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3.

 許可がもらえたことが嬉しくて嬉しくて、おれは飛び切りめかしこんだ。乗馬用の上衣に牧夫がはく細身のズボン、ツバの反りが激しくないフェルトのソンブレロ帽、ルビーナの店で買ったチョッキのポケットに銀の懐中時計を入れて、鎖がボタンの穴にかかるようにした。グアダルーペの聖母の銀メダルを首にかけると、顎と首っ玉が隠れるくらいに大きい真っ赤なネッカチーフを巻いた。

 時計やメダルを見ると一年前を思い出す。

「これを持っていけ。これはおれがお前のじいさんからもらった大切な時計だ」

「でも、おれ時計なんて読めないよ」

「読めるように勉強しろ、アンへル。兵隊になったら、今までみたいにはいかんのだぞ。一番鶏が鳴いたら目を覚まして、教会の鐘が鳴ったら家に帰るなんてわけにはいかんのだ。午前六時起床! 午前九時行進訓練! 午後一時射撃訓練! 午後十時消灯! もしできなかったら銃殺だ、アンへル。だから、この時計を肌身離さずつけとくんだ」

「うん、父ちゃん」

 びしっ! びんたが飛んだ。

「はい、父さん」

 次は母さんの番だ。母さんはおれを抱きしめるとおれの頭にぼたぼた涙を落とした。そんなことされたもんだから、おれまで涙ぐんじまった。母さんは道中加護があるようにと、自分がいつもつけてるグアダルーペの聖母のメダルをおれにつけさせた。

「あんがと、母ちゃん!」

 ばんっ! 父さんのときよりも強烈なびんた。おれは壁まで吹っ飛んだ。

「ありがとう、母さん」

 おれは姉さんたちにさよならを言い、柳編みの籠ですやすや眠っている弟のミゲルのほっぺたを軽く撫でた。

「しっかりしろよ、ミゲル。おれの身に何かあったらお前が惣領息子だ。父さんと母さんと姉さんたちを頼むぞ」

 家族のことを思い出すと、胸がかあっと熱くなった。リリオ・ロペスの野郎はおれだけじゃなく、おれの家族の名誉にも泥を塗ったのだ。

 おれは旅支度を続けた。リリオ・ロペスのホモ野郎を殺るのに必要なもの。銃は四四口径のスミス・アンド・ウェッソンを短くしたやつとモーゼルのカービン銃。銃剣はいらねえ。重いだけだし、ナイフもある。それに三〇口径の弾丸を積めた弾薬ベルトをたすきがけにして、ガンベルトを腰に巻いた。それにナイフをブーツのなかに仕込んどく。

 弾薬箱に腰かけてリボルバーの輪胴の回り具合を調べていると、クアドラータがやってきた。いつもおれにトルティーヤを焼いてくれる女の子だ。革命軍じゃ鉄道でも騎兵でも必ず女たちが付き従って行軍する。飯をつくり、服を繕い、カービン銃を持って戦い、夜のベッドのお供をするわけだ。女たちは必ず誰か一人についている。ホセならメルキアデス、ブラスコならパンチャ、おれアンヘルならクアドラータって具合にね。まあ、夜のベッドのお供までされたことはない。おれとクアドラータはまだトルティーヤの関係だ。

「はい、お弁当と写真」

「写真?」

「リリオ・ロペスの写真よ。それを見せて歩いたほうが探しやすいでしょ」

そういわれりゃそうだ。おれは今まで「金玉から血を流した男を見なかったか」ってきいてまわるつもりだった。

 クアドラータはまるで姉さんみたいなすまし顔で、あたしがいなきゃだめね、と首をふった。

「ねえ、アンヘル。あんたってばかよ。顔がとってもきれいでいい男だけど、でもばか。そうやってかっこつけたりするとこなんて、ばかばかばかの大ばかよ」

「そんなにばかばか言わなくてもいいだろ。これにゃ男の名誉がかかってるんだ」

「それがばかなの。男の名誉なんて……殺されたらどうすんのよ」

「おれは殺されないよ」

「ほんと?」

「ああ」

「じゃキスしてよ」

「なんでそうなるんだよ」

 まわりで興味なさそうにぐうたらしていた男どもが急にはやし立てた。

「……ここでか?」

「怖いの?」

「ぜんぜん」

 クアドラータは目を閉じて唇をおれのほうにとがらせて、喉の奥で、ん、と言った。おれたちは口づけた。クアドラータの唇はやわらかかった。

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