Phase7-2
それから慌てて父親が取り寄せたデリバリー品を2人で言葉少なに食べる久しぶりの食事は、自分が流した涙のせいか、父親が流した涙のせいか、やけにしょっぱく感じた。
父親はその言葉少ない会話の中で私がいつもと違う恰好をしていたのを『外に出てママを探しにいってたと思った』と告げた。
「お前が外に出るなんて思ってもなかったからか…行き先のアテも全くなかったよ」
「…」
「…家に閉じ込めておく気はなかった…私は……」
「少しずつなら…外に出ることに慣れていくのはいいことだ。ただそんなに急でなくてもいいんだ。無理はしない程度に…」
そこで言葉を詰まらせると
「ああ…これじゃ結局私もママと同じようにお前を閉じ込めておきたいと思っているのと同じ意味になるな」
自分は家にいることが少ないくせにな。と自虐的なぎこちない笑みを浮かべた父親に、どう返していいのかわからない。
そもそも何年もほとんどまともな会話をしてこなかった。たまに救いを求めるように瞳を向けても、居心地悪そうに視線をそらされるだけだった。
「…」
「今度‥もしまた外にでかけるようなことがあるなら‥ちゃんとメモを残しておきなさい。…いいね?」
「……はい」
「…外に出ることに慣れるのはいいことだ…」
そろそろとのばされた手が一瞬戸惑うかのように止まり、そしてゆっくりと私の頭に触れた。
「私もなるべく家に帰るようにするから」
与えられた温かさにとまどいうつむいていると、その大きくて懐かしい手はゆっくりと私の頭を撫でた。
(言っても…)
期待してもいいのだろうか。
「ぱ…パパも…」
「ん?」
「パパ…も…メモくれる?」
最後の方は消え入りそうな位小さくなってしまったが、この言葉を理解した手がふんわりと私の頭をたたいた。
ぎゅっと両手で髪をつかみ、真っ赤になっているだろう自分の顔を膝にうずめた。
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「…ぅ…」
今度はちゃんと直前に見ていた夢をうまく思い出すことが出来た。
父親と久しぶりにご飯を食べて、あまり話せなかったけど気持ちに触れることが出来た。よかった。久しぶりに幸せな夢を見ることが出来た。
「……夢」
言葉に出してしまうと途端に幸せな気持ちがしぼんで消える。
意識もまだはっきりしていない状態でのろのろとリビングに向かう。足取りは重い。
(昨日はここで…)
相変わらず静まり返ったリビングには人の姿はなく、座っていたはずの席はやっぱり空席だった。
(……)
ふと果物の甘い匂いがしてキッチンカウンターを見ると、そこには色々な果物が置かれており、リビングに置かれている机の上には1枚の紙が置かれていた。
ゆずる
いくつか果物を買っておいたから食べられるようなら少しでも食べなさい
他のものがいいなら前に渡したカードを使っていいよ
帰りは深夜になると思う
前と同じようにメモはそっけなく走り書きしてあるようだったが、それが父親なりの精一杯の気持ちであることがわかる。
「パパ…」
(夢じゃなかった…)
胸にこみあげてくるものでうまく呼吸が出来ない。
震える手でカウンターに載せられていたフルーツかごの中からブドウを1粒口に運ぶ。
「おいしい…」
口の中に甘さがじわりと広がった。
それから少しずつブドウを口に運び、1房食べ終わる頃にはすっかりお腹がいっぱいになっていた。
(ここずっとあまり食べてなかったからかな…)
母親がここにいた時でも普段から食は細かった。と、言うより味気がしない食事を事務的に口に運んでいただけだったからおいしいと満足感を感じることもほとんどなかったし、そんな食事に対して食欲が沸くわけでもなく、食に対する執着のようなものがほとんどなかったといった方が正しい。
そんな私の食事スタイルを見ても母親は
『タスクは帰ってきたばっかりでそんなに食べられないわよね』
『好きなものがあればそれだけでも食べてくれればいいわ』
と優しく言うだけだった。
手の込んだ食事も、栄養を考えて作られた献立も、そのほとんどが砂を呑みこむようなものでしかなかった。
食べ終わった皿をシンクで洗いながらその砂の感触を思い出し、何とも言えない気持ちになる。




