Phase6-1
最後の戦いに出撃するジャンヌの姿が城門に現れた。
見事な駿馬にまたがり、凛々しく身を固めた甲冑の上に、真紅地に金糸織の豪華なマントを翻していた。
旗持ちがいつもの旗を掲げ、城内の守備隊を率いてブルゴーニュ軍に突撃した。
ブルゴーニュ軍はたまらず敗走、勢いづいたフランス軍は更に追撃する。
しかし敗走したと思った敵軍は背後からフランス軍を包囲することで形勢は逆転、前後から攻められたフランス軍は、総崩れになり城内へ逃げ込んだ。
最後尾を守っていたジャンヌが城に近づいた時、城へとつながるはね橋が上げられてしまった。
城へ退却して来るジャンヌを待とうともせず、濠にかかった橋を容赦なく上げてしまったのである。
こうして、目の前で退路を断たれたジャンヌは敵に囲まれて捕われの身となる運命にあった。
それは1430年5月の夕刻の出来事であった。オルレアンの戦闘から1年後のことであった。
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目が覚めた私達の目に最初に飛び込んできたのはパスが無機質に表示するクエスト内容だった。
マルシェ広場へ向かい事の顛末を見届けよ
「これ…」
最後のクエスト内容が表示されたことはつまり、このストーリーの終末が近いことを意味している。
いくら歴史に疎い私でもストーリーの最後に広場で待っていることで思い浮かぶものがないわけではない。
みんなの動きが気になって食堂に顔を出すと、そこにはすでに私とリトライさんを除いた全員が顔をそろえていた。
「すまぬすまぬ!遅れましたー」
私の後ろから独特の口調で入ってきたリトライさんが席に着き、私も余っている椅子に座る。
「みんな揃ったみたいだしそろそろ行くか?」
周りを見回してケロッグさんが口を開いたが、みんなの返事を待つことなくもう1人が口を開く。
「それよりちょっとええ?」
椅子に座ることなく窓を眺めていたその人は、相変わらず流行のメンズファッションとは到底似合わない縁日に飾られているお面をつけている。
その顔には怒りも笑顔もなく、温かみを感じない機械の顔だけが張り付いている。
「これでジャンヌの処刑を見てストーリーは終わりなんやけどな」
「……どうして最後のクエストがただ傍観するだけとか思わん?」
「何が言いたい」
唸るようにライアンさんが言い返すが、相手は相変わらず口調に一切の変化はない。
「最後なんやし、もっと盛り上がる山場があってもええと思わん?」
「もったいぶるな、おれらにもわかるように言ってくれ」
じれったそうに体をゆするケロッグさんの意見に同調するようにキムさんとリトライさんがうなずく。
「ノリが悪いなぁ…まあええわ。最後のクエスト、“裏”に行ける入り口でもあんねん」
「!?」
「本当なのかそれは」
みんなを代表して高橋さんが詰め寄るが、ガッチマンさんはそれを両手を挙げて制止した。
「話は最後まで聞いてや。おれはチケット持っとるし、このまま“裏”に行くのが目的。ここで嘘ついてもしゃあないし、それは本当」
「ぐぐ…ぐれいとぉ!僕裏クエスト初体験なりー!」
「ただし」
「っ!」
相変わらず向けられる顔は昔懐かしいヒーローのお面。その表情が変わることもないはず。
ただし、と区切られた後に続いた言葉。
それを言いながらお面の奥の顔は確かに笑っているように見えた。
空は灰色で鈍り、木々がざわめく音もどこか不安げに揺れていた。
不協和音が歴史の中で音を立てて膨らんでいく。そうやって膨らんできた不協和音は、今言葉という確かなものとして目の前に現れた。
「死んでもええならな」
5月30日、ジャンヌは異端者として教会から破門とイングランド軍による即時死刑を宣告され、ルーアン市内のヴィエ・マルシェ広場で火刑に処された。
火刑は中世ヨーロッパのキリスト教的世界において、処刑される者にとっても最も苛烈な刑罰だった。
その残虐な刑罰方法もさることながら、重要なのは死体が灰になってしまうという点にある。
遺体が燃やされて灰になってしまっては最後の審判の際に復活すべき体がなくなってしまうから、という宗教的な理由もあり熱心なキリスト教の信者たちは火葬に対して強い抵抗を感じていた。
「あいつはここで何をするつもりなんだ?」
事の顛末を一般市民に紛れて見守っていたが、火刑の準備が着々と進んでいくのにしびれを切らした高橋さんが、貧乏ゆすりをする。
「なんでもいい。ここで彼女が救われる道があるなら、例えもしもの世界でも見てみたい」
「うう、楽しみ過ぎるぅ!」
「しかしこのままでは本当に何もなく終わっちまうぞ?あいつは何してるんだ?」
「そういえばいつの間にかいませんね」
キムさんがきょろきょろと辺りを見回すが、野次馬が多い広場ではお面をつけた特徴的な顔すら見つけることは難しい。
(さっきメール送ったけど返事がない)
さっきから何度となくパスを開くが、メールの受信は相変わらずない。
(斗真くん怒ってたしな)
ストーリーの途中で正親さんから1回、斗真くんから4回メールがあったが、正親さんのメールは相変わらずそっけなくて、斗真くんのメールは相変わらず怒ったようなメール内容だった。
(早く返事返ってきてくれるといいけど……)
私は“同行”がどんなものだからわからないから、正親さんから戻ってくるはずのメールを待っているしか出来ない。
(今のところ7人でPT上限だけど大丈夫なのかな……)
もしそれで2人が入れないとかになってしまうなら、事情を説明してどうにか一度戻らなくてはいけない。
みんなやる気だからなかなか言い出せなかったのでとりあえずメールで相談してみたけど、それすら返事が返ってこない。
そわそわと落ち着きなく左腕を見るが、期待したリアクションは一向にやってこない。
だんだんと広場の雰囲気が騒がしく、狂気的になってきているのを肌で感じているからこそ、こんな場所に1人でいる心細さを感じずにはいられない。
(きっとこんな時正親さんなら『お前がそんなに落ち着きなくしてどうする』とか言ってくれるはず。斗真くんだって呆れるだろうな)
そう考えて、私の中で2人の存在が思った以上に大きいことを改めて感じて驚いた。
(早く…来てくれないかな)
広場の中央が突如一層騒がしくなる。
悲鳴にも似た歓声があがり、いよいよイベントが近づいていることを知る。
広場の中央でうずたかく積み上げられた薪に、たいまつを持った男性が2人。
その人達は集まった群衆にそのたいまつの火を見せつけるかのように高く掲げると、積み上げられた薪に火をつけた。
その上、磔にされるような恰好で体の動きを封じられていたジャンヌは、今にも奇跡が起き自分は救い出されると信じて疑わない顔をしている。
まっすぐに空を見つめていた瞳がふと、群衆の中にいる私達に注がれたような気がして、そのまっすぐな目を見つめ返すことが出来なくて目をそらした時に、一際大きな歓声。




