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secret GARDEN- Klotho -  作者: 蜜熊
Quest1
9/226

Phase2-2

あれほど感じていた空腹感はいつの間にか感じなくなり、代わりにやってきたのはぽっかりと空いた穴から感じる虚無感。


(もう寝てしまおう)


きっと目が覚めればいつの通りの進まない時間がやってくるだけだ。


キッチンからは楽しそうな歌声が聞こえてきて、私を通した先の人を見つめる優しい母親の顔が見られる。


もう学校に行きたいなんて言わなければ怒られない。


勉強なんてしたい時にいつでも出来る。ネットにあがれば知りたいことは大抵調べられる。話し相手が欲しかったらチャットでもすればすぐに誰かが声をかけてくれる。


(ここから出なくても、私は大丈夫だから)


鈍く感じる胸の痛みは多分気のせいだ。


そう考えながら自分の部屋に戻ろうとした時だった。


「…え…?」


チカリと光る人工光、その光は3回規則的に点滅し、静かな青色の点滅を繰り返している。


その光の先にはつるりと丸い見慣れたフォルムの


「私の…携帯?」


おそるおそる部屋に近づくと、朝置きっぱなしにしていた子供用の携帯からその光は放たれていて、開けろ開けろと主張しているかのようだった。


(電源…つけたままだったのかな)


誰からも来なくなり、使わなくなったため普段携帯の電源はほとんどオフになっている。


時々私が寝ていて母親がでかける時位しかメール機能は果たされなくなっていて、自分から電話をかけることすら忘れかけている小型電子機器は、命が切れていないことを証明するかのように光っていた。


新規受信メールは1件、その前のメールは昨日の夜だ。


「ごめんね…」


せっかくメールをくれたのに返信すら出来ない臆病者。


ごめんねと返すことすら怖くて、そのくせ未練がましくメールを何度も読み返したりして。


「ごめん…」


聞こえもしない謝罪をもう1度すると、1件前のメール画面を閉じ、新規受信メール画面を開く。


「え…」








FROM: 匡




TITTLE: secret GARDEN 紹介キャンペーン



------------------------------


本文:



招待コード PUHSL22L-TASUK6D1




このコードがあると、ボーナスをもらった状態でゲームを開始できます。


$$$$$$://world./ secret GARDEN /sm1530822L?_player=play=92as9608_tasuku=0!1365748915$$$





「た…匡…?」


思わず視線をずらす。


綺麗に整頓されたデスクの上には、真っ黒な硬質の小型電子機器。


「どうして…?」


だって匡の携帯電話は“そこ”にあるのに。


おそるおそる黒い携帯電話を手に持ち、電源ボタンを動かしてみるが


「電池切れ…」


当たり前だ。この携帯電話は持ち主がこれを手放してもう何年も経っている。


毎日掃除をしている母親も携帯電話の充電までするはずがなく、私も今までこの携帯を手に持ったことなどここ数年ない。


最初の頃はいつ電話がかかってきてもいいように自分の携帯とこの携帯を手放すことはなかったが、それが無駄なことだとわかってからは逆にそれを恐れるように机から動かすことはしなかった。


送信時間を見ると今から5分も経っていないことがわかる。


つまり今この場にいない母親も父親も勝手にこの携帯から私の携帯電話にメールを送ることなんて出来ない。


(なら誰が?何の目的で?)


昔の記憶を辿ってデスクの中から携帯の充電器を探し、近くにあったコンセントにさして、充電しながら携帯電話を再度操作すると、しばらくの沈黙の後画面が明るくなった。


(メール画面…)


開こうとすると4ケタの暗証番号。


これは昔警察の人が捜査で探し当てた数字だから覚えている。そうでなくてもこの数字は私と匡にとってはとても大事な数字だから忘れようもない。


「2……3……」


覚えのある数字を4つ入れて開かれる通常画面から急いでメール画面に移る。


「メール最終発信は…」


「…‥20××年6月14日…」


やっぱりずっと昔に見たものと変化はない。


よく見ると携帯も圏外になっていた。


きっと父親が必要ないと判断して解約していたのだろう。母親もそこまで気が回らなかったのだろう。


この携帯はもうずっと前から通信ツールとしての機能を失っていたのだ。


(ならこのメールは…?)


もう1度メールに視線を移すと、送信者はやっぱり匡になっていた。


けれどその匡の携帯からは発信した痕跡もなければ、メールを送信することすら出来ない。


「誰なの…?」


独り言のような問いかけは暗い部屋に溶けて、消えた。

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