SAVE5:Night Mare
Phase7
スルト:
北欧神話に登場する神々に敵対する巨人。
名は「黒」を意味する。
天地創造の頃から世界の南にある炎の国ムスペルヘイムの入口に立つ番人であり王として言及される巨人である。
炎を全身にまとって南から進軍して、豊穣神フレイと激闘を繰り広げてこれを討ち果たす。
そして多くの神々や巨人族が倒れていく中、最後まで生き残って地上に炎を放ち全てを焼き尽くすといわれている。
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『それ』は真っ黒な大きな塊に見えた。
『それ』は自分の足元に見える矮小なモノ達が人間であると認識すると、あるかどうかも分からない口元を歪めた、ように見えた。
顔と思わしき小さな頭部からぱらぱらと体と同じ黒いものが落ちる。
「あれは…『なん』だ…?」
誰もが思っていた言葉を口にしたのは誰だったのか、それすらも目の前の凄惨な光景が脳裏に焼き付いているせいなのか、うまく今の状況を理解できない。
少なくとも私達は似たような認識でいた。
あるものは呆然とその黒い塊を見、あるものはすでに息が絶えた1人の少女の姿を追い、あるものは自分自身の中では受け止めきれない状況を口にする。
私もその中にある感情に身を任せていたかった。けれどそれを許さない自分の本能がうるさい程警鐘を鳴らす。
- 壊錠 ノ 宣告 ガ アリマシタ 退却 ヲ オススメ シマス-
「!」
「く…くるぞぉぉぉおおお!!」
体を震わせるようにして叫んだケロッグさんの声で再度空中を見ると、真っ黒な塊が赤い柱へと変色していく。
明らかな熱量が肌を刺激する。
広場にいた人間の中から泣き叫ぶ声。
「聖女の怒りだ…聖女の怒りがオレ達を罰するんだぁああ!」
途端、堰き止められていた流れが放流されるように広場から逃げ出す人の流れを、ただ上から見ていた塊が動いた。
また、目の前が真っ赤に染まる。
「ぎゃあああああああああっ!!!!」
「ああああああああああついいいいいいいいいっっ!!」
炎の柱のように見えた敵からの攻撃は人の流れの中に重たい石を放りこんだかのように、確かな質量と熱量を持って周りに波紋を作る。
その波紋は近くにいた人を巻き込んで広がり、広場に熱を拡散していく。
「なんなんだ…この化け物は…」
その一撃は自分と相手の力量差を明確にさせるのに実に効率的だった。
その熱に当てられただけで両足が動くことを拒否し、震えを伴わなければ立っていることも覚束ない。
自分の心臓の音だけが耳に響いてうるさい。
警鐘は鳴らすことだけでは満足出来ないと言ったように、今では痛みとして私に訴え続ける。
圧倒的な暴力の前に、いかに自分が無力かを痛感させられる。
鳴らされ続ける警告に、自分が崖の縁に立たされていることを認識させられる。
「逃げた方がええよー…って」
その中、お面をいつの間にかとった男性だけがあの黒い塊が支配する空間で自分の意思で動けるのか、出会った時から何も変わらない相変わらずの口調で、しゃがみこんでしまっていた私の隣、キムさんに声をかけた。
ゆっくりと声をかけられた方へ振り向くと、その相手は視線が合った相手に薄く笑う。
「ストーリーチェンジした今では中断すら出来んけどな」
その声がキムさんの耳に届いたのかはわからないが、伝えるべきことは終わったとばかりにその場から離れると、まだ動けずにいた彼の目の前に黒く大きな影が現れる。
モーションキャプチャーのようにゆっくりとキムさんがその影の正体を掴もうと顔を上げる。
「だ……」
悲鳴をあげ逃げ惑う群衆の騒音に最後の言葉も鈍い音も掻き消された。
黒い塊がいつの間にか持っている赤い棒状の先端には何かの液体が付いていたが、それも棒の熱量でなのかすぐに蒸発した。
その大きな影の下、黒髪で短髪の男性がゆっくりとうつ伏せに倒れる。
地面は大きな影によってすでに黒く彩られていたが、その影の下に倒れこんだ男性の下の地面が、さらに黒い色彩に染め上げられる。
それはじわじわと地面を濡らし、広がりを止めたときには男性の姿はすでにこの場には存在しなくなっていた。
「ああああ…ああああ……」
その様子をただ見ている私が、ようやくその声が自分の口から洩れたものじゃないと認識して、ひどく緩慢に声のした方へ向く。
その時間がどれ位かかったのかわからない。遅かったのか、相手が早かったのか。それすらも認識することは出来なかった。
私の視線が目標物をとらえた時、それはすでに事が終わった後だった。
びくりと何回か体を不自然に震わせた影、少し前までは独特の言い回しで周りを和ませ、私に自分の秘密を見せてくれた男性。
それはもう二度と口を開くことはなくなっていた。
どさりと音がワンテンポ遅れ耳に届いたが、短い息を吐くことしか出来ない。
涙を流そうとしたが、その命令すらしびれた脳ではうまく働かない。
「逃げろ!おじょーちゃん!」
突然視界が高くなると、私の脇を抱えるケロッグさんの顔が近くに映る。
その顔は恐怖で引きつっていたが、それでも震える足をなんとか精神力でカバーし、私を支えようとしてくれていた。
「おれが食い止めるから…おじょーちゃんだけでも…逃げろ」
その言葉はすでに自分が逃げられない事を覚悟していた。
それでも自分より弱いものをどうにか助けようとしている。
声を出そうとして、震えていた口元をはくはくと動かそうとするが、言葉が出てこない。
支えられていた右側と反対の左側が持ち上げられる。
「こいつの言う通りだ。逃げろ…少しだけならなんとかなるかもしれねーから」
「たか…し…さ」
「スキルコード『感電』使用!前方!」
青白く細い線状の閃光が目の前に広がり、黒い塊の体を細い網状の電気が張り巡らされた。
「いけ!」
がんがんと頭が痛い。警鐘は落ち着かず、体も言うことを聞いてくれない。
ここにいても何の役にも立たない私を、今逃がそうと3人が必死になってくれているのに、私は足止めも出来なければ走り出すことも出来ずにいる。
拒否の言葉も出せずに顔を歪めて首を横にふるが、肌に感じる熱量が大きくなる前に突然体が後ろにふっ飛ばされる。
視線の先にケロッグさんが笑って右腕を突き出す恰好をしているのが見えたが、その後ろから迫っていた赤い隕石のようなものがその笑顔を呑みこもうとしていた。
瞬きを1つした後目の前は真っ赤な色一色に染め上げられる。
体が地面についた衝撃が伝わると同時に熱風が体を撫でつけ、その風圧でさらに遠くへ飛ばされる。
風圧で一時的にマヒしていた聴覚が再び音を拾い始めた時、最初に聞こえてきたのは何かの許可を待っている電子音、視覚が最初に映したのは黒焦げの少女だった者の前で倒れている金髪の男性だった。
「これで全員か」




