Phase6-2
「私の方こそ…すみません。あなたを守るといいながら…」
「いえ!あの…周さんが無事で…よかったです」
「…え?」
「…?」
「……」
「……あ。」
(うわ!私なんてことを!)
よくよく言葉を選んで言えばよかったと思った時にはすでに遅かった。
(周さんの方が私なんかよりずっと強くてレベルも上なのに…っ)
捉え方によっては上から目線と言われてもおかしくない言葉を、まさか目下のものから言われるなんて思いもしてなかっただろう。
目の前の瞳が漫画でもなんでもないのに点になっている。
「あああああ…の!私そういうつもりじゃ…っ」
慌てて弁解すればするほどどつぼにはまっているのだろうか。まともなフォローをするどころかずぶずぶと深みにはまっていく。
(ああどうしよう)
こんな時ほどもっと普段から人と話していればよかったと後悔することはない。どうすれば自分の失言をうまくフォローして立て直せるのか方向性が全く定まらないまま、ひたすらぺこぺこと頭を下げていると、ふっと笑う音。
頭を上げると、わずかながら口元を緩め、少し困ったように笑う顔。
「いいよ。間違ってない」
「あ…」
「確かに私のレベルじゃどうにもならなかった。だから…無事でよかった」
そういうと、手元に残っていた刀身に視線を映す。それを追うように同じように手元に視線をやると、
「え」
少し前までは刃こぼれ1つしていなかった綺麗な銀色の刀身は中央部分、さっきあの男と刀を交えた部分だけが赤黒く染まっていて、風が撫ぜるたびその身をわずかずつだがその刀身が小さくなっていく。
「やはりあの男…『本物』だったのか」
「本物…?」
「あいつが名乗った名前は単独PK数がトップのランカーです。持っている武器は特殊だと聞いたことはあったが…私も直接会うのは初めてだけどあれほどだとは」
「特殊…」
「“魔剣”です」
魔剣
ゲームの世界でならどこかで一度位は聞いたことがあるその言葉とその存在は、この世界にも組み込まれているようで、他の剣とは一線を超える強さと効果を持つものの総称らしい。
ぽつりとこぼした“魔剣”の意味把握しきれてないと判断されたのか、簡単に教えてくれた。
『魔に連なるもの』と呼ばれているものは全部で7本あるようで、つらつらと名前をあげてくれたものは聞いたことがないものばかりだったけど、最後の1つ、それは國鷹さん達があの黒い塊と戦っていた時に言っていた名前のものも同じだった。
「その内の1つ『魔破の剣 ティルヴィング』を持っていると聞いていたが、その効果がこれか…」
全ての武器を破壊する武器という特殊効果があるようで、それをまともに受けてしまった周さんの武器は時間とともにその赤黒い浸食が進んでいるように見える。
おろおろとするしか出来なくて、思わず周さんの表情を伺うけど、無表情にただ自分の剣を見ているだけだった。
「急ごう。このままじゃこれが壊れるのも時間の問題だ」
武器の破壊はそのまま攻撃する手立ての喪失を意味する。
ただでさえ私がそれを最初から持っていない分ビハインドがあって周さんに負担がかかっているのに、これで周さんの武器が壊れてしまったらどうしようもない。
呼びかけに小さくうなずくと、また静寂が戻った竹林を進み出す。
今度はその足取りがさっきよりもずっと遅くなっているのにすぐに気が付いたけど、お礼を言うのも変な気がしてただ背中を見つめる。
正親さんは言っていた『討伐は敵が多い』と。
それが少しでも少ないルートを通れるようにと、願うことしか出来ずにいた。
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大江山に着いたあたりで、岩穴があり、中を見るとそこには小屋があり、中には老人、山伏、老いた僧、若い僧で構成された旅人がおりました。
頼光は尋ねました。
「あなた方は、どのような人たちなのですか?」
老人の1人が答えました。
