪やらを、あーだこーだと言い合い続ける。勿論、満面の笑顔でだ。




「本当に危なかったー」


「手汗がやばい事になってましたよ……」


「自分もです!」


 一人相手に三人という、決して誇れるような状況ではなかったのだが、そんな些細な事はこの場では関係なかった。


 ただひたすら、互いを褒めたたえ合う。喜びを共有する。




 ふと、そんな戦いの後の儀式とも言えるものが終わったころ、魔法職の彼が問いかける。


「あれ、ペテルギウスさんはギルド入ってないんですか?」


 ペテルギウスの名前の表記の脇には、何も存在しない。つまりそれはギルド未所属のソロプレイヤーを意味する。


「ええ、ただ中々入る機会が掴めなくて……」


「じゃあウチ入りません? のんびりとしたところですけど」


 そういって魔法職の彼――『ウミ』さんは自分が所属しているギルドを勧めてきた。


「また貿易手伝ってくださいー! すっごい助かります!!」


 ヒーラーの彼女――『ソラ』さんもペテルギウスのギルド加入に賛同する。




「えっと、それじゃあ折角だしお願いします!」


 こうして彼は、この世界での最初の居場所を見つけたのだ。




「おおっ、やった!! ようこそペテルギウスさん、駄目な大人の集まり――『ダメンズ』へ!! めっちゃ歓迎しますよ!!」


 『ダメンズ』。ここがペテルギウスが加入した、最初のギルド。


最初のPvPは、どうしても緊張しますね・・・

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