Phase1-2
確かに言われてみれば今まで扉から還る時に、何度か
『このまま戻りますか?』
と言われたような気がした。
その問いかけがよくわからなかったし、言われるがまま「はい」と答えていたから、あの洋服を持ち出すことが出来たみたいだけど、本当に大事なモノだったらそこで「いいえ」と答えるべきだった。
これ以上ぼろぼろになってしまうのは悲しいし、もうこの服を着てここに来ることはやめよう。
「オレだって追加能力が高くなかったら制服をここに1着置いて行ったりしないし」
確かに斗真くんは最初出会った時からどこの学校のものかわからないけど、校章が入ったジャケットを着ていた。
持ち出すことで劣化することを聞いて、1着をここ用に置いたらしい。
今着ている制服を着て戦ったりしている反面で勉強したりしている斗真くんを想像すると、当たり前なハズなのにすごく不思議な感じがする。
(正親さんのあのジャージも…そうなのかな…)
あれが学校指定だったとしたら…すごく嫌だけど。
「クリーニングで出来るのは汚れをとるか、“呪いを祓うか”しかないから、耐久値が下がっているのは買い替えを考えないといけない。武器だってそうだ。
武器の場合はメンテナンスになるがな」
「オレの場合は刃物じゃないから研磨とかいらないけど、それでもメンテナンスはやってる。
金がかからないって点でも格闘タイプは有利だよな‥ったく」
「それで…お前の場合…」
そう言って正親さんが私の着ている洋服をまじまじと見る。
その隣で首元にあるパスを使って私の洋服を解錠していた斗真くんが眉間に皺を寄せた。
「ゆずる…その服どこで手に入れた?」
「え…えと、貰い物で…」
「やっぱり。デザインは古いけど性能は初心者にはもったいない位いい」
正親さんも同じように思っていたようで、「ダサい」というところだけ強調して続ける。
「耐久値も落ちてるし、せっかくだからそのダサい服を替えろ」
「え…でも…」
「その内裸になりたいなら話は別だけどな」
「……はい」
支部谷駅のすぐ近くにはたくさんの武器・防具屋が通り一帯に広がっていて、そこのどれもが清宿駅でみたものより安い値段が提示されていた。
そこを慣れた風に斗真くんが先頭を歩き、私の後ろを居心地が悪そうに正親さんが続く。
道の途中にある店の1つで足を止めると、斗真くんが店頭に並んでいる洋服の内の1つを私の体に当てた。
「デザインはティーン向けだけど、値段も安いし、手つけやすい。性能はここで“付けて”もらえばいいから、ある程度デザインと耐久値重視で選んでいいと思うけど」
「付ける?」
「ふぁ…俺はちょっと抜ける。ガキ、適当に選んでやってやれ」
それだけ言い残してあくびを1つして頭を掻くと、何人かの女の子達の流れに乗っていつの間にかいなくなってしまった。
それを見て斗真くんがぶつぶつと聞こえない位の音量で何かを言っていたけど、多分文句と愚痴なんだろう。
下手に聞き直すとやぶへびになりそうだから何も言わないでおいた方がいいかもしれない。
「…付けるってのは、古くなった防具についてる追加能力を他の防具につけるって意味」
「そ…そうなんだ」
「今ゆずるの防具には『物理防御10%』って防御力アップが付いてる。だから…」
そう言って今度は白地にレースのフリルがアクセントでついているワンピースを持ち上げる。
「たとえばこのワンピースに“付ける”と、もともとついている『抗汚2%アップ』とプラスで『物理防御』が付くわけ」
「なるほど…」
「付けられるのは高い防具程いっぱい出来るけど、ここで売ってるものだと2つが限界だと思う。後は自分の手持ちと相談だね」
ちなみにいくら持ってるの?と聞かれてパスの残金を表示して見せると、斗真くんの言葉が詰まった。
「…上下では買えそうにないからワンピースに絞った方がいいかも」
「わ…わかった」
と言われたのはいいけれど、いざワンピースを選ぶにしても私には“イマドキの”ワンピースがどれなのかわからない。
ネットでも洋服の項目は見ていなかったし、ネットニュースで挙がっている女優さん達の洋服に似たものは見当たらない。
隣の斗真くんは、慣れないながらも女性向けの洋服を選ぼうとしてくれているのに、自分ではそれすらわからないなんて情けなさすぎる。
なんとかそれらしいものを選ぼうと、ちらちらと周りを見ながら洋服を物色するが、どれも色が派手で似合わなさそうなモノだったり、デザインがきわどすぎてどうしようもないものだったりする。
探していく度気持ちが折れそうになりながら、なんとなくハンガーを見ていると、奥に『パワーセール』の文字。隣には『超特価!最大70%オフ』とまで書かれていた。
ふらふらと吸い寄せられるようにしてそこの陳列棚に行くと、季節外れのものなのか、たまたま売れ残ってしまったのか、いくつかの洋服がハンガーに掛けられていた。
その内の1つ、グレーとピンクのシフォンワンピースが目につく。
持ち上げてみると、Aラインのワンピースと呼ばれているもので、胸元に少し濃いめのリボンと、下には同じ色のフリルがついている。
(あ…かわいい…)
私がピンクのワンピースを見ていると、いつの間にか隣に来ていた女の子がグレーのワンピースに手をかけ、値段のタグを見て溜息をついた。
(もしかして…ものすごく高い…?)
おそるおそる商品タグを見ると、定価の値段は確かに高かったが、それからの割引率を見るとなんとか手を出せなくもないものだった。
追加能力も『対刃物防御力2%』と書かれていて、耐久値も斗真くんに教えてもらった最低ランクの合格点をクリアしている。
(この追加能力が悪いのかな…)
そこまでは詳しくわからないなと、ピンクのワンピースをとりあえず棚に戻すと、別の女の子がいつの間にかワンピースを見ていた。
「あれ?これかわいいじゃん。買ったら?」
それを見ていた別の子が声をかけると、手に取ってタグを見ていた女の子の顔が曇った。
「無理無理、サイズ入んない。こっちは13号、こっちのピンクなんて7号だよ!?」
「うわー…売れ残るわそりゃ」
「どうしたの?なんかいいのあった?」
手前で見ていた斗真くんに見ていたワンピースを見てもらうと、珍しそうな顔をされた。
「へぇ、結構いい性能だしお買い得だと思うけど…サイズ偏ってない?」
「この素材と性能にしてはかなりお買い得に販売させていただいていますから、よかったらご試着してみてはどうですか?」
いつの間にか私達の後ろに来ていた店員さんににこにこと勧められて、おずおずと2つの内の1つ、ピンクのワンピースを手に取る。
「こちらにどうぞ」
店員さんと斗真くんの顔色を交互に見ているうちにフィッティングルームに押し込められてしまったので、意を決して洋服に袖を通す。
(きつかったら戻せばいいんだから…)
そもそも自分のサイズを把握したことなんてない。
洋服も自分で買う機会なんてなかったし、一番最近ですら貰い物。サイズを気にしたことなんてなかった。
(斉藤さんに聞いておけばよかったよ…)
「ん…?」
引っかかるかなと思っていた一番の難所がするりと入る。上は悲しいことにそれほど障害になるものがなかったので、そこをクリアしてしまえば特に障害となるものが私の体にはなかった。




