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9.

 案の定、リリオ・ロペスはいなかった。まるで地面を蹴り殺そうとでもしたように足跡がそこらじゅうについていた。

 相当あわてたらしい。血で汚れたコーデュロイのズボンが枯れた木にかけてあった。へっへっへ、あのカマ野郎、ズボンをはくヒマもなかったとみえる。

 他にも忘れ物が残っていた。サイコロ、くしゃくしゃの毛布、骨だけになった焼き魚、カミソリ、消えた焚き火の上にフライパン――なかには目玉焼きが半分。

 あいつ、卵なんてどこで手に入れたんだ。おれだって食いたいのに手に入らなかったんだ。

 おれは卵をトルティーヤですくい、包んで口に放り込んだ。

 うーん、うまい。


   †


 ホモ野郎の足跡は途中からひづめの跡に変わり、南のほうへと向かっていた。

 山を降りて、少し盛り上がった地面へと馬を進めると、馬にまたがったリリオ・ロペスがえっちらおっちら平野を横切って街道に向かうのが見えた。 もちろんズボンははいてない。

 ちょっと遠いが、ここから狙えば当たるかも。

 おれはうつ伏せになり、カービン銃の照準器を立てた。

 目盛りを四百ぐらいにしておく。

 銃床に頬をあてて、やつを狙う。

 照準とおれの目、リリオ・ロペスが一直線に並んだ。

 おれは引き金に指をかけた。

 アディオス、ホモ野郎。


   †


 ヤロー! 卵に毒入れやがったな!

 腹痛が止まんねえじゃねえか!


   †


 だめだ。銃を構えるたびに腹がゴロゴロ鳴って、おれは草むらに駆け込むハメにおちいった。すげえ痛い。腹のなかでサボテンが膨らんでるみたいだ。これじゃ銃が使えねえ。もし銃を撃ったら、撃ったときの反動が腹に伝わって恥ずかしいことになっちまう。男の名誉に関わることだ。

 結局、三時間近くまともにズボンもはけやしなかった。

 下痢がおさまったころにはリリオ・ロペスの姿は地平線の彼方に湧く砂ぼこりのなかに消えていた。

 くそっ!


   †


 ま、焦ることはないさ。

 リリオ・ロペスは南へ逃げた。

 つまりトレオン市のほうへ向かっている。一石二鳥だ。リリオ・ロペスを始末できるし本隊にも合流できる。

 おれは馬を駆った。途中でリリオ・ロペスが転がっていねえかと期待したけれど、あるのは石ころとなんだかよくわからない家畜の骨、トカゲの巣穴、チャパラールの茂み、サボテン、潅木、誰がなんの目的で打ったのかわからない棒杭……

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