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なんちゃって文学もの

さりとて今日も嫌われん

作者: ユリイカ

 内容に体型に関する悪口が含まれます。苦手な方はすみません。

 最小限の接触で相手に不快感を与えることは至極簡単なことだ。身体的特徴には少なからず大多数の人がコンプレックスを持っているもので、ジグソーパズルと似ているかもしれない、ただ揃えるのではなく外すという点に置いて遊び方としては真逆に位置するように思う。「あんた、○○だよね。」その一言で相手が気にしている部分を刺激してやればよい。すべてが揃ったパズルをその人だとして、その中から一つを取り出してやれば、途端にまとまっていた一枚の絵は自身の不格好さに悲観的になる。パズルのピースのサイズがとても小さいとか、模様が複雑とか、十人十色ではあるが、パズルはパズル。5秒もしないうちに、そのネガティブな発見は怒りへと姿を変え、たいていの場合、気付かせた原因へと矛先を向ける。


 「最低だな!」


 そういう訳で、今日も今日とて、市古いちご 吾一ごいちは他人から嫌われていた。「いた」というよりも、「いる」だろうか。絶賛嫌われ中なのである。


「初対面で、皮下脂肪が多そうだなんて、よくも言えるな!僕はこれでも肥満じゃないんだぞ!去年の健康診断では普通よりすこしぽっちゃりぎみなだけだったんだからなっ。」


 市古にそう喚くのは、腹に二重も階段をつくった背の低い男だった。同じ男性として少しばかり自分の身長をわけてやりたいと市古に思わる程度のサイズだ。各言う市古自身は、ひょろりと上背で、人ごみから頭一つ抜け出す事が多い。目鼻立ちもはっきりした、見た目だけなら爽やかそうな外見をしていた。対するこの小太りな男はメガネをかけた細目で鼻も低い。服装も服を着ているのか服に着られているのか、とにかくセンスの無さを体現する。その手に持つ青色で埋められたキャンパスだけが唯一清潔感を漂わせている。


「ああ、でも、アンタの絵とても良いね。それ、どこかに出展しなよ。入賞するから。」


 しかし、市古は稀少なポリシー故にどこか憎めない所がある。嫌われることも多いが、それは決して憎悪には至らないのだ。その点において、市古はやはり常人の比ではないこだわりを見せた。


「え?ああ・・・ありがとう。」


 悪口を言われたかと思えば、唯一の自慢できる長所を親しくもない人間から手放しに誉められたことに、 困惑の表情でお礼を述べた。







 人には欠点がある。それは誰でも必ず持っているものだ。大なり小なり個人差はあれど、コンプレックスとは皮肉にも影のごとくその身に付きまとう。しかし人間が面白いのは誰もが何かしらの魅力をも備えていることだ。


 そして、それを伝える手段も伝える相手にも事欠かないこと事が実に好ましい、と市古は人として生を受けたことに感謝する。市古の今生で最もおもしろい遊びでもある。



 「さりとて今日も嫌われん」


 市古はまた新しいターゲットを探してふらふらと校内を歩くのであった。

 残された小太りの男が制作中の絵が完成したのはその日の夕方のこと。

 


 その年、若く新しい青の巨匠が生まれた。彼は小太りな男で、大学を卒業したばかりの青年だった。二重あごを気にしながら、インタビューにこう語ったという。


「僕は、これまで一度も絵を誰かに見せたことがなかったんです。この通りの太っちょで。自分の描く絵の繊細さと自分の外見を対比しては恥ずかしくてたまりませんでした。ある時、ある人の言葉に背中を押されたんです。その人は初対面なのに僕の体型について酷いことを言った後に、絵を誉めました。もうわけがわからない変人でした。でも僕は気付いたんです。僕が太っていてデブでも、僕の絵まで醜いわけじゃない。当たり前だけど、そんな簡単なことが分からなくなるくらい、僕は自信がなかった。最近ダイエットを始めました。まだ太ってるけど、5キロ痩せたんです。ああ、でも太っていることが恥ずかしいからではないんです。絵をかく指先の感覚を大事にしたくて。自分のベストの体型を維持したいんです。」






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