Phase6-1
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年老いた老婆が悲しみをこらえきれないといったかのように嘆く大きな叫び声があたりを包む。
それに呼応するかのように周りの木々が葉音を激しくこすり合わせた。それに機械的な声がさらに呼応する。
-エリアボス トノ戦闘 ニ 移行 シマス-
目の前にはミノムシのような頭からいくつもの葉や枝が覆いかぶさり、その奥の瞳と思われるものがぎらぎらと光っているのが見える。
正親さんのパスが警告した通りなら、それがこのエリアのボスであり、『森神』なんだろう。
その体がぶるぶると震えだすと、その振動で何枚かの大ぶりの葉が地面に落ち、紫色に変色していった。
さらに体を震わせることによって風に飛ばされ近くに落ちてきた葉も、地面に着くと同時にみるみるその色を紫に変え、ぶすぶすと紫色の煙を吐き出した。
(これが範囲攻撃ってやつ?)
正親さんに借りた虹色のショールの力で、相手から私の姿はどうやら見えなくなっているようだが、こういった範囲攻撃は見える・見えないに関わらずエリア全体に影響を及ぼすようだ。
ショールを傷つけないようにと出来る範囲でその葉を避けようとするが、葉っぱの数が多いし、吐き出される煙の量も決して少量じゃない。
あっという間に囲まれて、思わずその場にしゃがみこんだ。
(よ…よかった…指輪があって…)
きつく握りなおした右手の指輪が光り、その指輪からその風のようなものが流れ出ているのを感じる。
ショール越しに頭の上を見ると、薄い膜のようなものが張られていて、紫色の煙がそれより下、私に近い位置には煙が漂ってこないのが見える。
下を見ると、葉が撒かれて煙が漂っている地面は変色していて、生えていた雑草や小さな花は枯れ、みるも無残な姿に変わっている。
(毒…?)
それは私達プレイヤーだけではなく、森神が守ろうとしていたその森をも巻き込んで死地に変えてしまうようだ。
(ひどい…)
「ちっ…めんどくせぇな」
私のすぐ近くで、そんな悲惨な事態を焦りもせず、ただ面倒事を押しつけられたとしか思っていないような声が聞こえた。
左を見ると、煙の範囲攻撃をすれすれでよけながら、最小限の着地で攻撃を避けている姿が視界をかすめた。
(やっぱりこの人…すごい)
「スキルコード『疾風』使用。左足部に付加」
その言葉で左足に風の唸りが集まりだす。
その唸りで左足が淡い緑色に染まると、一直線に森神のもとへ走りだし、相手が声を張り上げて触手のような木の根を伸ばしたところを体を回転させて避け、背面から真横に蹴りを繰り出した。
老婆の短い悲鳴が風の唸りに掻き消され、紫色の葉がその唸りにおびえるかのように散り消えていく。
風が止んだ後には地面には葉1枚すら残っておらず、あたりは煙で毒されてすっかり変わってしまった枯れ木一面の風景。
その風景の中に老木のような今にも朽ちてしまいそうな細いシルエットの上に長い白髪をのせた1つの影だけが残された。
(あれが森神…)
森神はひゅーひゅーと風のような呼吸を繰り返している。
「ちっ、削り損ねたか」
そのまま後ろにいるのは危険と感じた正親さんが、いつの間にか私の横に戻ってきている。
「倒すんですか?」
思わず声をかけると、私がかけた声の方向へ振り向き
「当たり前だろ。レベル的に苦戦する相手じゃねぇ。心配するな」
「あ…」
自分で何を言いたかったのかわからず、声だけが漏れる。その声が聞こえて、正親さんの眉毛が歪められた。
「なんだ?攻撃でも喰らったか?」
「や…ちが…」
言い終わる前に膝をつけていた地面が揺れだした。見ると森神はその体を地面にこすりつけ、なにやら唸り声をあげている。
「!?おい!避けろ!!」
正親さんが手をのばすと同時に体が『ナニ』かによって高く持ち上げられた。
ぐんっと視界が高くなり、一瞬の出来事を把握するより前に体に『ナニ』かが締め付けられた。
「ぐ…っ」
私の体に巻きついた老木の根は今にも折れてしまいそうにボロボロなのに、締め付けられる力は見た目に反して強く、呼吸をすると同時に締め付けが強くなっていく。
「おい!」
下から聞こえる声には今度は焦りが交じっていた。
『存在を忘れ去られ』
「…え…」
『守るべき人間からも疎まれ』
『森はいつしか荒れて・・・枯れてしまった』
老木の空洞から伝わってくるものなのか、その声はやけにはっきりと聞こえた。
森神を見ると、地面に伏しているような恰好のため上からは長い白髪しか見えないが、その姿はまるで泣いているかのように見えた。
『ならばそのせめてもの償いに』
「まさか…自爆か…?滅多にやってこないパターンなのにこんな時に限って…」
森神の体の内側から光が急速に広がっていく。
「くそっ、間に合わない!」
『わが身を賭して再び森に命を・・・』
「ゆずるっ!!」
光が広がり、体が飲み込まれていった。




