Phase5-1
業務日誌
○月%日
図書館業務異常なし。
あれから2人が探していた本を調べてみたらさらに奇妙な過去が判明した。
あの本を借りた最後の利用者はあの『皆守 匡』だった。
当時から一緒に働いている小林さんの話だとここだけじゃなく都内あちこちの図書館でも本を読んでいたらしい。
読んでいた本もジャンルの一貫性が全くなかったが、時折何かをメモする姿もあった。
それだけならまだ熱心な勉強家だと思えるはずだが、そんな姿を聞いてもどうも好きにはなれなかった。
あいつの近くを通る度感じた女物の香水の匂いがやたらと鼻についたこととか、認めたくないが相当イケメンだった顔だったが、目が他の奴をバカにしているように見えたこととか、これはやっかみ以外の何でもないような印象ばかりつらつらと思い出せるけど、とにかく生理的に受けつけないと言った方がいい位だ。
そんな奴がまさか夕弦ちゃんと兄妹だったなんて。
仲睦まじく見えたあのシーン、僕が見たあのときの女の子は夕弦ちゃんだったんだ。
僕が唯一あいつをまともに見えた、それはあいつが夕弦ちゃんを見ていた時だけだったのか…。
Phase5
Loading5
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何度も何度も読み返して、一応頬までつねってみて、それが幻でもなんでもない、自分の事だとやっと飲み込むことが出来た時には、すでに開始前40分まで来ていた。
その1時間もないという時間を突きつけられて、さらにその後に続くイベントが直前に差し迫っていたことを受け入れなければいけない。
(うぅ…)
今いる場所は南口だから歩けばそれほどかからない場所に集合場所は決められているにも関わらず、足取りはこれ以上なく重たい。
歩いているつもりではいるけど、さっきからあまり前に進んでいない気もする。
それにさっきから来てほしいと思っているメールもやってこない。
(やっぱり2人とも気が付いてくれないかな…)
どうすればいいのかわからず、とりあえず今置かれている現状を出来るだけわかりやすく送ったつもりでいたけど、返事がないということはここにいないか、メールを見ていないかそのどちらもだろうか。
(見て呆れて返事も返してくれないとか…だったら…どうしよう)
そして来てほしいわけでもないメールはさっきから頻繁に送られてくる。
『マジで!?ゆずるちゃん参加するなら言うてよー(ToT)』
『おれ、冷やか・・応援で東響駅におんねん。ちらっと顔でも見に行こうかなって思うたけど、トラがダメって<`ヘ´>ぶー』
そして今来たメールには知りたくもない情報まで丁寧に書かれている。
『信長が童子切狙っとるらしいよ(゜o゜)てっきり難易度高いやつ狙うと思っとったのに外したなーwwこうなりゃゆずるちゃんがぼこしてや(-_-)/~~~』
「……」
足取りがさらに重たくなる。
(そんな人に会いたくもないけど…まさに清宿駅にいます…)
返事を律儀に返している自分も自分だけど、そうでもして気を紛らわせないと足が止まってしまいそうだ。
人の何倍もかかってたどり着いた改札前には時間が直前だからだろうか、さっき見た人数よりも2倍以上の人が集まってきている。
その中で駅員が黄色いメガホンでアナウンスを続けている姿は、否応なしにでもイベントが間近に迫っていることを視覚にも訴えかけてくるようだった。
「まもなく期間限定のイベントが開放されます。参加表明したプレイヤーは必ず2人1組の状態でお待ちください。ペアがいない人はご案内しますので駅員まで声をかけてください。
全ての改札口からご案内できますので、集合場所にはご注意ください」
他の人が開場を待ちわびて興奮している中、逆の顔色をしながらなんとか事情を説明してイベント回避をと、大勢の中からパス売場の近くにいる制服姿を探す。
(いた…)
大勢の人の中でも一際目立つ顔、そう思うのは私だけではなかったみたいだ。
その近くで同じようにイベントを待っていると思われる女性2人組は、ちらちらと彼を見てはひそひそと話をしている。
他にも彼を気にしている人の姿はちらほらといるようで、少し離れたところにいるはずの私の耳にもそんな声が聞こえる。
