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七日目

 

『見つけたぞ』


 一見すると不気味な一文だが、大して気にする必要はない。

 この手の脅し分は見飽きている。

 『あなたのPCはウィルスに感染しています!!』『あなたのIPアドレスを確認しました。三日以内の請求をお願いします』

 一々おたおたしていたらネットの海を泳げない。

 

 ん? 昨日窓に貼った御札は何かって?


 窓からの侵入者を拘束する術式が込められてます。


 びびってる? 

 根拠のない煽りは友情にヒビを入れることになるぞ。


 虚勢もまた同じ? 

 ……確かに。


 ネットで初めてフィッシング踏んだ時のような胸の締め付けられる不安感。

 それもこれもあの厨二店主のせいだ。

 電話したら、何が「あんたなら見えるはずだ。闇の中の真実、無の中にある有に」だ。客観的には白紙の束を押し付けただけじゃないか。

 

 だが俺主観だとただの白紙の束ではない。魔力を感じた以上、ただのこけおどしとは思えない。


 見つけたぞ。

 つまり、誰かが探していることになる。おそらく魔法の使える人間を。何のために? 捕まえて研究するため?

 

 ……解剖されて水槽の脳まで妄想した。


 …………。

 

 そうだ。学校に行こう。




 学校に到着、しかし常にあまり1の俺が教室に来たからって肩の荷が軽くなるわけでも……。


「おはよーサンジェルマン」

「……おはよう」


 まさか東さんに癒されるとは。

 こんなことで好きになってしまう、俺は安い人間だ。魔法使いはチョロイン。連載中。


「それで、何人か集めてくれた?」

「え?」

「うん?」


 ……ああ、そういえば。部員集めとかそういうミッションがあったような。土日を挟んですっかり忘却していた。


「ちなみに、うちは二人集めましたよー」


 で? 君はどうなのかな? ニヒヒとした笑いではなく、不自然なほど自然な女の子らしい笑顔がそう語っていた。

 0人だとわかっていての態度だろう。


「……一人」

「……見栄っ張りは友情の崩壊だよ? 怒らないから素直に言いなって。」

「待っていなさい」


 颯爽と教室を出て中等部の校舎へすたこら。

 

 校内のどこにいても基本アウェーな空気を感じるが、中等部の廊下は特に恐ろしい。

 中学生は残忍な奴らだ。

 ここは母校と違い、お受験してくるような子たちだから治安は良い方だが、中学生は中学生。タコ殴りにされないうちに用事を済ませよう。


 二年C組に到着。

 教室と廊下がプラスチックの壁で隔てられているのですぐに実里がいることを確認できた。


 そして向こうもすぐにこちらに気付いてくれたようで、低血圧特有の気怠い動きで出てきた。


「どしたのせんせー」

「ちょっとお願いがありまして」

「へえ、珍しいね。何々?」


 そういえば、頼み事なんて一度もしたことはなかったか。

 急に目をキラキラと輝かせおって。


「部活に興味はないか?」

「え?」

「新しい部活を作ったから、部員が欲しく……てって何をする」


 背伸びをして無言でぺたぺたと顔を触ってくる後輩。

 やめて、やめて、好きになっちゃう。


「せんせー熱あるんじゃないの? 保健室行こう? も、もしかして不治の病で余命が……」


 冗談が過ぎる……とツッコミがいれられない。

 顔が真っ青で涙目になっている。本気で心配しているらしい。

 死に際でもないと俺は部活を作ってはいけないらしい。俺もそう思う。


「ちょっと友達の頼みというか――」

「友達!?」


 すごい声出た。

 常人より二割減のテンポとボリュームでだらだら喋っているこの子も叫ぶことはあるらしい。


「と、とも、とととと、とも、ともも、とも、ともだちって」

「超絶スクラッチカッコイイな。ラップ対決する?」

「ふざけないで!」


 ガチギレされた。

 俺に友達ができるのは犯罪か何かか。


「誰」

「ちょっと、怖い」

「誰」

「お、同じクラスの人です」

「男? 女?」

「女です、はい」


 中学生に凄まれただけで腰砕けになる魔法使いがいるらしい。


「……せんせー」

「な、何」

「壺とか買わされてない?」

「今のところは大丈夫だ」


 コントに見える? 大真面目な会話です。

 

