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一日目



「穂波みうです。よろしくお願いします」


 転校生。

 この長い黒髪の正統派クール系お嬢様系美人はどこのアニメから抜け出してきた。

 決意の翌日にこの王道イベント。俺が主人公ならここから物語が加速し始めることだろう。彼女はホムホムを探しに来た結社のエージェントかもしれない。

 ほら俺に意味ありげな鋭い視線向けてきた。


 なんてこともなく、ホームルームが終わり、彼女の席の周りには同じ生物とは思えないコミュ力星人たちが集った。

 部活とかバイトとかLINEとか太陽圏外の言葉が聞こえてくる。

 翻訳魔法は使えないので遠巻きに眺める。

 俺の周りに人生で一度だってあんな風に人が集まったことがあるだろうか。


 ……中学の時にカバンから女子のジャージが出てきた時に一回あったよ。

 学級裁判って本当にあるんだと思った。

 女子って怖い、泣く→かばう→糾弾するの恐ろしい即興コンビネーションで「あれ、もしかして俺が悪い?」と思わせるような責め方してくるの。


 ……楽しそうなクラスの中でなんで一人で暗くなってるんだろう。

 転校生が転校生だから人気というのは理不尽だ。勇者は強くて当然、魔法使いは魔法が使えて当然、転校生なら人気があって当然。

 何故皆当然のことであれだけ浮かれられるのか。

 美人だからか、なら仕方ない。




 そして今日も無事一日言葉を発せず学校が終わった。

 転校生襲来。これでもう話題としては満足でしょ?


 ふざけるなと、うん。

 そう言われると思って明日頑張るじゃなく今日だけ頑張るの精神で校内徘徊して来たよ。




 一学年がAからKクラスまである昨今にしては珍しい膨大な数の生徒がいるうちの高校。私立で中等部と高等部に分かれており、もちろん校舎も広すぎるくらいに広い。

 もはやダンジョン。ランダム生成ではないのが救い。

 しかし、一人で放課後の廊下を歩いていると無性に不安になる。関係者以外立ち入り禁止の所に立ち入ってる気分。


 気づいたらぼっちの味方図書室へ辿り着いていた。

 お昼休みのお友達、全校内のぼっちが一挙に終結するパワースポット。もし自分がゲームのキャラなら死ん後にここからリスポーンする。

 しかし、昨今はここにも強敵が出現する。敵シンボルは青じゃなくて赤。


「あ、せんせー」


 長机から手を振ってきたエネミー、中等部の後輩、葵実里。

 眠たげな眼と長い黒のポニーテールが特徴的。

 ひょんなことから図書室で勉強を教えて以来構ってくる、もといいじってくる。


「今日も一日ぼっちだった?」


 もといバカにしてくる。

 無駄に長いそのポニテを掴んで振り回してやろうか。


「転校生とバリバリにトークしてた」

「へえ、それじゃあLINE教えてよ」


 ダメだ。こいつも宇宙語を話し始めた。

 もはやまともな地球人は俺しかいないのかもしれない。

 この世界を一度炎魔法で滅菌しよう。燃えなかった人間だけが地球人だ。


「線って意味だ」

「わー博識ー、さすがせんせー、さすせん」

「ポニテ掴んで振り回されたいか己は」

「JCの髪触りたいとか、えっちー」


 生意気とはこの小娘のためにある言葉だ。

 本当にえっちなことがどんなことか教えてやろう。このタイプは押されると途端に弱くなる。そう漫画で習った。


「ばびぶ、ぶぇつ、別にそういうんじゃない」

「ぷぷ、きょどりすぎー、せんせーっていじられて輝くタイプだよねー」


 小うるさいその口……ふさぐぜ……!

 って感じの乙女ゲーキャラの人格を俺に誰かインストールしてほしい。

 今のOSバグだらけで困っちゃう。でも性格だけイケイケになっても困る、無理にキスするとか根暗がやったら普通に逮捕案件だし。


「帰る」

「あー、待って待ってごめんってば。勉強教えてよー」


 勉強が苦手な実里はこうしてやたらと俺に教鞭を振るわせたがる。

 人に頼ってもらうったり構ってもらえるとそれだけで相手の態度はどうあれ、ちょっと嬉しくなってしまう悲しい性。

 しかし、玩具にされてなお尻尾を振るなど、そんな躾けられた飼い犬のような主人だとホムホムに言えるはずもない。そう、今日から俺はウルフ――。


「……せんせー、お願い」


 上目遣いで甘くか細い声が心臓を跳ね上がらせた。

 自分が可愛いってわかっててやっている。末恐ろしい。将来は魅了魔法を専門に使う魔女か座銀のホストクラブでぶいぶい言わせる系の魔女になってしまう。


「悪女だ悪女」

「えー、放課後図書室で自習する健気な女の子に言うセリフー?」


 ……確かにそうだ。

 性格は反抗期ならぬ生意期だけれど、やっていることは立派なことじゃないか。

 これで態度が色白図書委員な小動物系だったら喜んで教えたものを。


「とりあえず社会教えてよ、雑学増し増しでね」


 ラーメン屋の注文か。

 望み通り無駄にネットの海で溜め込んだ日本史や世界史の豆知識を吐きだしてやった。胃もたれするがいい。


「せんせー三回留年したりしない? そしたら同学年だよ」

「寝言は寝て言え」




 ……という感じに、残念ながらあまり変わり映えのない一日だった。

 え、面白かった? ならいいけど。

 実里は友達じゃないかって?


 ……いや、教え子だよ教え子。



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