売り場の機械に軽くもたれ掛り、腕組みをしながら目を閉じている姿はさながら1枚の絵になるようだった。
その腰の左に下げられている棒状の武器のようなものも、雰囲気的に醸し出されている和風なイメージによく似合っている。
(何かの…絵…みたい)
「おねーちゃん、1人?」
ぽんぽんと叩かれたものが自分の肩だと認識してゆっくりと振り返ると、全員が目をぱちくりさせて、内3人がこっそりと何かを話して何故かガッツポーズをしている。
その絵画を見ていた私の肩を突然軽くたたき、振り返った先にいたのは全く見覚えがない5人の男性達だった。
「君もイベント参加するの?1人?」
「あ…と…」
「おれたち見ての通り5人なんだけどさ、1人足りないの。よかったら一緒にやらない?」
私が言葉を返すよりも早く、何倍もの言葉の数で男性達が次々に話しかけてくるが、それを軽くいなすようなスキルもなければ、出来てしまった男の人の壁を突き破って逃げることも当然のように出来ない。
(どうしよう…怖い…)
突発的に、あのときの3人組の事を思い出す。
あのときもこんな風に何も話せないまま一方的に言葉を放たれた。
そのときの光景と、あの時感じた恐怖がフラッシュバックして、足が自然と震える。
(どうしよう…正親さん…斗真くん)
無意識に呼んだ名前に答えてくれる人はいない。
男の人達に隠されてしまって、少し先にいるはずの彼の姿も見えない。
それがますます不安を掻きたてる要因になっているのか、目の前で話しかけてくる人達の言葉もうまく聞き取れない。
「考えてくれないかなー人助けだと思ってさ!」
「そーそー、だめでも後で反省会とかすればいいからさー」
「君みたいなかわいいこ絶対声かけられると思うから、おれたちでもいいじゃんって思うんだけど」
(怖い…)
「Es nimmt《おい》!」
「無理強いはいけないよ」
不意に聞き慣れない発音が聞こえると同時に壁が崩さ、目の前が突然開かれる。
それが、後ろから私の盾になるように目の前に立った人のおかげであるのを理解したのは、それよりも早く言葉を発した人がいたからだ。
「げっ!『guardian』の『リヒャルト』…っ」
「ええっ!こいつが!?」
その一言に周りが一気に騒然となる。
『うそ…なんであいつがいるんだよ』
『おい…『大帝』がくるなんて聞いてねーぞ』
『初めてみた…結構かっこいいんですけど』
(大帝…?)
おおよそ日本人だと思えない顔立ちの男性は、くるりと私の方を振り返ると恭しく一礼して見せた。
「大丈夫ですか?お嬢様」
手を取られると、その左手の甲に軽く唇が触れる。
今度は洋画のワンシーンを見ているような、まるで自分の身に起こったことではないような錯覚に陥り、慌てて手をひっこめることも忘れてしまったかのようにぽかんとなってしまう。
「…」
瞬きをすること数回、ここでやっとおかしいなと思い始めた頃
「はしたないからやめろ!」
近くから大きな声がしてはっと意識が戻り、声のした方へ向くと、さっきよくわからない外国語で一括してくれた声の持ち主が、この場にいる誰よりも真っ赤な顔をして震えながら仁王立ちしている。
その視線がばちりと合うと、さらに顔が真っ赤になる。
「やれやれ。お前もわかっていたら早く助けてやればいいのに」
呆れたような優しい口調でそっと私から離れると、遅れてやってきた手の甲の感触に、一気に顔が熱くなる。
「武士は言葉よりも拳で語るものだ」
「その拳で何を語る気だよ筋肉バカ」
大きな岩のような体の影から20代位の薄いフレームをかけた長身の女性が顔をだし、目の前の岩のような男性の背中を蹴った。
その衝撃がすごかったのか、大きな影が苦痛に歪んだ。
「ごめんねー、この無骨なバカ、あなたが絡まれていたのはわかってたんだけど、あなたがあまりにもかわいらしいから二の足踏んだみたい。
どんだけ女慣れしてないんだよな。あ、無機物だから男女の境もないか」
「メメ、メアリー!貴様!」
「よさないか2人とも。見ろ、美しい顔が困惑で崩れてしまっている」
2人をなだめるようにしている綺麗なダークブロンドの男性は、私と目が合うと困ったように眉根を下げた。