「ならいいけど」

「それで、入ってくれる気は?」

「まあいいよ。せんせーのこと心配だし。ちょっと優しくされただけで勘違いして告白して振られて不登校ーとかなっても困るし」


 やたら具体的かつ現実味のある未来図はやめてほしい。

 まあ俺は底辺だと常に身に刻みながら生きているので勘違いなんて早々起こらないから安心されたし。


「それじゃあ放課後に部室棟の二階端でお願いします」

「かしこまりました」

「……ん?」


 教室の方に目をやると、女子中学生の群れがこっちの様子を伺っていた。


「……実里ちゃんは謎のイケメン高校生に勉強を教えてもらってる」

「は?」

「知らないうちにそういうことになってたの」


 なるほど。

 誰だあいつ、噂の野郎か。大して顔よくねえぞと。


 中学生って本当残酷。




 そして放課後のゲーム部の部室。

 雀卓は端に寄せて普通の長机が導入されていた。

 新品の長方形を囲む総勢四人。


「中等部二年の葵実里です。よろしくお願いします」

「中等部二年、織田虎徹です。この度はお誘い頂きありがとうございます」


 もう一人は高等部の一年で織田君の姉らしい。が、今日はバイトでいないそうだ。

 それにしても、この織田虎徹と名乗る後輩……。


「老け顔だろ?」


 ここで東選手得意の右ストレート。


「いや、そ、そんなことないと思うよ」

「お気を遣わずに、自覚しておりますゆえ」

「い、いやあ……」


 こんな時何て言えばいいのか、人生経験が足りない。

 安っぽい慰めは駄目だろう。ぼっち相手に「君はぼっちじゃない」って言ったら善人ぶったアホ扱いして終わるだけだ。


「この子は言葉だけでも、もう少しガキっぽければねえ」

「申し訳ありません」

「いや、謝ることじゃないんだけどさ」


 立ち振る舞いが俺よりずっと大人っぽい。老け顔と言うが、年相応でないだけで十分に整っている。


「折角だから虎徹君の鉄板ネタ披露したら?」


 ここで同じクラスらしい実里のパス。

 こんなギャグに疎そうな子になんて振りをするんだ。


「では一つ」


 あ、ちゃんとあるんだ。

 ここは良い先輩として、しっかりリアクションをとってあげよう。俺ってばできる男。


「保育園時代、その頃から体つき顔共に年に不相応な私は、甘えにいった保育士の方に悲鳴を上げられました」

「…………」


 …………。

 

 ………………。


 反応しづらいわ!

 泣けばいいのか、それとも笑ってやるべきか!

 実里はなんでこの話をさせた! いじめか!


「……人生、そういうこともある」

「はい」


 彼とはなんとなくだが、仲良くできる気がする。


「そんじゃあ戻して自己紹介、うちは東志乃。エロ本見たら死ぬくらい清楚な二年生です」


 ……無視ししとこ。


「同じく二年の」

「非電源ゲーム部の会長です!」


 ……無視しよう。


「二年の」

「会長を讃えよ! オールハイル会長! イッヒハイル会長!」

「うるさい! 何がどうやって俺が会長なんかに就任したんだ!」

「部活登録する時」


 あっけらかんと言ってのけた。一切悪びれた様子もない。

 完全になめられている。


 ……今更だが、俺をバカにしてくる筆頭後輩葵実里を連れてきたのは間違いだったかもしれない。とんだ相乗効果を生むか想像できん。


「せんせーがかいちょーかー、かいちょーせんせー」


 誰が怪鳥先生だ。俺はイャンクックか。でも炎なら出せる、それに飛べる、尻尾も生やそうと思えば生やせる。

 あれ? 俺ってもしかして……。


「てっきり東先輩が会長かと思いましたが」

「いや、うちよりこっちが会長やった方が面白いし」

「なるほど」


 あ、織田君が俺に憐みの目を向けてくれてる。優しい。さすがに好きにはならない。


「では会長、会発足の挨拶をお願いします」

「皆で堕落に満ちた生産性のない時間を楽しもー」

「おー!」

「おー」

「お、おー」





 そして人生ゲームやって借金こさえて帰ってきました。

 まさか一生就職できないとは思わなかった。


 それで、誰か来た?


 来てない。


 ……ふっ、やはりただのびっくりメッセージだったか。

 どわっはっは、ネットマスターの俺をこの程度で脅かそうなど笑止千万。


 あ、電話だ。まあどうせ母さんだ。

 あれ、違う。誰だろう。

 もしもし。


「見つけたぞ」


 ぷつっ。ぷーぷー。


 ……トイレ行ってくる。




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