Phase9-2
地団太を踏むように足をばたばたとばたつかせると、正親さんを睨んでいた目が私に向けられる。
その真剣な目に思わず思い当たる節もないくせに、反射的に謝ると、さらに視線がきつくなる。
「なんで謝るんだよ!」
「ひゃ!?だ…だって」
そこできまずくなる空気に耐えかねたのか、もう1度「あーもう!」と言うと、威勢のよかったセリフから一転して、近くにいないと聞き取れないような声でぼそぼそと何かを言っているような声がする。
「髪…」
「かみ?」
「……っ!髪!切ったんだ!…な…って」
指摘されて初めて2人の反応の意味がわかり、それと同時に急激に恥ずかしさがこみあげてくる。
(変!?変なのかな!?)
今までの髪形が平均の遥か斜めをいっていたから、斉藤さんに切ってもらって多少なりともそれが修正されたと・・・勝手に思い込んでいた。
似合うとか言われて、もしかしたら調子に乗っていたかもしれない。
途端に2人が私を見る視線が恥ずかしくなってうつむいて両手で髪をぎゅっと握っていると、その仕草を見た斗真くんの気配が揺れた。
「一瞬…誰だか…わかんなかった…っていうか…」
「……」
(待って…わかってるから)
「まるで“灰かぶり”だな」
「…へ?」
正親さんが不意にたとえを持ち出してきて、それに反応出来ずにぽかんとしていると、その言葉に勢いを借りたかのように斗真くんが怒涛に続ける。
「そうそう!まともにすればまともに見えるじゃん!最初どんだけ容姿に無頓着で女忘れてるヤツかと思ったけど、何て言うか
…あんたがそんなに…わいい…とか…思ってなかったし…」
おそるおそるあげた顔に映ったのはバカにしている顔ではなかった。
1人は目が合うと目を泳がせてそっぽを向きごにょごにょと言っている。
もう1人はよくわからなかったけど、手の隙間から見えた口元は悪い意味で歪んでいたのではなく、ゆるくあげられていた。
「後はそのガキみたいな服だけどうにかなればお前もマシになるんだけどな」
「う…」
「別にそのださい服が気に入っているならかまわねぇけどな」
「うう…」
「あんたはそのだっさいそのジャージ、気に入ってるとか言うつもり?」
「ぁ?これは単なる作業着だっつってんだろ」
(あのジャージと…同程度…なのかな…)
匡にはすごく申し訳ない気持ちがあるけど、少し考えてもいいのかもしれない。
「あ!ゆずるちゃん、こっちこっちー」
しばらく3人で歩いていると少し離れた先、小高い丘の上から私を呼ぶ場違いな声が聞こえてきた。
入り口まで来て初めて、目の前に見える建物が、奇妙なものであったことに気が付く。
鉄格子から見える丁寧に手入れされた庭に置かれていたのはおびただしい程の石膏像、しかも少年のものだ。明らかに庭のバランスを崩すような配置で置かれている像は、
どれも全身裸の少年の像で、瞳がどことなく淀んでいるようにすら見える。
その奥、屋敷への入り口と思われる扉は少し開いていて、そこから鉄と何かが腐ったような匂いが漂ってくる。
その匂いに誘われてきたのか、わずかに残っている樹木の緑色の色彩には、たくさんの烏が鳴いている。それが一層屋敷の雰囲気を重く、濁ったものにさせているように感じて、鳴き声に思わず顔をしかめた。
「この鉄格子、PT全員揃わないと開かんみたい。っておれらが先走っといて何言うてんねんって感じやけどね」
「ホントだよ…」
へらっと笑うと、その笑顔が気に障ったのか、斗真くんが不機嫌な顔のまま悪態をついた。
「その代わりというかジルはおれらが殺っとくからさ。ゆずるちゃん達はゆっくり屋敷探索でもしといてええよ」
「え?」
「ずいぶんな自信じゃんかよ」
斗真くんと正親さんが2人の間に入るように前に出て私を後ろにかばい、斗真くんが鼻を鳴らして2人を見据えた。
その挑戦ともとれる視線を、嬉しそうに受け止めながら緩やかに笑う。
「舐めたらアカンよ、ちびっこくん。おれらだってやるときはやりますよ」
「かっこつけんで素直にレア欲しい言うたらええやん」
「トラ!?こら、しー!ここはかっこつけたいとこなんやから本音はアカンて」
虎さんにずばりを言われたらしく、ばつが悪そうな顔になった國鷹さんが、虎さんの口元に手を当てている。
(全部聞こえてるけど…)
「あの…レアとか…はいいんですけど…2人で大丈夫ですか…?」
「君のシンボルと同じくらいの持ち主がやる気出しとるから問題ないやろ」
私のもっともな質問に、國鷹さんの手を外した虎さんがはっきり言う。
(私の…『シンボル』…?)
「あの…それって…」
ガシャンと音がして目の前にあった扉が開かれる。それと同時に一斉に響く電子音。
- ストーリークエストヲ開始シマス-
- 敵影 ヲ 確認 シマシタ -
「いきなり!?」
斗真くんが敵影を確認しようとしたのと同時に少し前にいた2人が駈け出す。
その後ろを今まで微動だにしていなかった石膏像が意志を持ってその後を追いかけていく姿が見えた。
「ゆずるちゃん、また後でなー」
追跡者のことなどまるで眼中にないかのように悠長に手を振る國鷹さんの口元は、はっきりと笑っているように見えた。
その少し後ろを呆れたような顔をしていた虎さんが走り抜けていく。
「ゆずる、どうする」
はっとして前を見ると、冷静に敵を見ていた正親さんが2人が飛び込んでいった扉を指差した。
「こいつらは屋敷に侵入しなかったら危害は加えてこねぇみたいだ。あいつらもボスはやってくれるって言ってる。別に行く必要はないぜ」
確かに扉の前に立っている私達を眼中に入れているような様子はない。
「あ…」
(入らなかったら…)
自分が傷つくことも、相手が傷つくことも見なくて済む。
『やる気出しとるから問題ないやろ』
問題もないって言っていた。
「…お願い…します」
私を見ていた2人に向きなおす。
「私何も出来ないけど…力を貸して…もらえませんか…」
(入らなかったら、今の私はきっと後悔する)
「…お願いします」
傷つくことに慣れたわけじゃないけど、傷つくかもしれないとわかっているからと、他の人の危険を知っていて逃げる自分にはなりたくない。
頭を下げると、足元の影が揺れた。
「今度のクエストのために知っておきたいし。…オレのためだから頭なんて下げんな」
「相変わらずひねくれてんな」
「うるさい」
「2人とも…」
「ぁー…言うんじゃなかった。めんどくせ…。ここはさっさと駆け抜けるぞ」
2人が私の背中を押す。それと一緒に私の足が1歩前に出た。




