Phase6-3
しばらく沈黙が続いた。
沈黙の代わりに足音がだんだんと近づき、私の少し後ろで止まる。
「…おい、とっとと目の前の鍵の『コード』をとれ」
言われるままにのろのろと顔を少し上げると、目の前には空中に浮かんでいる鍵が見えた。
正親さんが私の横をすり抜けて、鍵の前でパスをかざす。
「お前もやれ」
左腕を上げて鍵に触れると、短い電子音が聞こえた。
「これで『扉』までいけば還れるぞ」
「あの…こ…この森はどうなるんですか?」
あたりを見ると、そこは地面がうねったまま止まり、多くの木は枯れ、枯れた木々がまばらに倒されている状態のままだった。
その風景をちらりと見た後私の顔を見て何かを考えたのか、溜息をつき頭を掻いている。
「ぁー…そこのボックス開いてみろ。そしたらわかる」
首でしゃくった先には小さな箱が置かれてあった。
開くと中から温かい風が外に向かって流れだし、その勢いに目をつぶると、あたりから甘い匂いと雨露に濡れた緑の匂いが広がっていく。
ふわりと風が止み、葉がこすれる音を拾って辺りを見回すと
「う…わぁ…」
最初に私が見た景色よりもずっと生命力にあふれた森の気配が、辺りを包んでいた。
どこからともなく鳥の鳴く声は聞こえ、かさかさと、まるで木々は話しかけるように揺れる。
「クエストクリアしてそれ開けると元に戻るようになってんだよ。それと…」
その箱の下に手をのばし、1枚の黒いラインが入ったカードを私の目の前に見せた。
「カード?」
そのカードをスポーツウォッチに当てる。
― スキルコード 『毒風』 ヲ コード化 シマシタ -
「このスキルコードが報酬ってわけだ」
倣って私も自分の腕輪で試してみると、カードから同じガイダンスが流れ、持っていたカードが消えた。
「スキルコードは『使い切り』と『回数制限付き』、『永久使用』がある。当然永久使用のスキルコードはそうそう手に入るもんじゃねぇけどな」
そいつは回数制限だ。と言われて確認すると、スキルの欄が新しく出来ていて、そこの1番上に毒風×2と書かれている。
「スキルは持ち物じゃなくてレベル依存だから、あがれば持てる数も増えるし強いスキルもダウンロード出来る。
レベルが強いと同じスキルを使っても威力が違うし、レベルが低いとダウンロード出来ずに道具扱いになるものもある」
「はい…」
「そのまま魔法みたいに使うことも出来るし、体の一部に付加して…っておい」
「?」
「…まだ浮かない顔してなんだよ」
「あの…森神は…どうなってるんですか?」
「おま…まだそんな事こだわってるのかよ…」
(こだわっているというか…)
「…心配しなくてももう1度ここのソロクエストやればぴんぴんして出てくる。PTクエストをやればさっきと同じように攻撃もしてくる。
ゲームなんだから当たり前だろ」
「そう…ですか」
(ゲーム…)
そうだ、これは『ゲーム』なんだ。多くのプレイヤーがこの世界にいる限り、クエストはなくならないし、1人のプレイヤーのせいでそのクエストがなくなってしまえばあっという間に世界が崩壊してしまう。
そうならないようにクエストの中に生きる者は永遠と与えられた役をこなさなければいけないし、プレイヤーはそのクエストをクリアしない限りこの世界から出られないというルールになっている。
(さっき正親さんが言ったとおりだ)
お前みたいな考えの人間はこのゲームでは生きていけないぞ
(少しでも匡に近づく手がかりをここで見つけなきゃいけないのに。しっかりしないとダメだ)
ぎゅっと唇を噛みしめていると、頭の上に温かい気配が触れた。
「進めていくとその内そんな考えを出来る奴はいなくなる。だから今捨てろとは言わない。お前の考えは…悪くねぇよ」
「あ…」
じんわりと温かいものが頭を伝って体の中に沁みていく。
「ほら、出口だ」
見たことのあるぽっかりと開けた場所の大きな樹木の根本に、古びた社は少し前に見た状態のままそこにあった。
その社の奥、ご神体が飾られているであろう場所は内側から光っており、その手前の空間には空に書かれた扉が映し出されていた。




