2話目
誤字脱字、間違った文章などがあったら遠慮なくご指摘ください。泣いて喜びます。
中世ヨーロッパの建造物をそのまま再現したかのような、レンガ造りの街並みが広がる。往来では普通の人や頭に獣耳を生やした獣人族、顔が完全にトカゲの亜人族、それに耳が長いエルフなど、様々な人種の人々が、武器を背に背負っていたり、魔法使い然とした恰好でいたり、普通の布の服を来ていたりと、様々な恰好をして行き交っていた。思わずどこぞのコスプレ会場かと錯覚してしまう光景だが、彼らは遊びでそんな恰好をしている訳ではないのだ。冒険者だったり、騎士だったり、普通の町民や商人だったりするのだ。
そう、俺は今、異世界の街へ来ていた。
俺がこの世界が異世界なのだという事に気付いた後、馬車に乗った男、グーベルの厚意(下心ありあり)に甘える事にしてゲインへと連れて行ってもらった。多分グーベルの心は『ねー彼女、そんな所にいないで俺と車でどっか行こうよ』見たいな感じだったのだろうが、残念、俺の頭にはドナドナしか流れなかった。
ゲインへと行く途中、グーベルに色々と話を聞いた。この世界は『俺が異世界で最強チート!?ハーレム王道まっしぐら〜』の世界の中で間違いない。しかもストーリーが始まって2年ちょっと、つまりストーリー的に第2章くらいまで進んでいるらしい事が、グーベルから聞き出した情報によって分かった。
ゲームのストーリーは確か11章まであったと思う。1章は主にゲインを中心に話が展開され、確か2章で王都へとその舞台を移した筈だ。つまり超絶倫チート系主人公は今この街にはいない。
他にも、ゲームの知識と照らし合わせる為に色々と聞いた。
金の単位はZ、ゼニーで合っていたが、ゲームの時の様にすべてが〜Zと表示されている訳ではなく、何と硬貨が存在しているらしい。石貨は1Z、石銅貨は10Z、銅貨は100Z、銀貨で1000Z、金貨で10000Z。ミスリル貨は金貨の10枚の価値があり、白銀貨はミスリル貨の5枚の価値がある。
それと、この世界の構成だ。この世界は一つの巨大な大陸で構成されていて、その大陸に、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、亜人族の5種族がひしめき合う様に互いの領地を支配しているらしい。種族にはそれぞれ得意分野がある。人族は何でも出来る事。エルフ族は魔法に関してはトップである。ドワーフ族は何かを創りだし生産する能力に長ける。獣人族は身体能力がトップクラス。亜人族は1人一人が特殊能力を持っている。
ちなみに今俺が立っているのは人族の国、ティトーレ王国である。人族の国とっても、その他の種族も存在しているのだが、それでもやはり人族の方が割合は多い。
そんなティトーレ王国の街の中でもゲインは人族以外の種族の多さで言えば一番だろう。それもそのはず、ゲインには冒険ギルドが存在するからだ。
冒険ギルドは国境を超えた冒険者協同連盟の事を指す。統率の無い冒険者達をまとめあげ、依頼主と冒険者達との仲介を行う。その他にも迅速な情報共有をしたり、新人の冒険者を育成したり、とにかく冒険者をサポートする団体なのだ。
冒険ギルドは国に縛られないし、種族間の問題を冒険者同士が引き出すのを堅く禁じている。種族なんてものは関係なく、ただ実力があり結果を出す者だけを優遇する、超実力主義なのが冒険ギルドである。才能が無い冒険者はどれだけ頑張っても稼げないが、才能があればどこまでも伸びる事が出来る。勿論その分命の危険は大きいが、それに見合った金が手に入るのだ。男のロマンだろう。
その他にも様々な事を聞いたが、ここでは割愛しよう。そろそろぼおっと突っ立ってないで行動しなければ。何かさっきからめちゃくちゃ視線を感じてるし。
「さて、行くか」
そう言って俺は人混みの中を歩き出した。向かう先は冒険ギルドだ。
俺はこの世界の事を知っている。だが、それは所詮はゲームの知識だ。実際にそこで住むとなると、ゲームの知識だけでは偏りが出来てしまう。
例えば、俺がどれだけ魔法や技の種類、アイテムの種類や材料や合成の仕方、武器防具の種類、魔物の行動パターンや弱点属性、どの地域にどんな魔物や素材が分布しているのか、更に言えばあのキャラクターの攻略方法や会話のパターン、攻撃方法やステータスの値などなど、そんな知識を持っていたとしても、宿屋で働いたり料理店で料理を作ったり鍛冶屋で剣を作ったりする事は出来ないのだ。そんな知識(特に前半)を役立てる場所と言えば冒険ギルドしか無い。俺は冒険者になる事を強いられているのである。
