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俺たちの夏 ――村の冒険談――

作者: さーしぇ

遠い昔、小さいけれど裕福な国があり、それは美しいお城があった。

しかしあるとき、ある意地悪な魔法使いが、その国を水没させてしまった。

そしてそこには広大な湖が残り、時折つきのある夜には湖面に、白い城壁が揺らいでいるのが見えるという……。


 というわけで俺達6人は決行部隊を結成した。

「でもさ、本当にお宝なんか見つけられると思ってんのか?」

 疑わしげなフェルカ。

 もちろんお宝があるとは、実は俺も思っちゃいない。

「いいじゃなぁい、私はもちろんフィンについていくわ。」

「やめろガルク、気色悪いんだよ。……くっつくなって。」

 流し目のつもりか、それともウインクか、まあどっちでもいいけど気持ち悪いことに変わりはない。

 何でコイツついてくるなんて言ってきたんだろ。

 でも頭数は欲しいもんな、仕方ないか。

「ねぇボクは何を持って行けばいいの?」

「ていうか、根本的にほとんど何も決まってない。それが現状だよね。」

 トゥルースの言葉を受けてリッジが言う。

 奴はビン底メガネをずり上げ、みんなの顔を見まわした。

「とにかく、今までに解っていることをまとめてみよう。」

 まとめって言ってもなぁ。

 まず、リザのひいばーちゃんが言うには、村の裏の湖にはお城が沈んでいるということ。

 それから俺たちが調べた結果、湖の中には城はなかったということ。

 湖って言ってもそんなにでかくはない。

 夏場にみんなで泳いで回るだけで、結構わかってる部分が多いんだ。

 それでなくても凄く澄んでて、底の方まで透けて見えそうだし。

 普段行かないような深い所には泳ぎの上手い俺とか、フェルカ、ここにはいないけどブルックリンやリュークにも手伝ってもらった。

 城壁どころか、家の残骸みたいなものさえ見当たらなかった……と思う。

 とにかく、何もなかった。

 ただ、リュークの奴が洞窟を見つけたんだ。

 村から見たら向こう側にあって、あんまりみんなそっちまで行かなかったから、今まで気付かなかったんだと思う。

 俺も潜ってみた。

 向こう側には空気もあったし、うっすらだけどヒカリゴケの明かりも見えた。

 それに何より先に続いてる。

 で、とりあえず行ってみようじゃないかってことになったんだ。

 それで人員を募ったところ、俺、リッジ、ガルク、それから、フェルカにその弟分のトゥルース、そんでシュアが集まったというわけ。

 リュークやブルックリンは用事があるらしいし、リザにいたっては鼻でせせら笑うほどバカにしてたから、もちろん来なかった。

「何を持っていくかが問題だよね。」

 ……仕切るなリッジ、俺の出番がないじゃん。

「とりあえず、なんか要りそうなもの言ってってくれよ。」

「タオルは?」

「おやつ!!」

「やっぱり灯りかしら。」

「お宝を入れる袋がいるよ!」

 リッジ、フェルカ、ガルク、トゥルースが口々に言う。

 うーん、確かにこんなものかな?

