暮れ泥む思い出
鴇色の暮れ、染まう雲の細くたなびう摺り足。
海の瑪瑙綾にして、恥ずかしげに寄り来る漣。
細く痕、浜に残り。
突堤に触るる浪、船虫の浚う虚。
檣の影、偲ぶ水平の鈍く、赤見入る様。
煌々と流るる遠望の、金薄く張らる揺めき。
異国の文字、浜に見出だし、
拾いては、弄び。
恋揺する脳裏の微笑み、
甘く香る肌、紅潮に俯く若かりし頃よ。
泥む時の、暗う移ろい。
潮騒の揺り戻す、年甲斐も捨つる思い出。
捲る匂いの辛く、
小川に流せし涙、また此処に滴う湿砂の痕、
波際と同じ、寄せては返す晩年の色。
赤く、赤く染まう、時の顔色。
読んでいただきありがとうございました。