そんな経緯ですぐに冒険者になる事を決めた俺は、ゲインに着いて直ぐにグーベルの誘いを断って礼を言って街へと入ったのだ。あいつには胸やら足やらをめちゃくちゃチラ見されたからな。それだけで充分乗せてくれたお礼は出来ただろう。それにしても、あれで気付かれてないと思っているのだからあいつはきっと童貞。誘う時もやたらどもってたし。
ただ、俺は男とどこか遊びに行く様な趣味も暇もない。俺は男だ。身体が女であっても心は漢なのだ。先ほどから道行く男達の視線が少し痛いが、それでも俺は男なんです。
「確か、冒険ギルドはあっちの方向だったよな」
男に聞いた通りに進んで行き、やっとこさそれっぽい建物に辿り着く。そこはいかにも冒険ギルドをやっていますよ、と言う趣を発していた。文字は読めないが、そこにいる人達の鎧やら武器やらを見るにきっとここが冒険ギルドゲイン支部なのだろう。
難しい事や考えなくちゃいけない事はとりあえず金を貯めて安定した生活を送れる様になってから考えよう。その為にもまずはここで冒険者になり、依頼をこなさなければならない。俺はやるぞ。一旗揚げてやるのだ。
ドアの無い出口から顔を中に覗かせる。ゲームの中の冒険ギルドは兼酒場になっていたのだが、どうやらそこも忠実に再現しているらしい。男達が木で出来た机を囲んで酒盛りで盛り上がっていた。俺はこそこそと身体を小さくして中に入り、受付へと向かう。
「あ、あのー…」
「はい。冒険ギルドへようこそ。今日はどういったご用件で?」
受付は基本女の子が担当している。メイド服にも似た制服をぴしっと着こなしたその娘はにこやかな業務用笑顔で俺を迎えてくれた。
「えっと、登録したいんだけど」
「はい、登録ですね…って、登録?」
受付嬢は俺を見て、首を傾げた。
「あ、あの…登録って冒険者登録のことですか?」
「う、うん」
芳しく無い反応に俺は冷や汗をかいた。あ、あれ?もしかして一定の年齢に達していないと無理だったりするのか?いや、そんな事は無い筈だ。それに登録自体は無料だった筈だし、金も問題はない…筈。
「あ、あの?何か問題でも?」
「い、いえ!登録ですね!はい、登録、しましょうか!」
受付嬢は腰を折り曲げた。
「では、ギルド職員であるこのシータにお任せください」
「俺、領木律って言います。よろしくです」
自己紹介されたので俺も反射的に返してしまう。日本人の悲しい性よ。
受付嬢のシータさんは俺の名前を聞いて、小さくこてんと首を傾げた。
「リョウギリツ?」
「あ、律が名前で、領木が姓」
「リツさんですね。では、早速ですがこちらのカードに…」
と言って差し出されたのは、真っ白のカードに小さな針だった。
「この針で、一滴だけ血を付けていただきたいんですが…」
「分かった」
何だか微妙な顔つきで渡される。俺は首を傾げながらも、すぐに指先に針をぷつっと突き刺し、膨らんだ血豆をカードに一滴だけ垂らす。
「ああ、折角のたおやかなお指が…っ!」
「ん?」
「何でもありません」
一瞬何かを聞いた気がしたのでシータさんに視線を戻すと、相も変わらず営業スマイルを振りまいていた。聞き間違いだったか。
真っ白いカードが発光し始めたので、俺はそっちに釘付けになる。カードが光った。すげえ。
「そのカードに血を垂らす事によって、血から魔力構成を読み込み、個人情報を簡単ですが表示してくれる様になります。どうですか?」
「ある。書いてる」
確かにカードには、
『リツ・リョウギ:LV1
ランク:G
所持金:0Z 』
と表示されていた。
「すごい…」
色んな角度から見てみても、やっぱり普通のカードだ。魔法の力ってすげー。
そんな俺を微笑ましく見ていたシータさんは、はっと今が業務中である事に気が付いたのだろう、説明を始める。
「こほんっ、ではリツさん。これから冒険者としての最低限の説明をさせてもらいますので、しっかりと聞いてくださいね」
「あ、ああ」
「それでは、まずその冒険カードについてです。こちらは最初限りは無料で配布させていただいておりますが、紛失してしまったり、壊してしまったりした場合は再度発行し直すのにお金がかかってしまいます。くれぐれも無くさない様ご注意ください。それと、その表示されている内容ですが、名前、レベル、ランク、所持金だけが表示されている筈です。ランクはギルドランクを指していて、依頼をこなして行くうちに受けられる様になる昇格試験を合格する事によって上げる事が出来ます。ギルドランクは下からG、F、E、D、C、B、A、Sの8つのランクに分けられていて、依頼は自分のランクが指定ランクよりも上か、一つ高いランクのものでないと受ける事が出来ないのでご注意ください」
今シータさんから聞いた話は、殆どゲームの設定と同じだった。それでも何か変更点があるかもしれないのでしっかりと真面目に聞く。
「え、えっと、随分と真面目に聞いてくれるんですね…」