「シュアは? なんかある?」

 話についてこれてないんじゃあないだろうなぁ。

 こいつボーっとしてるから…。

 そしたらおかっぱ頭かしげて、

「ええ、とっても楽しみね。」

 あああああああああぁ………

 聞くんじゃなかった。

「と、とにかくそんなものでいいんじゃないのぉ。」

 ガルクの言葉にみんな頷いた。

 あと決まったのは、こっちに残って見張りをする役。

 言うまでもなくシュアに決定。

 言っちゃあ悪いけど足手まといだ。

 それに実際着替えとか、こっち用のタオルとか、とにかくやることはいっぱいある。

 親とかには内緒だから、はぐらかし役にもシュアはぴったり。

 いつもの言動で相手を混乱させてくれるに違いない。

 とはいっても、他の奴に聞かれたらばれるんだろうけど……。

「まぁなんとかなるだろ。」


「フィン、計画は順調?」

 帰り道、バウルに出会った。

「ああ、だいぶ決まったよ。」

「ホントはさぁ、ぼくも行きたかったんだけど……」

って言いながら自分のおなかをさする。

 こいつデブッチョだからか、浮くんだよな。

 泳げないって言うか、沈めないって言うか、判断は難しいトコだけど。

「リュークの奴は?」

 あいつがいたら心強かったんだけどな……。

「もう行っちゃったよ。いつ帰ってくるかは、やっぱりわかんないってさ。」

 ちぇっ。

 まぁ、前から言ってたもんな仕方ないか。

「会えるといいよね。」

「うん、まぁな。」

「チェルンバレスってどんなトコなんだろ。」

 沈む夕日。

 俺たちはしばらく西の都の方角を見つめた。

「それよりお前計画のこと、親とかに言ってないだろうな?」

「言ってないよう。あ、なんか見つけたらぼくにも見せてよね。」

 決行は明日だけど、俺は黙ってた。

 十分に注意しとかないと……バレたらなんかいやだもんな。


 大慌てで昼飯をかきこんだものの、待ち合わせ場所に着いたときには俺が一番最後だった。

「遅せーよフィン。」

 フェルカが仁王立ちで睨みつけてくる。

「わりぃ、コイツ探してて遅くなっちまった。」

 俺は手に持ったナイフを見せた。

 やっぱり探検って言ったら、いるだろ?

「ボクらもこれ持ってきたんだよ!」

 トゥルースが荒縄を誇らしげに両手で掲げる。

 その横でリッジも手を上げてる。

 その手の中できらっと光ったのは、

「懐中時計じゃん!! すっげぇ!」

「誕生日にもらったんだ」

 うおーっ、なんかますます冒険らしくなってきたぞ!!

「よし! 出発だ!!」

『おー!!』

 俺たちはさっそく服を脱いで湖に飛び込んだ。

 それぞれが、皮で出来た袋を担いで泳ぐ。

 水場用で、まんべんなくロウが塗ってある。

 これにはタオルや服、それから靴が入ってるんだ。

 泳いだ後、裸でうろうろしたら、たとえ今が夏だって言っても風引いちまうからな。

「トゥルース、ついて来てるか?」

 かわりにフェルカが手を振る。

 ホントはこいつも置いていきたかったんだけど、いっつもフェルカのそばにいるから怪しまれるかもしれないと思ってさ。

「潜るぞ。」

 みんなが頷くのを見てから、俺は真っ先に潜った。


 やっぱりちょっと暗いな。

「なあ、灯りは?」

 みんなが水から上がったところで、声をかける。

「わ・た・し・よ。ちょっと待ってて、今つけるから。」

「いいから、くっつくなって。」

 ほっぺたふくらまして、なんかぶつぶつ言い出す。

『ライト』

 不意に明るくなった。

 小さな光が上に上がっていく。

「すごいじゃんガルク! いつの間にそんなもん使えるようになったんだよ。」

「すごい、すごーい!」

 まったくだ。

 コイツは俺も度肝抜いたぜ。

 こいつの兄ちゃんがへぼ魔法使いなのは知ってたけど……

「ふふーん、まっそのうち見てなさいよ。私、大魔法使いになるんだから。」

 おいおい、兄貴とおんなじこと言ってやがる。

 先は見えたな。

「へえ、こんなトコなんだ。」

 辺りを見まわしながら、リッジが言う。

 もうみんな着替え終わったみたいだ。

 今日着てきた服はシュアに渡してある。

 汚したり、濡らして帰ったら、……とはいってもいつも汚して帰るから怒られるんだけど……まぁ、ばれないようにってやつ?

「んじゃ、行くか。」

「おう。」

 とりあえず、俺たちは先に進んだ。

 俺とフェルカが先頭で、真ん中にトゥルース、後ろはリッジとガルクだ。

 ガルクの使う『ライト』は俺らの頭の上をついてくる。

「私って、すっごーい。ここまで使いこなせてるんだもん、そのうちなんだってできるようになるわ。ねぇ、今のうちに私の恋人になっておくとお徳よ?」

 ……後ろで口説いてやがる。

 チラッと後ろを見るとリッジのしかめっ面が見えた。

 すまねぇリッジ、お前は生贄だ。

「フィン! なんかいるぜ!」

 フェルカが叫ぶ。

 後ろ見てたあいだに、ヘンなもんでも現れたのか?

