Phase3
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-1427年 フランス シャンパーニュ地方 ドンレミ村 -
そこは草原と点在する石造りの建物で出来た小さな村だった。
風が頬を撫でるが、どこか乾いた寂しい空気がする。
遠くで鐘の音が聞こえる石畳の道の一角に私達は立っていて、少し前まで乗っていた電車はいつの間にか馬車に変わっていて、その馬車も今は遠くに見える。
「さてと」
その場所に耽ることもなく行き先を知っているかのような足取りで進むのが2人。
ガッチマンさんと、途中までストーリーを進めたと言っていたリトライさんだった。
「もう少しするとジャンヌが走ってそこの教会から出てくるよぉ」
くふふと笑いながら、道の端へ寄る姿を見て、他の人もなんとなく道の端に寄る。
しばらくすると坂の上の建物からやってきたのは1人の少女。
濃い栗色の髪の毛を振り乱して、走る姿は何かが乗り移ったかのようだった。
「どないしたん?そんな急いで」
それが最初から打ち合わせであったかのようにお面をかぶったガッチマンさんがその少女に声をかけると、少女は興奮を隠しきれない赤くなった頬ときらきらと光る瞳を私達に向けた。
「ああ、旅の方。この身の幸福を聞いてください。天使様がわたしにお告げをくださったの!」
「お告げ?」
「『ジャネットよ、善良でありなさい。そしていつかフランスをお救いなさい』と。ああ、天使様、身に余る光栄です」
そう言うとこうしてはいられないといった風に駈け出す。
その後ろ姿は私よりも幼い少女のものだったが、何とも表現しにくい風格のようなものがあった。
「…ジャンヌダルクは幼名をジャネットと言っていたらしい。あの幼さからしておそらく1番最初に天明を聞いたとされる13歳の時の再現か何かだろう」
黙ってみていた内の1人、ライアンさんが史実として語られている物語を説明する。
この当時、フランスはイギリスとの百年戦争に明け暮れ、瀕死の重病人のような状態だったらしい。
長い戦争のために国内の産業はすっかり疲弊し尽くし、盗賊団が、各地に出没して略奪の限りを尽くしていた。
若者は兵隊に駆り出され、秩序を失った国のあちこちで調達と称して家財や家畜を奪い、女と見れば襲いかかられた。
人々に生きる望みなどあるはずもなく、ただ自暴自棄になって毎日を刹那的に生きるだけという時代背景があったようだ。
「そうでしたか。それならば先程の少女があれほどまでに天からの救いの言葉でよろこぶのがわかる気がします」
キムさんが少女の立ち去った後の道を感慨深く見ていると、全員のパスからこの世界にそぐわない機械音が聞こえた。
― 敵影 ヲ 確認 シマシタ -
「お!さっそく来たか!」
「ゆずるちんは僕の後ろにか、隠れててもいいんだよぉ」
それぞれの方法でさっと辺りを警戒した5人に対し、お面の主、ガッチマンさんはそんな私達の様子を伺うように笑っているか焦っているのかもわからない機械質なお面をかぶったまま、近くの建物に体を預けていた。
坂の上と下からいつの間にかやってきた数人の男はどの男も目の焦点が合っていない、そのくせ敵意と狂気だけぎらつかせた様子で私達を取り囲んだ。
「これがストーリークエストの1番目のヤツか」
スーツを着た高橋さんがメガネの真ん中を押し上げた。
腕にある銀色の腕時計はホログラフィー画像が映し出されていて、一番上のストーリー画面のところがいつの間にか『盗賊団の殲滅』と書かれていた。
「で…でもあの幼女…じゃなくてジャンヌたんがやられちゃうとゲームオーバーとかなんとスリリング!」
「あんないたいけな少女を倒させやせん!」
そう言うと鼻息荒く盗賊団の群れに突っ込んでいく。
「スキルコード『威力アップ』使用。右腕部強化」
右手がうっすら赤く光るとそれを目の前に迫っていた男のみぞおちに向けて思いっきり殴った。
その衝撃で盗賊団がまとっていた帷子のような金属製の防具が砕ける。
「やりますねケロッグさん。僕も頑張ります」
勢いで敵勢の中に突っ込んでいったランニングシャツ姿を見ていたキムさんが、意を決したかのように懐から銀色の細長い箸を取り出した。
- シンボルヲ 使用 シマスカ? -
「え…」
どこかで聞いたことがある警告音に音の出所を無意識に探していると、目の前で長箸を持っていたキムさんの手元が光りだした。
いや、正確に言えば手元にある長箸だ。
「はぁっ!」
2つの箸が勢いよく手元から離れ、そのまま一直線に敵めがけて突き刺さる。
それは的確に相手の心臓を打ち抜いたようで、箸の残像が消えると同時に2人同時に地に倒れた。
(すごい…)
それと同時にキムさんの体も膝から地につく。
「はぁ…はぁ…」
肩で息をしているキムさんは敵の中心で戦っているケロッグさんよりも明らかに疲労度が高く、辛そうだった。
その様子を黙ってみていたライアンさんがキムさんを肩で支えていると、慌てた口調でリトライさんがキムさんのもとに駆け付けた。
「バ、バカちんが!そんな低レベルで『シンボル』を使うなんぞ…まだ先は長いんだからNGNGぃー」
「すみません…僕攻撃あまり強くないので…これ位でしか役に立てなくて」
「心配するな!おれが倒してやる!」
その言葉通り次々と敵をなぎ倒していく中、ガッチマンさんだけは何もすることなくストーリーを傍観していた。
それを見ていた高橋さんが棘を含んだ言葉を言いながら無表情なお面を睨む。
「おい、募集主が一番楽してんな」
「…ここはケロッグさんがおればどうにかやるやろ。いざとなったらあなたが頑張ってくれるみたいやし」
「!?てめっ…」
一色触発の雰囲気があたりに立ち込めたその時
― 敵影 ヲ 殲滅 シマシタ -
「よしっ!」
電子音と清々しい掛け声がその雰囲気を掻き消した。
「みんなやったぞ!…ってどうした?怖い顔して」
「なんでもねーよ」
「おつかれさま。何事もなく1つめクリア出来てよかったわ」
空は灰色で鈍り、木々がざわめく音もどこか不安げに揺れていた。
不協和音が歴史の中で音を立てて膨らんでいく。そんな予感がした。