「私どもは、化け物ではありません。1人は摂津国の者、2人は紀伊国の音無の里の者、もう1人は京に近い山城の者です。 この山の向こうに住む酒呑童子という鬼に妻子をさらわれてしまい、その敵を討つために、ここまでやって来たのです。
あなた様方は常人ではないようですが、きっと帝の勅命により酒呑童子を退治にきたものとお見受けいたします。我ら4人が道案内をいたしましょう」
「本当ですか。それは助かる」
「けれどその前に、あなた様の腕前を確かめさせてはいただけませぬか?剣だけではなく、鬼をも倒すことが出来る、その『才』を」
老人は言う
「私と囲碁で」
山伏は言う
「私と小弓で」
老いた僧は言う
「私と投扇で」
若い僧は言う
「私と薫物で」
「あなた様の腕前を確かめさせてはいただけませぬか?」
こんな話の流れになっていただろうか。
必死になって物語の流れを思い出そうとするが、細かいところまで繰り返し読んでいたわけでもなかったからはっきりとした答えは出そうもない。
「周さん…」
隣にいる人の顔も大きく変化はなかったが、少なからず怪訝そうな顔をしているところを見ると、私の記憶もあながち間違っていないように思う。
「…皆守さん、私は小弓をやりますので、残りの3つの中から選んでください」
「え」
間違っていたかもしれない。がらがらと自分の記憶の自信らしきものが崩れ去る音が聞こえる。
(3つ!?3つの中から選ばないといけないの!?)
囲碁はオセロのようなものだったこと位はわかるけど、それ以外のルールらしいルールは知らない。
残り2つに至っては全く聞いたこともない遊びになる。
(こんな…知恵比べみたいなのやらないといけない話だったっけ??)
4人のそれぞれの顔色を伺ってみても、ルールを説明してくれるような雰囲気はない。
「あ…あの…私ルールなんて知らないんですけど…」
おそるおそるそう申し出てみると、怒るかと思った周さんは至って冷静だった。
「この話ではこのような力比べはありません。けれどこうやって入手の制限をかけていると考えればつじつまが合う。
2人とも成功させなければいけないのかすらわからないので、それほど深く考えなくても結構です」
「そう…ですか」
「では1つ目の遊戯を選んでください」
「私があなたと小弓で」
「結構」
周さんが答えるとそれに反応するかのようにパスの表示が変わる。
そこにはイベントの神便鬼毒を手に入れろと書いてあっただけの文字の下に、追加項目として表示された。
QUEST:神便鬼毒を手に入れろ(13/100)
MISSION1:小弓 NOT CLEARED
MISSION2:??? NOT CLEARED
(うそ…もう13組も手に入れているの?)
決して遅いとは思っていなかったけど、私達よりも先にこれをクリアした人達がいるという具体的な数字は少なからず動揺を誘う。
思わず周さんの方へ顔を向けるけど、すでに遊戯開始となっているのか、その視線が重なることはない。
小弓
小さな弓矢で的に当てる室内ゲームで、的は小型の衣桁のようなものに後ろ布を垂らし、その前に錘をぶら下げた的をつり下げ、その的に弓を射り、より的の中央に当てたものを優とする。
左膝を立てた姿勢をとり、その膝の上に左肘を支えて引く。平安時代から、多く春に行われた。
山伏が弓を構えると、その弓はますます小さく見える。正規の弓よりも小さい弓は縁日で時々見かける射的のものに近い。
ただ距離は思ったよりも遠く、座った状態で構えなければいけないのでやりにくそうに見えた。
山伏が的の赤い部分から2周り外側に的を射り、周さんの番になった。
周さんは一呼吸置くと、すっと小振りの弓を構える。その姿勢は本来なら大きさ的にもアンバランスであるはずのものが、まるで本物の弓と矢であるように見える位整ったフォームだった。
テレビの競技の1つ程度でしか見たことがない私ですら、それは綺麗と思える型に見える位、しっくりとくる。
引き絞り放った弓はそれが当たり前のようにど真ん中に刺さる。