「あっち! でっかいねずみだ!」

「ラージラットだよ。」

 リッジが俺のすぐ後ろで言った。

 いつの間に前まで来たんだお前?

 メガネをずりあげ、俺達の顔を見回す。

「どうする? このまま進ませてはくれなさそうだよ?」

って言ったってな、もしかしてやるしかないわけ?

「武器を持ってるのはフィンだけだよね?」

 わざわざ言わなくったってわかってるよ。

 問題は……むこうが待ってくれないってことかぁ?

「フェルカ、何とか援護しろ!」

 ポケットからナイフを出しながら声をかける。

「オッケー! トゥルースやるよ!」

「うん!」

 とりあえず俺はダッシュをかける。

 むこうも俺をターゲットにしたらしく、こっちに向かって持ってる棍棒を振り回してくる。

「でやぁ!」

 なんていうか、手を出すより足が出た。

 でかいとは言っても、こいつはでかい犬っころぐらいしかないせいか?

 もっと持つトコながいやつ持って来ればよかったなぁ。

「フィン! どけ!」

 フェルカだ。

 慌てて脇による俺。

 がつ、とか、ぺちっ、とか音がする。

 二人が足もとの石とか、砂とか、ぶち当ててる音だ。

 やつは棍棒を振り回して、振り払ってる。

 ええい、こうなったら、

「てい!」

 思いっきり足を蹴っ飛ばしてやる。

『ぎゃうっ!』

 変な悲鳴をあげてすっ転ぶモンスター。

 うまくいったぜ!

「おいっみんな、たこ殴りだ!」

『おー!』


 勝った。

 あわ吹いたラージラットを足もとに、俺たちはガッツポーズをとる。

 「いえーい、やったね!」

 とりあえずそのままほっとくのはまずいってリッジが言うから、フェルカ達の持ってきたロープでぐるぐるまきにした。

 もう俺達を阻むものはないって感じか?

 どんどん行くぜ。

 俺たちは意気揚々と薄暗い通路を進むのだった。


 俺たちは何だか広い場所に出た。

 天井が高いのか、声がちょっと響く。

 別にここまで、ってわけじゃないみたいで奥に、その奥に進む通路があるのが見える。

「ねぇ、そろそろおやつにしようよ。」

「ちぃっと早くねえか?」

 トゥルースの言葉に俺はリッジを振り返る。

「そうだね、少し早いかもしれないけど…いいんじゃないかな。」

 皮袋から時計を出して、時間を確かめながら言う。

「じゃあーん、ミルフィー姉お手製のプティングと、クッキーだよーん。」

 誇らしげに包みを広げる、フェルカとトゥルース。

 そのとたんいい匂いが広がる。

「シュアが持ってきてくれたんだぜ。」

 あのおっとり姉妹、料理は上手いんだよな。

「俺も母ちゃんのラズベリーパイ、くすねてきたぜ。」

 今日のおやつ用をまるまる1個。

 はしっこつぶれちまったけど、誰も気になんかしないだろ?

 俺たちはりんごジュースで乾杯した。

「あんまり期待してなかったけど、けっこう楽しいわね。」

 ほんっとに何しに来たんだお前。

 俺なんか、昨日眠れなかったんだぞ。

 このごろは村のあたりにも魔物が出るってんで、あんまり外に出れなくなったからな。

 どんごろの森にすら行けやしねえ。

 今まで庭みたいにして育ったんだぜ?

 誰か大人がついてなくちゃ行けないなんて、つまんねえったらありゃしない。

 ……まぁ、うちの母ちゃんなんかは、あんまり気にしてないかも知んないけど。

 しばらくして満腹になった俺はくつろいで、ごろごろすることにした。

「だめ! ガルクそれ取っちゃあ!」

 なんだなんだ?

