4.
おれたちコンスティシオナリスタス、つまり護憲革命軍はチワワから車両を何百と連ねて、鉄道で南下をつづけている。政府軍は駅と電信局のある大きな町に大軍を置いていた。だから、パンチョ・ビリャ率いる北部師団は騎兵と機関銃と大砲と食いものと、それに銃をもった八千人の兵隊とで鉄道沿いの町を次から次へと攻め落として、政府軍のやつらをぶっ殺さなきゃいけない。トレオン、サカテカス、グアダラハラと占領すれば、メキシコ・シティはすぐそこだ。
おれとしてはリリオ・ロペスの野郎を一日で見つけてぶっ殺して大急ぎで本隊に戻りたかった。少なくともトレオンに攻め込むときまでには戻りたかった。でかいいくさに顔を出さなかったんじゃ腰抜けっぽいし、それにおれには男の名誉と同じくらい革命も大事なんだ。
†
出発すると、おれは南東の谷と野原の入り組んだほうへ駆け足で進んだ。雲はなく、砂ぼこりが風に渦巻いた。リリオ・ロペスが金玉に鉛玉をめり込ませたまま、馬に乗れるとは思ってなかった。鞍の上でケツが跳ねるたびに地獄の苦しみが襲ってくるはずだ。ヒーヒー泣きながらの旅になるだろうから、そうはやくは動けない、そう踏んだ。
馬はなだらかな道を上り始めた。太陽は鍛冶屋の炉みたいにカンカンに燃えている。喉が少し渇いてきた。水筒に手をつけるのはまだ早い。進んでいる道から水の匂いがまったくしないからだ。おれはメスキートの一番若い枝を切り取って、しゃぶり、唾を飲み込んで我慢した。
そうやって二時間がたつころには棘みたいな雑草とサボテンがまばらに生える平原に入っていた。起伏がなだらかで、東には青黒く不毛な山々が見える。町や川はない。大きな木も見えない。砂と石ころと雑草だらけだ。
おれは考えた。リリオ・ロペスはまず医者を探すはずだ。はやく手当てしてもらわないとチンポコが腐りおちて死んじまう。ちゃんと手当てしてくれる医者がやつには必要だ。
医者をさがせば、やつにぶちあたる。
「なんだ楽勝じゃねえか」
おれはメスキートの枝をぺっと吐いた。一〇センチと飛ばないうちに小枝は不気味な風を切る音とともに二つに折れた。咄嗟に馬に拍車をくれた。ヒューン、バス! さっきまでおれがいた場所でサボテンが飛び散った。
岩の陰で飛び降り、カービン銃の安全装置を外す。
また銃弾がすっ飛んできた。
涸れた川にそって潅木が生えている。銃弾はそのむこうからやってきていた。
政府軍か? コロラドス派の民兵か? それともリリオ・ロペスのクソ野郎が待ち伏せしてたとか……
少し顔をあげる。涸れ川の上っぱじからソンブレロが見えた。相手は二人だ。リリオ・ロペスじゃねえ。
くそったれ。誰だか知らねえがやってやろうじゃねえか。
おれは自分を勇気づけるように大声を張り上げた。
「てめえら皆殺しにしてやるぜ。革命万歳! フランシスコ・マデロ万歳!」
相手のほうからも声がきた。
「パンチョ・ビリャ万歳!」
あ。
なんだよ、味方じゃねえか。
「おーい、撃つなあ!」
ソンブレロをかぶった男が二人出てきた。一人は年寄りで腰が曲がっているが、もう一人は若くて背が高いインディオだった。年寄りが言った。
「おめえ、どこの部隊だ」
おれは答えた。「パンチョ・ビリャ将軍のとこだよ」
「わしらもパンチョ・ビリャ将軍んとこだ」
「なんだ、味方じゃねえか」
「コロラドスかと思ったぞい」
「おれは生粋のマデロ派よ。何してたよ?」
「わしらは偵察の帰りだよ。コロラドスや地方警備隊が小さな村を襲撃してるから、それを本隊に知らせにいくのよ。そっちは?」
「男の名誉の問題で殺しの旅をしなくちゃいけなくなった。そうだ、この写真の男、見なかったかい?」
年寄りは首を横にふった。若いほうも同じだった。
「金玉を撃たれた男だからかなり目立つと思うんだけど」
「何度見せられてもないもんはない。昨日の夜からこのかたずっと谷の道を通って初めて会ったのがお前さんじゃて」
つまりリリオ・ロペスは別の道を入ってったってことか。まずいな。
「じゃあ、このへんで医者はいないかな?」
「このへんに医者はおらんよ。みんな殺されたか連れてかれたかトンズラこいたからなあ。でも、まてよ。あそこなら……」
「なんだい?」
「いや、怪我人なら民間人だろうが革命軍だろうが政府軍だろうが手当てしてる修道院があるんだ。名前は確か、ア、アレディー……」
若いほうが言った「アレベンディーナス」
「そう! そうなんだよ。アレベンディーナス修道院!」
「どうやったらいけるんだい?」
「そこに行くには一回戻って、山道のほうへ曲がらなきゃいけねえんだ。坂を登りきれば、二時間もすれば平地に大きな建物が見えてくらあ」