SAVE7:Onlooker
業務日誌
○月&日
図書館はいつも通りだが、最近寝不足のせいか仕事場でも寝てしまうことが増えてしまった。
原因は分かっている。『Secret GARDEN』のせいだ。
今までなんとなく敬遠していたが、始めてしまえば何てことない。あんなにすごいアプリだったとは。
及び腰だった昔の自分をバカにしてやりたい。
昨日もそれで結局徹夜してしまい、朝起きるのが辛かった。聞けば外界で使えるお金も得られるクエストもあるとか。
働くのが嫌になりそうだ。
そういえばイベントで剣を手に入れるというものが今度やるらしい。かなりいいものだともっぱらの噂だ。歴史ものならある程度自信はあるし、参加してみようかな。
これだけユーザーがいるんだし、夕弦ちゃんもやっていたら一緒に遊べるのにと不謹慎なことを思う。
でももし遊べるなら…教えてあげるのにな。
Phase7
Loading7
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「おい!」
呼ばれて振り返った顔にはいつもの眠そうな顔じゃなく、どことなく不機嫌な様子だったけど、相手はそれを隠そうとしない。
それがオレにずさんな呼びかけをされたからじゃないのはオレ自身でもわかっている。
「お前あいつと一緒にやるとか言ってなかったか?」
開口一番はオレを非難するもの。
だけどこれはオレも後ろめたさはあったし、ある程度覚悟して受け止めることが出来る。事実今日はやらないかもしれないと言っていたこいつの代わりに、この場にいない奴と何かクエストでもやろうと話をしていたのを聞いていたし。
だからこいつは変な心配もしていなかっただろうし、まさかこんな事態になるとも思ってもいなかったはずだ。
非難されたものに対してではなく、自分の中にある後ろめたさからつい口調がいつもより歯切れが悪くなる。
「そのつもりだったけど塾で長引いて…そしたらゆずるが『今日は出来そうなクエストやる』って言いだしたから…」
そう、それで安心していたのもあった。
今日はやらなくてはいけない課題がいつもより難しかったし、そう言ってもらえるのは正直ありがたい提案だと思っていた。
だからそれに対してごめんだとか心配するようなメールも返すことも省いていた。
どうせまた近いうちに会うことになるだろうし、そのとき謝ればあいつは許してくれるだろうと。
それがまさかこんな事態になるだなんて。
「それであいつはどうなってんの?」
メールはあれから来ていない。
心配してこっちからメールを送ろうと思ったが、すでにクエストが始まってしまっているせいか、さっきからエラー表示が出る。
どうして普段のクエストやストーリー、討伐なんかのときにはメールや電話が出来るし、同行なんて便利なものまであるっていうのに、運営が不定期でやる限定クエストについてはそれが例外なんだろうか。
最後にもらったメールは開始直前の20時58分頃、そこには短く
『一生懸命頑張ってくる。危なくなったら逃げるから心配しないでね』
と書かれていたけど、そんな言葉を額面通り受け取ることなんて出来っこないのはあいつの性格と能力を、少なからず見てきたからこそ思うものだろう。
(あのバカ…出来るわけないこと書くなよ)
危なくなったら逃げるなんてそもそも危ない状態で逃げられるスキルもなければ、相手から逃げ切れる程能力が高いわけでもない。
スキルだって攻撃系のものが一切ないし、それより根本的に本人がおそろしく戦闘に向いていない。
強いて長所を挙げれば危険察知能力と、イベントの真意を見つける嗅覚、相手の懐に入るうまさ。といったところだろう。
前者2つについては、それを上回る“巻き込まれ体質”が台無しにしている気がするが。
それなのにどうしてこのゲームをやろうと意気込んでいるのか、そして使えもしない報酬のために今回の危険なイベントに参加しているのか、甚だ疑問だ。
「検索したら『周』ってプレイヤーと一緒に童子切安綱のクエストにいる。今イベントの1つをクリアしたところだ」
メガネが自分のパスを操作して苦々しく告げる。その言葉に思わずつられて顔が渋くなる。
「童子切…って確か星4のクエストだよな?なんで高難易度のクエストなんて…」
「俺もわからねぇから聞くな。とりあえず今のところ生きてはいるみたいだ」
あれから慌てて調べたところによると、今回のクエストの景品がかなりいいものという触れ込みがあったからか、全体の参加人数が結構多い。
様々な憶測やイベントの中身を想像するログに紛れて、普段のクエストには参加してこない大物も出てくるという噂はイベント開始から流れていたほどだ。
実際にPKとして知らないものはいない2大派閥の両チームも参加することから、特に参加が予想される高難易度の童子切安綱と大典太光世は荒れると言われていた。
まさかその渦中にいるなんて。
「『信長』は大典太のイベントにいる。だからと言って何とも言えねぇな…」
珍しくいらいらとしているように見えるぼさぼさ頭のメガネは、イベントが始まってしまってから何も出来ない現状を歯がゆく思っているんだろう。
それはオレだって同じ気持ちだ。何が面白くてせっかく出来かけているこの居場所を壊そうなんて思うもんか。
(って)
そう言いきって、自分の考えに吐き気がする。
何が“居場所”だ。そんなもの、このゲームにはなくてもいいもののはずなのに。
でも
(…でもあいつは…)
(…すっげー弱いし…)
そう、あいつは弱い。
弱くて何も出来なくて、そのくせすぐ凹んで、でもあいつはオレが今まで見てきたプレイヤーの中で、いや、この仮想世界に限らずオレが見てきた世界の中で、誰よりも染まらずまっすぐなように見える。
そのくせ抱えきれない痛みは出さないように、慣れていると呪文のように思い込ませて、慣れてないぎこちなさで笑う。
痛いと泣きながら、それでも守りたいもののために歩こうとしている。
それを見る度に非効率で損な生き方だと鼻で笑う気持ちと、同時に羨望の気持ちが湧き上がる。
オレにはそんな馬鹿馬鹿しい生き方は出来っこない。だけれど、それはとてもまぶしくて羨ましくて、そしてそんな生き方をしようとするヤツを・・守りたくなる。
だからもう裏切られたくないと思っているはずなのに、いつの間にかそばにいるのを当たり前のようなものだと思い始めている。
矛盾する自分の考えを考えたら、そんな恥ずかしい精神論に行き着いたのだ。
(だからオレがいない変なところで死んでもらっても困るんだよ)
そうなったらやっと折り合いをつけようと思っていた、この奇妙な感情をまた持て余すことになりかねない。そんな二度手間はごめんだ。
「お、こんなところにおったん?」
そんな気持ちの葛藤を抱えているときに、聞きたくもない西の訛りがある男の声が聞こえてきて、振り返りもせず嫌気がさす。