 トゥルースの声に俺は、リッジとしてた話を途中でやめてそっちを向いた。

「それボクの分だよう!」

「何よ、名前でも書いてあるわけ? 最後の一切れだからって、変なこと言わないでちょうだい。」

「ひどいや! ちゃんとこっちに寄せてあったのに!」

 トゥルースのでっかい声が洞くつの中に響きわたる。

 ったくよう、何やってんだか。

「ガルクのばかー!!!」


 と、そのときだ。

『びしっ』

 変な音が頭上で響く。

 …………。

「今の、聞こえた?」

 みんなの顔を見まわす俺。

 もちろん声は小声だ。

『こっくり』

 みんな黙って、いっせいに頷く。

 うう、嫌ーな予感。

 ビシッビシビシビシ……。

 ぱらぱらと落ちてくるちっちゃい石っころ。

『逃げろー!!』


「おい、大丈夫か?」

 とりあえずみんなに声をかける。

 ちょっと土けむりだか、砂ぼこりだか吸って、むせ込んじゃったから喉が痛い。

「こっちは大丈夫だぜ。」

 あの声はフェルカか、ってことはトゥルースも無事だな。

「イヤァーン! 怖かったぁ!!」

「ちょっ、やめっ、どこ触ってるんだよ!」

 ……あっちも大丈夫そうだな。

 それにしてもどうなったんだろ?

 ヒカリゴケのうす明かりじゃ、あんまりよく見えないや。

「ガルク! 灯り付けろよ。」

 しばらくして、ガルクのなんか呟く声が聞こえる。

 小さいけど、明るい光が辺りを照らす。

 なんかそれだけでも、ほっとするよな。

「あっちゃー、道、通れねぇじゃん。」

 ふってきた大岩がすっぽりと出口を塞いでる。

 まっ、俺達の上におちてこなくてホントよかったぜ。

「どうするのぉ?」

「動かせるかどうか見てみようぜ。」

 フェルカの合図で俺たちは大岩を押してみる。

「おいガルク、お前も手伝えよ。」

「やぁだ、私ライトで手一杯だもん。」

「ざけんな。」

「いいよ、ほっとこうよ。それより早くしてくれよ。僕のリュックが……時計も入ってるのに。」

 そうなんだよな、たまたま置いてたリッジのリュックの上に、大岩があるんだよな。

 なんか泣きそうになってるし、

「じいさまの形見だったのに。」

「でもこれじゃ動かないぜ? 先にも行けなさそうだし……。」

 さすがのフェルカも困った顔して言う。

 はっきり言って困ったよな。

「ねぇ! 先行けるよ! ホラ、ここ見てよぅ!」

 その声で俺たちはトゥルースのいるトコに集まった。

 そこにしゃがんでいるトゥルースが、指さしてる所を見ると、そこには確かに隙間があって、向こうの薄明かりも見えないわけじゃなかった。

「こりゃあ、通れるかどうかわかんねえなぁ。」

 悩む俺にトゥルースが、

「行けるよぅ。だってボクさっき行って戻ってきたんだもん。」

「おいおい、勝手に動くなよ。それでなくてもこれ動かそうとしてたのに、一歩間違えたらつぶされちまうんだぞ。」

 まったく……。

「……ごめん。」

「でも、まっ、無事だったからいいか。」

 そう素直に謝られると、なんか照れるぜ。

 さてと、どうすっかな?

「とにかく、見てみようぜ。こいつが通れたからって、あたし達が通れるかどうか、わかんねえじゃん。」

 それもそうだな。

 俺もしゃがみこんで、隙間を覗き込んでみる。

「おい、トゥルース。やっぱ、腹ばいで通ったのか?」

「うん!」

 うーん……

「とりあえず、誰か行きなさいよ。」

 いや、それはわかってんだよ。

 誰を行かせるかなんだよ。

 たぶん行けるとは思うんだけど……仕方ねえ、俺が行くか?

……それより、みんなで行った方が早いか。

「向こう側みてきたんだよな?」

 トゥルースが頷く。

「うん。なんにも無かったよ。」

「じゃフェルカ、トゥルース連れて先行け。そしたらガルクで、リッジで俺が最後な?」

 一応確認のため、みんなの顔を見渡してみる。

 みんな不満はないらしい。

……なんか今の俺って、リーダーって感じ?

「ねぇ、荷物どうするのよ? 背負ったままじゃ通れないわよ?」

 う、うーん。

「フィンが最後に押し出してくれたら、あたしが引っ張ってやるよ。」

「おう。それなら簡単だぜ。」

 俺たちは腹ばいになって先に進んだ。

 とにかく進めるだけラッキーだぜ。

 最後までぶちぶち文句言ってたリッジも、とりあえずは、おとなしくなったし、まぁなんとかなるだろ?