「え?あ、うん。大事なことだし」
「そう、ですね。その、目がとても綺麗というか、なんて言うか…」
「へ?」
「いえ何でも無いです。では、次の説明は『ステータスの更新』についてです。冒険者は、というか我々人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、亜人族は、他の魔物を倒す事によって経験値を取得する事が出来ます。経験値は私達のLVを上げ、ステータスを向上してくれるものなのですが、ただ経験値を取得しまくるだけではLVもステータスも上がりません。LVやステータスを上げるには、当ギルドに施設してあるあちらの水晶玉でステータスを更新しなければなりません。それが『ステータスの更新』です。どれだけ魔物を倒しても、一旦はこちらに戻ってきて、ステータスを更新しなければなりません。ご注意ください」
殆どまくしたてられる様に言われたが、これらも殆どゲームとは変わりない。この『ステータスの更新』は、『俺が異世界で最強チート!?ハーレム王道まっしぐら〜』の一番の醍醐味といえるシステムである。
この世界では、魔物を倒して経験値を手に入れるだけではレベルは上がらない。ある程度魔物を倒して、ギルドにステータスを更新してもらわないとレベルが上がらない仕組みなのだ。
これも考えてみれば当たり前で、一昔前は経験値なんてものは可視化させる事など出来ないで感覚だけでレベルを上げて行かなければならなかった。感覚だけでレベルが1上がったどうのこうのをするのはとても骨が折れた事だろう。だが、このシステムが導入された御陰でレベリングの効率はぐんと上がったのだ。もう滝に打たれたり、瞑想したりする必要がなくなったのだ。その恩恵は計り知る事は出来ないだろう。
まあ、このシステムを開発したのが『俺が異世界で最強チート!?ハーレム王道まっしぐら〜』に登場するヒロインのうちの1人なのだから恩も薄れるのだが、まあそこは今は置いておこう。
「それと、使える魔法や技、スキルなんかも水晶玉で更新しないといけませんね。後、採取したり魔物からはぎ取ったりして手に入れた素材やアイテムですが、当ギルドで適正価格により換金が可能です。どうぞご利用ください…これで基本的な説明は終わりですが、何か他にご質問はございますか?」
「無いよ。説明ありがとう…あ、今から依頼を受けたいんだけど、良い?」
「ええ、大丈夫ですよ。依頼を受ける際はあちらの依頼板に張られている依頼書を受付まで持ってきてください」
「分かった」
という訳なので、俺は早速依頼を受ける事にした。
ちなみに、あの山岳地帯から馬車に揺られてこのゲインまで辿り着くのに、体感時間で大体5時間程度かかった。そのうちに雨は止み、今では雲の隙間から青空が少し覗いているくらいである。
その青空から差し込む光の角度から推測するに、ゲインに辿り着いたのは大体昼の辺りだったと思う。向こうの世界では既に深夜の筈だが、今は昼だ。時差ぼけが激しくて非常に眠たいが、ここで金を稼がないと宿屋にも泊まれない。眠い頭に鞭打って頑張るしかないのだ。
依頼板には、様々な依頼が張られていた。その中でもGランクのものをいくつかピックアップして行く。『ゴブリン退治』、『家の屋根の修理』、『薬草採集』、『ゴブリンの角の収集』…とある。俺が今出来そうなのは薬草採集だけだ。その依頼書を依頼板から取って、内容を読む。
『薬草採集。依頼主:道具屋ペリー。
薬草を出来るだけ多く採取してきて欲しい。報酬は薬草5本につき100Z』
なるほど、制限無しの採集依頼らしい。これは今の俺に絶好の依頼だ。
「あの、これ受けたいんだけど」
シータさんの所にその依頼書を持って行く。依頼書を受け取り、内容を確認したシータさんは俺に確認をとる。
「はい、薬草採取ですね。薬草がどんなものかご存知ですか?」
「あー…一応、見せてもらっても良い?」
「はい。こちらになります」
そう言って出された薬草は、元の世界で言うところのよもぎの様な草だった。
「主に薬草と総称されているのは、このリルミン草と呼ばれる草です。こちらを一定数集めるのが今回の依頼になります」
なるほど、アイテムのデザインもゲームのものとそう変わっていないらしい。だったら、分布地域もゲームのものと同じと考えても問題は無いだろう。
「もう大丈夫。行ってくるよ」
「はい、怪我の無いようにお気をつけ下さい。特に手とか」
「…?あ、ありがとう」
どうして手?ああ、摘み取るときとか、とげがあったりしたら怪我するもんな。
勝手に納得してシータさんの優しさに心暖まりつつ、俺はついに冒険者として初の依頼をこなすべく歩き出したのだった。
シータさんは手フェチです。
改稿しました。