Phase8-4
「…あれ…?」
そこでふと違和感。
「…なに?」
手詰まり感にいらいらとしている斗真くんの視線が私が向けている方へ向く。
「…ああ…天井が鏡になってるの今さら気が付いたの?」
「鏡…」
天井には同じように上を見上げる私の姿が映っている。
机だってちゃんと見える、ヒントを見終わって元の位置に戻した人形も映っているし、特に変わった様子もない。
でも確かに感じる違和感。
「…あ!」
がばりと立ち上がると、2人の視線が一斉に向けられる。
1人はやれやれといった表情だったが、もう1人は片目だけ器用に開けて眠そうな表情。
「だからなんだよ」
「あれ」
私が指を指したのは天井、少し前斗真くんに教えてもらった鏡になっているとわかった天井、その1点。
「上の机、半紙2枚しかない。鏡じゃ…ない」
体をずらして天井に映っている机の上がよく見えるようにしてみると、机の上には半紙と半紙を入れてある箱、硯、筆が見える。
机のそれは2つしかなく、斗真くんがヒントを集めて書いてくれた1枚は映っていなかった。
「どういうこと…?」
「簡単だ。あの鏡がなんらかの幻影を映す類ってやつだ」
のそりと体を起こした正親さんが腕にはめていたスポーツウォッチを天井に向ける。
短い音がして画面に映ったのは、1つのモンスターの解錠結果だった。
NAM:TYPE TRAP
NAME: ファントムミラー
ANALYSIS RESULT:
プレイヤーに対して幻影を見せる鏡型モンスター。物理無効。
スキル・状態異常は有効であるが、レベルが高いプレイヤーの攻撃はLPが低く鏡の向こうのものまで破壊される。
「なるほどNAMは敵にはカウントされないから、アラームも鳴らないし気が付かないわけか」
「ちっ、物理無効か。厄介だな」
2人の会話の半分程度しか理解出来なくていた私に気が付いたのか、正親さんが簡単にモンスターの結果を教えてくれた。
あれはどうやらモンスターのようだけど特に向こうから攻撃もしてこない、いわゆる『罠』。
別にひっかけてダメージを与えたりしてこないが、殴ったり叩いたりして壊れたりはしない。
「鏡が幻影だとすると、その奥に何か隠されている可能性が高い」
「ああ、でも俺は…壊せねーな」
「え…正親さんでも倒せないほど強いんですか?」
「ばか、ちげぇよ」
「こいつがやると逆に奥に隠されているかもしれないものまで壊しちゃうって言ってるんだ。オレでもスキル使ったら多分壊れる」
「ANALYSIS RESULT(解錠結果)お前もみたろ。攻撃が強すぎると鏡の向こうのものまで破壊されちまうんだよ。
スキルは純粋にそのスキルのレベルか、使用者のレベルにしか依存されないから手加減は出来ない」
「くそ…状態異常系は…持ってない」
斗真くんは自分の首にかかっている声帯マイクのようなものからホログラフィー画面を開き、持ち物を見て悔しそうな顔をしている。
そのキーワードにはっとして、左腕のまかれている腕輪から同じように画面を開く。
スキル画面には、初めて手にしたスキルが表示されていた。
「なるほどな」
私がやろうとしている行動がわかったのか、正親さんが口元をわずかにゆるめた。
何回か使うところを見ていたからやり方はわかっていた。
「おい、ガキ。姿勢を低くしろ」
「え」
「スキルコード『毒風』使用」
腕輪からふわりと紫色の風が立ち上る。
「対象を言え」
斗真くんの頭を無理やり下に押しつけながら正親さんが言った。
「あ、はい!『ファントムミラー』…」
ふわりと浮かんだ煙は上を目指しゆらゆらと上がっていく。
天井を紫色の煙が覆うと、一瞬木枯らしがふいたかのように天井に風が巻き上がり、その風の鳴き声と木霊するかのように硬質なものがひび割れていく音が聞こえる。
風が鳴きやみしばらくすると、頭上からぱりぱりと破片が落ちてきた。
ばりん、と大きな音がするとひび割れていた天井の景色が元の景色に変わる。
天井の画面はさきほどとさほど変わらない上下対称の鏡で映したような景色だったが、私達が立っている場所にはいつの間にか人形が5体増えていて、上の画面には斗真くんが書いてくれた半紙を含め計3枚の半紙が机の上に乗っているのが見える。