「あっちゃー、分かれ道だ。」

 よく言う『みつまたの槍』みたいな形をしたそれを見て俺は言った。

「どうする?」

 みんなの顔を見渡す。

「どの道を行くにしても、何かしるしをつけないとね。」

 最初に口を開いたのはリッジだ。

 やっとさっきのことから立ち直ったらしい。

 そこで俺は、まず来た道にナイフで〇印をつけた。

「とにかく片っ端から行こうぜ。」

 それから一番左の道に×印をつける。

 これでよしっと。

「じゃ行こうぜ。」

 今度はガルクとフェルカが前で、次にトゥルース、で俺とリッジが最後を行く。

「少し左に進んでるね。」

 リッジがとなりでつぶやくのが聞こえた。

 確かに、ゆるやかなカーブを描いてるのは事実だ。

 それどころか、そのあとすっげえくねくね道でよう。

 2・3度目で、既に俺たちはどう進んでるのか、わかんなくなった。

「…なーんにもないよぅ。」

 つまんなさそうにぼやくトゥルースの声が聞こえる。

 俺とリッジは顔を見合わせて、肩をすくめた。

 これじゃあ、ホント先が思いやられるぜ。

「ねえ、また分かれ道よ?」

 先頭を行くガルクが、後ろを振り返りながら言う。

 やぁっと、この現状ってやつから抜け出せるのか?

「ちょっと待てよ。あそこにあるの、フィンがしるしつけたヤツじゃないか?」

 フェルカが指さす方を見ると、ああ確かに×印が掘ってある。

 ×の右下には、滑って削った後まである。

 俺がやったんだから間違いない。

 よく見れば、もう一本の道に〇印がついてる。

 おいおい、これじゃあぐるっとまわって来ただけじゃん。

「でもこれで道ははっきりしたよね。」

「まぁ、時間食っちまったけどな。」 

 俺は一応、来た道にまたナイフで×印をつけておいた。

 確かにこれで間違いようは無いよな。

「じゃ、最後の道だ。」

 俺は何のしるしもつけなかった右の道を指差した。


 今度の道はまっすぐで、そのかわりなだらかな坂が上ったり、下ったりしている。

 あんまりにも気がめいってくるもんだから、みんなで歌を歌ったりして景気をつけてみたりする。

「もうすぐお祭りだね。」

 『牧場の歌』を歌い終わったとき、トゥルースが言った。

「今年はだれがうたひめになるのかな?」

 ああ、またあのイヤな時期がくるのか。

 いや、祭自体はいいんだ。祭は。

 夜遅くまで起きてられるし、ごちそうはあるし、こっそりお酒だって飲める。

 問題は、……やめとこ、ますます気がめいっちまう。

「どうせなら、私みたいなのがなれればいいのにねぇ。」

 なれるわけねえだろ!!


  「……これって、行き止まりだよな?」

……言うなよ、フェルカ。

「あーあ、これで終わりなのぉ?つまんなーい。」

 あからさまにガルクが文句を言う。

「せぇっかく、私がついて来てあげたのにぃ。」

 別について来てくれって頼んだ訳じゃねえだろ。

 まったく、好き勝手言いやがって。

「リッジ兄ちゃん、何やってんの?」

「うん。どうにか進めないかと思って、ね。」

 とか何とか言って、奥の壁(?)を触ったり、叩いたりしている。

 おお、なんかリッジが渋く見えるぜ!

 しばらくして、奴は見守ってた俺達のほうを向くと、メガネを摺り上げつつ、でっかいため息ついて、口を開いた。

「無理みたいだね。」

……がっくり。

 ここまで来て、なーんにもないなんて……。

「ちぇっ。」

 げし。

 俺は悔しさを込めまくって、思いっきり壁に蹴りを入れた。

『ボコッ』

ガラガラガラ……………って、えーと?

「…すごいよフィン、自分で次の道を作るなんて。」

 いや、リッジ。そうゆう問題か?

