14.
ホモ野郎に引導をわたすための旅はつづく。
ただ、最近はこの追跡に身が入らない。だって、革命軍はトレオンを占領したんだぜ。となりゃあ次はサカテカスの番だ。こりゃトレオンよりもでかい戦になる。トレオンよりもでかい戦ってことは、もうこれで全部決まっちまうかもしれないってことだ。そんなでかい戦に参加できないかもしれないなんて、おれってばホントについてねえ。
政府軍は粉砕されてから、荒野のあちこちに逃げまわっていた。ほら、石ころひっくり返したら虫がおどろいて這い回るだろ。あれと同じだよ。それを革命派の民兵がとっつかまって場所を選ばずぶっ放すもんだから、処刑があちこちで行われていた。村で砂漠で道ばたで。たいていは政府軍だったが、ときどき牧童姿のコロラドス兵や灰色の制服の地方警備隊もやられていた。連中、本当は木に吊るしてやりたかったらしいが、この辺は銃撃戦が激しかったもんだから、まともに立っている木が一本も残っていなかった。
おれは岩山がぽつんと立つ道ばたで政府軍を処刑しようとしてる少年兵に挨拶した。
「よっ、こんちは」
「こんちは」
「トレオンの戦いには参加したのかい?」
「もちろん。そっちは?」
「いや。ちょっと男の名誉がかかったヤボ用があってよ」
「男の名誉がかかってたんじゃしょうがないね」
……といいながら引き金を引いた。ずどん! そいつは膝をついた政府軍の頭をぶっ飛ばした。政府軍の兵隊は砕けた頭から脳みそまき散らしながら目の前に掘られた穴のなかにすとんと落っこちた。そいつは慣れたもんで土の山にひょいと登ると土を穴に蹴り落とし始めた。おれも馬を繋いで、そいつと一緒に土を穴のなかに蹴り落としながらいろいろ話した。
「なあ、お前もう何人ぐらい撃ち殺した?」
「十かそこら……それ以上は数えてない」
「ひょっとして数えられないのか」
「おいらは学校に通ってないもん。そっちは?」
「おれは父さんから教わったから百くらいまでいけるぜ」
「違うよ、何人殺したかって」
なるほど、そういうことか。おれは考えた。そういや最近リリオ・ロペスのクソホモをぶち殺すことばかり考えていたもんだから、やたらめったらぶっ放した後、これが何人目の殺しになるのか数えるのを忘れていた。
「ちょっと待ってくれよ。えーと……」おれは指折り数えてみた。「オヒナガで撃ったやつだろ、トペラポ渓谷で殺ったやつだろ、それに命乞いしてきた政府軍の将校、クアラレステで撃ったグリンゴのじいさんは死んでないと思うんだけど、やっぱり死んだかな? あっ、それをいうなら車を盗んだ追いはぎども。あいつらは何人車に乗ってたんだろう……うーん」
「数えられないの?」
「わかんねえ。なんだか人を撃ち殺すのも最初の三人くらいは印象に残るけど、あとはそんなにな、どうってことない気がしてくる」
「おいらはみんなトレオンで殺っつけた」
「なあ、そんなに殺っつけてると一人ぐらい逃がしてやろうかなって気はしないか?」
「どういうこと?」
「おれ、実は殺されそうになった政府軍を二人助けてやったことがあるんだ」
「へー。どうして?」
「そいつらも人間なんだって分かったからだよ。おれたちが殺した連中だって誰かの親だったりするんだぜ」
少年兵は最初はへらへら笑っていたが、そのうちはっとして墓穴に飛び降りると、土を掘ってついいまさっき殺した兵隊のポケットを漁った。すると空っぽの財布が出てきて、一枚写真が見つかった。死んだ政府軍の兵隊は写真のなかでくたびれた背広を着て、赤ん坊を抱いたやせた女と一緒に写っていた。
「どうしよう」少年兵は涙目になって言った。「おいら、この子の父ちゃんを殺しちまったよ」
「そうみたいだな」
「どうしよう」
少年兵の涙がさっき殺したやつの背中にぼとぼと落っこちた。
あちゃあ、なんてこった。
こいつ、いままで自分の殺した相手がサボテンかなにかだと思ってたんだ。むずかしく言えば想像力の欠如だな。おれは言った。
「おいおい、男が泣くもんじゃねえよ。革命なんだぜ。殺ったもんはしょうがねえじゃねえか。お前がこいつを逃がしても他のやつが殺っつけちまってたさ。ひょっとしたら、おれが撃ってたかもしれないんだぜ」
「でも、この子の父ちゃんを殺しちまったよう」
「わかった、わかった。じゃあ、神父を呼んできてやる。それで神さまに罪を赦してもらおうぜ」
「ほんと? おいらのこと、神さまはゆるしてくれるかな?」
「あたぼうよ。待ってな」
あっちこっちで、ぱーん、ぱーんと処刑の銃声が鳴っている。今日一日で後家や孤児が何人生まれるのか、考えるとちっと気が重い。
おれは古ぼけた教会から神父を一人連れて戻った。えらくでぶった神父で革命に手を貸すやつはみな地獄行きだとほざいていたけど、カービン銃でそのぜい肉吹き飛ばしてやろうかとすごんだら、トゲを抜かれたサボテンみたいに大人しくなってついてきた――いや、その道中えらい苦労させられたんだけどな。えらくでぶってたから足は遅いし、足が遅いくせにしょっちゅう逃げ出そうとする。十歩も歩けば息があがってぜいぜい言うくせにな。そのたびにこちとらとっつかまえてビンタを食らわせなけりゃいけなかった。
神父は少年兵が神さまに赦されるようにあいだを取り計らった。聖具も聖書も持ってなかったけれど、まあ問題はねえ。要は気持ちの問題なんだから、少年兵が心の底から後悔していりゃ何にも問題はねえんだ。神父のでぶ野郎は隙を見て、少年兵に残酷な言葉をかまそうとしていたみたいだけど、おれがカービン銃の引き金から指を離していないことに気づくと、それもあきらめ、「アヴェ・マリア」をぶつくさ唱えた。おれと少年兵はそれにつづいた。
アヴェ・マリア 恵みに満ちた方
主はあなたとともにおられます
あなたは女のうちで祝福され
御胎内のイエスも祝福されています
神の母聖マリア わたしたち罪びとのために
今も、死を迎えるときもお祈りください
アーメン
†
全部終わって神父を追っ払うと、少年兵――マヌエルって名前だ――はおれにすごく感謝して、ホモ野郎探しを手伝うと言ってくれた。こっちはあんまり感謝されちまうもんだから、ちょっとこっ恥ずかしかった。
「そこまでのことはしてねえよ」
「いんや、してくれた。あんたがいなけりゃおいらこのまま業を重ねて地獄に落ちるところだった。おいら、あんたについてくぜ。兄貴だって一人ぼっちよりは二人で旅するほうが楽しいはずだ」
「一人ぼっちねえ……よし、一緒に行こう。ただしホモ野郎を殺るのはおれだからな」
「うん、おいらも人殺しはこりごりだ」
「じゃ、男らしく誓いの杯といこうせ」
おれたちは道ばたの居酒屋でプルケを二杯注文し、その鼻をつままなきゃ飲めないくらいきつい臭いのする、どろどろした酒を飲み干した。
げーっ。おえーっ!
そして胃袋の中身を洗いざらいぶちまけた。
腹に含むところ一つない二人組の出来上がりだ。




