Phase8-9
「じゃあ全部の元素記号が順番っていいたいの?」
「そう言えりゃ楽なんだろうけどな。なんかどうせあるだろ」
「…ふん。あんたもそう思うってわけか」
「……」
「…おい、何ぼーっとしてんだよ」
「そうだよ、あんたもちゃんと考えてよ」
「あ、うん」
慌てて新聞の上に書き直された文章を見返す。
「でもこれ変だよね…簡単って言っておいて、混乱しちゃダメだなんて」
「要するにひっかかんな。単純じゃないって言いたいだろ」
「じゃあこの『星達』ってのもきっとヒントになるのかな」
「まあ…間違いないだろうな…」
(星…)
「ヘリウムはHelios、『太陽』から語源が来てるけど」
「そうなの?」
「セレンは月の女神セレーネ‥か。でもクリプトンはそんな語源の意味ねぇぞ」
斗真くんがつぶやいた言葉に正親さんが反応する。
「わかってるよ。だから言わなかったんじゃん…」
(頭いいな2人とも。なんか場違いな気がしてきた…)
「えっと…じゃあクリプトンの意味ってどんなのがあるの…?」
「フォローしてるつもりなの?」
「え!?」
「…はぁ、いいよ。クリプトンはKryptos。隠れるって語源からもじられて隠者って意味だったはず」
(最後だけ星の名前じゃないんだ)
(せっかく2人がここまで考えてくれたのに、私もなんにかそれに答えられるようなものないかな…)
「お客様、追加注文はよろしいでしょうか?」
声をかけられてすっかり手元の飲み物が空になっているのに気づく。
「ぁー…俺これと同じの」
「オレバナナオレ、ミルク多め」
「かしこまりました」
「あ、あの、私空いたグラス片づけてきます」
「わたくしどもで片づけますから結構ですよ」
「あ…すみません」
「お前…息抜きしたいなら適当にやれよ。下手すぎだ」
「すみません…」
ウエイターにやんわりと制止された挙句その本意まで見抜かれて席にそのまま座っているのがいたたまれなくなり、ウエイター以外のNPCに目をやると、
数時間前からなんら様子が変わっていないお客さんと店内が、相変わらず決められた役割を黙々と演じていた。
「皇帝が女帝に対し決闘を申し込んだらしいわよ」
「まあ怖い」
「戦車も出すようなことにならなければいいけど…」
「もうすぐカーニバルだね、今年も魔術師のやつは派手に活躍するのかね」
「いやだわお爺さん、そいつは去年吊るされてしまったではないの」
(こんな会話もずっと繰り返されているのかな)
この数時間新聞とにらめっこしていたかご飯を食べていたかのどちらかしかしていなかったから周りの人の会話なんて気にも留めていなかったが、
こうやってプレイヤー以外の人達の話をちゃんと聞くのは駅で話した駅員の人達位しかしなかったような気がする。
「隠者のあのお方は世界の巡りを見ておられる…」
(隠者!?)
ばっと声がした方をむくと、奥の席に1人ぽつんと座っている老人がなにやらカウンター越しにバーテンダーのような恰好の人に話しかけている。
「あ…あの…おじいさん…隠者って…」
斗真くんには別にNPCと話さなくてもいいと言われていたが、逆に人じゃないとわかっていたからか、私は思い切ってその老人に話しかけてみた。
浮浪者のような恰好をしていた老人はお酒をあおるような仕草を繰り返し、私の質問に答えてくれるそぶりは見せなかった。
ただ壊れたぜんまい人形のように繰り返し
「隠者のあのお方は世界の巡りを見ておられる」
「星の巡りは全てセフィロトとともにある」
と言い、それに対してバーテンダーが時折視線をその老人に向けては
「じいさん呑み過ぎだ」
と苦笑するのを繰り返していた。
そのお経のように繰り返される老人の声に、どこか遠く奥深く仕舞い込んでいた記憶の扉が開く音が聞こえた。
星 皇帝 カーニバル
世界 戦車 去年
セフィロト 魔術師
(そうか…)
パーツがはまってしまえばすべての事象が意味のあることだったことに気が付く。
与えられた役を永遠と繰り返すここの人達、繰り返される会話の中に含まれていた言葉の中に。
(このお店全部が…ヒントだったんだ)
「…なに、怖い顔して」
ばたばたと席に戻ってきた私を見て、まるで不審者を見るような目つきで斗真くんがそう言ったが、顔色をうかがう余裕はなかった。




