Pase3-3
(メールは相変わらず短文だけど)
そんな2人の気遣いをすごくありがたいと思いながら、私は私で出来そうなクエストを教えてもらい、時間の合間を見てクエストクリアに励んでいたりする。
そんな時、今まで少しでもオンラインゲームをやっていてよかったと思う。
専門的な言葉はわからないものも多いけど、他のゲームと共通する言葉や概念には、何とか順応していけそうだから。
といっても、討伐やストーリーでは絶対と言っていい程戦闘があると教えてもらっているので、そこに順応出来る自信もなかったから行ったことはないし、出来ると言ってもクエストの中で戦闘がなく、かつ私でも出来そうなものに限られる。
「で、今日は何だよ」
私が音の出ない不思議な笛を吹くと、少し離れたところにいる犬がさらに少し離れたところにいた白い群れに向かって走っていく。
私の近くで、青々と茂る牧草に横になっていた正親さんが、その様子を見ながら眠そうな声をかける。
「クエストです」
「それはわかる。」
「えっと…『羊の群れたち』ってクエストですけど」
クエスト名を言うと、それが何をしたらクエストクリアになるのか瞬時にわかったのか、大きな溜息に近い音が1つ。
「おま…とんでもなく地味なクエストやってんだな」
(そうかな…)
クエスト自体は私でも受けられてクリア出来る位難易度も低いものだが、とりあえず地味なクエストなのかもしれない。
戦闘なんてものはないし、戦闘がないから貰える経験値なんてほとんどなし。
報酬だって羊の毛かミルク位だし(毛は加工出来るので地味に流通はあるみたいだけど)、ひたすら自分では手を下さず牧羊犬が頑張ってくれるようなクエストだから、レベルが高い人にとっては眠くなるようなクエストに見えるかもしれない。
「でも羊かわいいですし…癒されますよ?」
「癒される…ねぇ」
遠くから羊の鳴き声と、それを追い立てる犬の鳴き声。
それと周りに生える牧草が風になびく音の他音らしい音はなく、どこか遠い田舎に来たような気持ちにさせてくれる。
その中音のしない笛を一生懸命吹いている私と、隣でうとうととしている正親さん。そんな光景が今までの殺伐とした日常やクリアしたクエストを優しく流してくれているようにすら見えるのだ。
「おつかれさん、ほらこれは報酬だ」
羊を無事檻の中に入れ終った私に、牧場主はうれしそうに笑い、白いカードを差し出す。
「え?でもこれ…」
「おまえさんなかなか誘導がうまかったからな。これはその記念だ」
差し出されるままそれを受け取り、鍵のコードを受け取りながら外に出ると、いつの間に入ってきていたのか正親さんの隣に斗真くんが来ていた。
「毛皮は売ればそこそこの…って何だそれ」
正親さんが私が握っている1枚のカード見て不思議そうな顔をしている。
その様子を見ていた斗真くんが私の近くに寄ってきて、それをおもむろに解錠すると、その結果と私を交互にじろじろと眺め、不機嫌そうな、でもちょっと驚いているような顔をした。
「あんた…そんな才能あったんだ」
「?」
それが褒め言葉なのは何となくわかったけど、何に対して褒められたのかわからずにいると、私に見やすいようにパスの解錠結果を見せてくれた。
ITEM:牧羊犬の忠誠 ×1
ANALYSIS RESULT:Skill card
犬の聴覚は人間の6倍もの聴覚があり、笛の音を聞くことに特化した犬ではそれはさらに研ぎ澄まされたものとなる。
持ち主の危険を感じると自動的に牧羊犬が盾となってくれる。継続時間は相手の強さにより変化する。
RARE RANK: 2
「聞いたことある。このクエストである時間内にクリアするとカード貰えるって」
「へぇ…眠たいクエストと思ったけどこいつには向いていたってわけか」
「らしいっていえば…らしいよね」
2人が納得したように私を見ているのがわかって、よろこんでいいのか複雑な気持ちになる。
名残惜しそうに見つめてくれる牧羊犬を一撫でしてお別れを告げると、近くの駅まで移動する。
私はここでクエストクリアしたからまた後で戻ってこなくてはいけないと言うと、2人とも近くの駅で話すことに納得してくれた。
「てかゆずるもそろそろちゃんとした報酬入るクエスト受けた方がいいよ」
「まぁ…こいつにかかれば大概のレアカードもただの持ち物でしかないな」
「う…」
「ユグドラシルが付けられればほとんどダメージ喰らわなくなるんだし」
「そうだよね…」
そう言われてあの法外な対象レベルを思い出す。
今からどの位頑張ればあれが装備できるようになるのか、想像も出来ない。
「手っ取り早いのは討伐クエストなんだろうけど…お前には無理そうだな」
コーヒーを飲みながら器用にパスを動かし、私がクリア出来そうなクエストを探してくれているようだけど、討伐クエストと呼ばれるものは名前の通り敵を倒すことを目的にしているせいか、出てくる敵の数も多い。
もちろんそれだけ倒されることもある危険なものになっている。
「3人PT用のとかあればいいんだけど…」
隣でしぼりたてのミルクに口をつけながら斗真くんがつぶやく。
その当たり前のように私を入れて“3人”と言ってもらえることがうれしくて、でもそれがすごく久しぶりの感覚で恥ずかしくて、下を向いて毛先をいじっていると、パスを動かしていた正親さんが間の抜けた声を上げた。
「何?」
「ん、ぁー…期間限定イベントクエストがやるってメールが運営から来た」
「へー」
2人に倣って私もパスのメール画面から受信の画面を見ると、そこには正親さんと斗真くんの他に新しく1通のメールが来ていた。
「イベントものだと確かにいいものくれるんだけど倍率も高いんだよな」
「期間限定だし、アイテムがレアだと誰だってやりたいって思うだろ」
「それはそうだけど」
見るとイベント開始は1週間後、メールの一番下についている小さな手紙のようなアイコンをクリックするとイベント参加の意思表示になるようで、イベント開始の1時間前までが回答期限になっている。
「クエストは『2人1組』か…オレかあんたかどっちかがゆずると組んで出る?」
「なんで俺をあっさり頭数に入れてやがる…。…今ところイベントの内容がわからねぇから迂闊に申し込みするなよ」
「あ…はい…」
頭をがしがしと掻きながら面倒くさそうに返事をする反面、決まってしまったことをてきぱきとやりだすその姿がまさに正親さんの性格を表しているように見えて、それがわかってしまったのが不思議な感じだ。
「しばらくすればイベントの中身が公開される。それ次第だな」
「それまでにゆずるはもっとまともなクエストしなよ。手伝うから」
「すみません…」
2人の気遣いがすごく痛かった。