「ねぇ、何か音が聞こえない?」

 出来たばっかりの穴に首を突っ込んで言うガルク。

 それにつられて、みんなひょこひょこ穴をくぐっていく。

 そこは今までと同じような薄暗さで、おんなじようにヒカリゴケが生えてて、少し湿っぽい気がした。

「なんだろう?」

 みんなで顔を見合わせる。

 確かになんか音が聞こえる。

 なんていうか、こう、いわゆる地響きとかいう音? みたいなもの。

「とにかく行ってみよう。でなければ正体が何なのかすら、わからないわけだからね。」

………なんか、さっきからリッジにおかぶを奪われているような気がする。

 くくう。

「おいフィン! いつまでそんなトコにつったってるんだよ。」

 フェルカの声に気付くと、…おいこら! 置いてくなあ!!

「待ってくれー。」

 うおー、今の俺ってとことん情けねー。


 滝だ。

 この音は滝の音だったんだ!

「ボク、滝の裏側なんて初めて見たよ!」

 ちくしょう、俺だって見たことないぜ。

「行こう!」

 だから俺の言葉取るなよフェルカ。

 俺たちはぽっかり空いた出口にかぶさった、水のカーテンに向かって、われ先にとばかりに走り出す。

 みんな興奮しまくってるぜ。

 俺も例外じゃないけど…

「きゃーっ、いったーい!」

「うひゃー!」

「冷てー!!」

 大騒ぎだ。

 着替えのこともぜんぜん気にしなくて、もうびしょびしょ。

 そのまんま滝つぼに飛び込む俺たち。

「いやっほう!」

 すっげー水しぶき!!


 めいっぱいはしゃぎまくったあと、俺たちはやっと辺りを見回した。

 切り立ったがけの上から流れ落ちてくる水。

 けっこう高いぜ。

 そんでその目の前には、きれいに削った石畳の階段があった。

 上った俺たちが見たものは、

「うわー、なんかすげえ。」

 白いでっかい柱が立ち並んでて、それも二人がかりでやっと手がとどくような代物で、高さだって見上げる首が痛くなるほどだ。

 そのずっと奥に、見たことのない建物。

 屋根があるのは見えるけど、柱ばっかりで、こんなふきっ晒しじゃあ、家には向いてないに違いない。

「これは『神殿』て言うやつじゃないかな。」

………しんでん?

「何それ?」

 フェルカが言う。

 みんながリッジを見る。

 奴はビン底メガネをずり上げ、俺達を見まわした。

「つまり、その、神々を祭ったとか言う場所のこと。」

「教会のことじゃないの?」

 うさんくさげにガルクが言う。

 まあ確かにそうだよな。

 そしたらリッジの奴、こう肩をすくめてだなあ、ため息をつきやがんの。

「もともと、このあたりはシヴァールという名の風の神が支配していたんだ。そのことぐらい、みんな知ってるだろう?」

 う、それもリザんとこのひいばーちゃんが言ってたような気がする。

 なにかってぇと、昔話って言うか、伝説って言うか、とにかく俺たちに聞かせるわけだ。

 まぁ、今回はそのおかげでこんなトコまで来たわけだけど。

「都から神父さんがきて、教会ができるまではそれを信じたんだ。こうゆう風に神を、つまり、シヴァールを祭ってた場所がここなんじゃないかな。」

 でもまさかリッジがそんなの真剣に聞いてたなんて、驚きだぜ。

「現に、村で行う祭りだって、風に捧げる物なんだよ?」

 え、そうだったの? 俺、んなのぜんぜん気にしてなかったぜ。

 ふいに、柱の立ち並ぶ向こうから突風が吹いた。

「うおう、びっくりした。」

 風の神シヴァールか。

 なんかすっげーかっこいいよな。

「ホント何でも知ってるよな、お前って。」

 言うとリッジはちょっと目をそらしつつ「まあね。」とか言って、スカしてやがる。

 ちくしょう、これだからガクのある奴は……。

 うらやましいぜ、まったく。

 俺も一緒になって空を見上げた。

 昨日とおんなじ赤い夕日。

 昨日と違うのは、オレンジ色のひつじ雲がつらなってるぐらいか。

……って、夕日? ひつじ雲!?

「やべえ!! みんな帰るぞ!!!」

 ひきつる顔、顔、顔!

 もう後ろも見ないで、滝つぼに飛び込む俺たち。

「母ちゃんに怒られるー!!」


 村についたのは、次の日の夜明けのことだった。

 で、もちろん俺たちはこっぴどく叱られた。



                         おわり

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