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六日目

 魔法使いらしく魔法の研究をしよう。


 魔法は使わないようにしてるくせにだって?

 それはそうだけど、備えるにこしたことはない。いざという時に使える弾数は多ければ多いほど精神的な拠り所になるのだから。


 そもそも、俺が適当に感覚で使える火とか水を出せるだけの魔法で満足してたらホムホムも生まれてなかったわけだし。

 時間加速だとか天候操作のような難しい魔法を実践するには先人たちの残した論理を紐解かなければならない。


 さあ人に見えざる水面下で力を蓄えよう。最強キャラのくせに落ちこぼれで通している主人公キャラの如く。

 彼らには共感を覚える……が、俺と彼らの間には大きな壁がある。


 俺にはバトルをするような敵キャラもいなければ、秘密を明かしてまで助けたい人もいない。


 つまり、二次元と三次元という次元の壁は厚いということだ。




 電車に揺られ数十分。

 都心を過ぎ未開発の町へ赴く。目的は行きつけの古書店。

 こういう時間、思い出すのは大抵ロクでもないことだ。つまり、過去十六年間のどこかを想起するということ。

 今回は小学生時代の話をしよう。


 幼稚園児で魔法に覚醒したのは知っての通り、父の尊い犠牲もあって未成熟な倫理観でも魔法を公に使うようなことはなかった。

 だが、自分は特別であるという優越感を抑え、自分は異常なのだと認識して生きられるほどできた子供でなかった。


 小学生時代は特別いじめられていた訳でもなく、勝手に孤立していた。

 早めに来た厨二病、俺はお前ら凡人とは違う選ばれた人間なんだぜ。小学生にして早くも社会不適合者に。

 通信簿に書かれる言葉は「物静か」「大人しい」「真面目」という根暗をマイルドにした表現ばかりだった。


 ……更に嫌なことを思い出した。

 自由帳に書いた意味もない魔法陣、無茶苦茶な魔法の設定、現代の孤独な魔法使いに助けを求めに来た異世界の王女様との恋物語。

 こんなの休み時間に書いてる奴に友達なんてできるか。

 待て、あれはどこにいった。棄てた記憶もないぞ俺。


 もしかして父と母の荷物に紛れた?

 母さんが息子の思い出と言って通信簿とか色々まとめていたけど……まさか。


 暖房の暑さによるものではない、嫌な汗がコートに滲んだ。

 

 話を戻そう。考えたくないから戻した。

 そういった時代に、色々な本屋を巡る俺カッコイイを小学生にしてやっていたわけだ。

 実際魔法抜きで人と関わるよりも本の世界の方に楽しみを見出す気質だったのもある。


 そして、何より時々本当の魔導書が見つけられるのが楽しかった。

 全編にわたって書かれたものもあれば、一ページメモのように書かれたもの、ただの人が見ればよくあるオカルト系の本だが、使える人間にだけ読み取れる理論が載っているのだ。


 できることが増えるたびにより魔法に傾倒して社会から脱線していく。

 でも魔法さえあればいいや、そんな小学生。


 そしてそのまま高校生に。

 行動原理が一ミリも成長していない。

 精々自分を客観視できるようになった程度である。「特別だぜ俺」から「こいつクズだな」という変化、昔の方が幸せだったかもしれない。世界を知らないという若さが懐かしい。




 電車内で黒歴史『破滅に至る病』が発動したことによりHPが五割減。

 暗黒のオーラを纏いながら初めに定期的に寄らせてもらっている古書店へ足を踏み入れた。


「む、久しいな、魔法使い」


 迎え入れてきたのは店長代理の大学生、青柳道男。イケメンである。


「どうも青柳さん」

「やれやれ、つれないな。ここにいるのは闇の鼓動を知る者だけだ。仮の名で呼び合う仲でもないだろう?」

「そうですね。獅子堂斬鬼さん」

「ふっ、さて、本日は何をお探しかな、終の賢者さん」


 ……残念なイケメンなのである。

 独自のワールドを展開するこの人と会話していると、また背中に汗がにじんでくる。かゆい、こそばい。動悸が激しくなる。


 しかし有能。

 定期的に本物を仕入れてくるし、はずれもはずれで人気のある絶版物だったりして、オカルトマニア界隈では噂の古書店である。

 彼が中学の時に営業に関わって以来業績は上向きだそうだ。


「何か新しい魔導書があればと」

「より深い深淵を彷徨いたいか。まあ、入り口までの道案内が俺の役目。こいつがあんたを食らうか否か、俺はじっくり観察させてもらおう」


 叫びたい。転がりたい。かきむしりたい。

 衝動を懸命に抑えて本を受け取る。

 同時にビリリと皮膚を電流が走る、ジブリなら髪が逆立つ演出が入ってる。


 あっ、これはモノホンだ。


「もらいます」

「流石は終の賢者。もっていけ。どうせ無知蒙昧な知りたがり共は一銭の値もつけん代物だ」

「それじゃあありがたく」


 大抵こういった本は値段のつけようがない。

 とはいえ、それでも金銭取引をするのが現代人。なのにこの人は本当に値打ちの知れないものはタダで渡してしまう。


 ……実は本当に同類の人なのじゃないかと疑っている。


「過ぎる力は身を滅ぼす、ククッ、あんたはどこまで行けるかな? 精々誤って黄泉路に迷いこまないようにするんだな」


 やっぱり痛い人だ。

 でもイケメンだからちょっとカッコイイ。ずるい。


 …………我は最後の魔法使い、終なる賢人、世に救いをもたらすものなり。


 なんでもないです。


「あっ、道男またお客さんに絡んでる!」

「ちっ、面倒な奴が来たな」


 店先からやって来たのは彼の幼馴染の方。


「面倒とは何よ! 高校の時忙しい中店を手伝ってやったのは誰よ!」

「はいはい、感謝してるさ。なんなら口づけでもしてやろうか?」

「ば、ばっかじゃないの! ふんっ」


 満更でもない感じに顔をそむける幼馴染さん。

 彼には他にも面倒見のいい学生会の会長、シスコンの義妹、慕ってくる地元の中学生など豪華ラインナップが揃っている。


 こんなことが許されていいのだろうか。


 この厨二がモテるのは間違ってる……そう言うのは簡単だが、どうやっても嫉妬丸出しの発言にしかならない。

 俺にできるのはイチャイチャを尻目に逃げ帰ることだけだった。




 という感じで調達してきました。


 さて、どんなことが書いてあるのか。

 できれば時間遡行魔法とかがいいなー。


 では、いざ御開帳。


 『見つけたぞ』


 開いた瞬間、白紙に表れた一文。

 他のページは全部経年劣化の汚れ以外、文字一つ見当たらない。

 

 ……何これ。







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