「ねぇねぇカエルさん」
「ねぇねぇカエルさん」
「どうして、あなたはカエルなの?」
「どうしてって言われてもなぁ」
「あんたこそなんで自分が人間なのか考えたことはあるのかい?」
「あるよ、よく考える」
「どうして人間なんかに生まれちゃったのかなぁって」
「それで……答えは見つかったのかい?」
「ううん、まだ」
道端で小さなアマガエルを人差し指に乗せ、ぶつぶつ1人で喋っている。
背負っている赤いランドセルはまだ新品のようで、とてもきれいだ。
「まだこの先は長いんだ」
「きっといつか、みつかるさ」
「ほんとう?カエルさん」
「さぁ、どうだろうね」
そこまでやったところでカエルはぴょんっと飛んでしまった。
「……」
ユウはごっこ遊びが大好きだ。
なにかを演じながらその場で思いついたセリフを話す。これがとても得意なのだ。
でも学校ではやらない。
休み時間にやっていたらクラスの子に、からかわれたからだ。
いつものように仲良しのミキちゃんと一緒に帰る時もやらない。
今日はミキちゃんは風邪で休んでいるため、たまたま1人で帰ることになったから
こんな風に遊んでいるのである。
早く家に帰ったところでごっこ遊びはできないから、ゆっくり歩きながら次の役を探す。
なぜ家ではできないのか。
それはユウにはちいさな弟がいるからである。
夢中になって演じていると、つい大きな声を出してしまい
眠っている弟が泣き出してしまうのだ。
そうやって泣かすとお母さんが鬼のような顔して睨みつける。
叱られるわけではないが叱られるよりもそれは嫌なことだった。
「ねぇねぇカラスさん」
「どうしてあなたはカラスなの?」
「どうしてだと思う?」
「え!どうしてかなぁ」
「真っ黒でカッコイイからカラスになったんじゃない?」
「残念はずれよ」
「えー」
「正解は?」
「おーしえない」
「……」
今日は習い事があるから、帰る時間が遅すぎてもいけない。
でも早く帰りすぎても、つまらないからまだ次の役を探す。
ユウは水泳を習っている。
別に行きたいわけではない。どちらかといえば行きたくないほうだ。
理由は2つある。
1つ目は泳ぎが下手だから。
これはまだ習い始めだし得意不得意もあるし仕方ない。
ユウにとって重大なのは2つ目だ。
ごっこ遊びをからかったサヤカも同じスイミングスクールに通っているからだ。
ユウはサヤカのことを、べつにどうと思っているわけではないのだが
からかわれた事を思い出すから仲良くしようと思っていない。
それなのにサヤカはユウにしょっちゅう話しかけてくるのだ。
わざわざ隣にきて、ユウにとっては全く興味のない話をしてくる。
着替えをいれるロッカーも隣を使いたがる。
そして「一緒に帰ろ!」である。
ユウは心の中で「なんでごっこ遊びをバカにする人と一緒に帰らなきゃいけないのよ」と
アカンベーをしながら一緒に帰ってあげている。
サヤカの母とユウの母はママ友であるから、そうしないといろいろ面倒なのだ。
「もう家に着いちゃった」
ユウはしょんぼりした声で言った。
「あーあ」
「小学生って大変」
玄関の戸を開け家に入る。
すると下駄箱の所にメモ用紙が置いてあった。
『マサトと出かけています ママ』
弟の名はマサトである。
母親と弟は出かけているらしい。
ユウはランドセルをものすごい速さで床に置き、そして手を洗ってうがいをした。
今日は宿題は出ていない。ついている日なのかもしれない。
そう思いながらユウは、にんまりした。